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【第415話】最後の出陣

 皆との話を終えて部屋に戻ると、ヒスイがすうっと空中から姿を現した。


 エピジェネティック・ピクシーに進化してから、一人で居る時のヒスイは大抵、『潜在』を使って別位相空間にいる。


 別位相空間内の移動はできないらしいが、隠れるのには最適でかなり優秀な能力だ。


「お帰りなさい、なの、ご主人様」


「ただいまヒスイ。珍しね、起きてたの?」


「ヒスイは、ご主人様を待っていたの、です」


 何か特別に話したい事があるらしい。


「ご主人様。ご主人様は、ヒスイに名前をつけてくれた時の事、覚えているです?」


「え……ああ、もしかして、願いを叶えてくれる、だっけ?」


「はい、です。ヒスイはきっともうすぐ、ユルティーム・ピクシーになれるの、です!」


 それがどんな存在なのかはよく分からないが、ヒスイは確かに進化している。


 本人が言うからには、ヒスイはいずれそのユルティーム・ピクシーとやらになれるのだろう。


「そうなったら、お祝いしなきゃね」


「祝福はヒスイがご主人様に贈るのです! だから、今のうちに願いを考えておいてほしいの、です」


「願い、か……」


 特に欲しいものも、望む事もない。


 もちろん差し迫る問題はあるが、それは自分自身で解決するべき事だ。


「そうだなぁ、皆が幸せになればいいかな……」


「もっと、具体的に言ってほしいの、です……」


 ヒスイは困ったように眉根を寄せる。


 結局、その日は何も思いつかなかった。



◇◇◇◇◇



 翌日。


 シリューの行った偵察によって、ヴリトラの最終的な進行ルートがはっきりした。


 予測通り、サラフへ向かって直進している。


 迎撃地点への到達は明日の午前中。


 出陣前、集合した連合軍全員の前に立ち、直人は声高らかに宣言した。


「何としてもここでヴリトラを討つ! 君たちは各国から選ばれた精鋭だ。決して怯むな、諦めるな! 誇りと勇気をもって、共に戦おう! 相手がどんなに強大でも、俺たちは絶対に勝つ!!」


 兵士たちの上げる気勢が、大地をも揺るがす。


「ありがとう、ナオト。これで皆、心おきなく戦える」


「まあ、それはいいんですけど。何か複雑な気分っていうか……結局、皆を戦場に送るわけだから……」


 次々と出発して行く兵士たち。


 その列を眺める直人は、晴れない表情で肩をすぼめる。


「ああ確かに、彼らの何割かは生きて帰れないかもしれない。それは俺も同じさ。異世界から呼び出した君たちに戦う事を求める以上、俺たちだって血を流さなきゃならないんだ。君が気に病む必要はないさ」


 ドクは、ぽんっと直人の肩を叩いた。


「本当に感謝してる。絶対に勝とう」


「はい」


 固い握手を交わした後、直人は待機していた獣車に乗り込んだ。


 獣車が行軍の列に加わり、ゆっくりと離れて行くのを見送ったドクは、最後に出発するはずのシリューを探し呼び止める。


「シリュー、少しいいか?」


「忙しい総司令殿が、わざわざどうしたんだ? 大事な話しなら、帰ってからにしてくれ」


「まあまあ。配置に就いたら、話す機会もないだろう?」


 ドクはちらりとミリアムたちに目をやる。


 様子を察したミリアムたちは、何も言わずに自動車へと乗り込む。


「それなんだけど、総司令のあんたが、最前線に出るコトないんじゃないか?」


 通常、大軍の司令部は後方に置かれ、当然ながら司令官もそこに常駐する。


「これは、本来俺たちの戦いでもあるからな。安全な場所で報告を待つなんて、俺の性に合わない。それに、もし此処でヴリトラを止められずに俺が死んだとしても、第二第三の防衛ラインと作戦はある。君や直人たちが生きている限り、勝利のチャンスはなくならない」


 ドクは今までに見せた事がないくらい、真剣な表情と熱い口調で語った。


 もう既に、全ての覚悟ができているのだろう。


 だがシリューは、軽くあしらうように笑った。


「悪いなドク。あんたの企みは全部無駄になるよ。いや、俺が全部無駄にしてやる」


「シリュー……?」


「これが終わったら、あんたは気ままな吟遊詩人にでもなればいいさ。その方があんたに似合ってるよ」


「あ……ああ……ああそうだな、それもアリだな」


 硬かったドクの表情が、憑き物が取れたように緩む。


「で、話しってなんだったんだ?」


 思い出したようにシリューが尋ねる。


「ん? ああ、話し、ね……」


 ドクは少し間を置くように空を見上げた。


 それから一度深呼吸をして、シリューを振り向く。


「戦いが終わったら、()()()を正式な主賓として、王宮のパーティに招待しようと思って、な」


「じゃあ、それまでにマナーを教わっとくよ」


 お互いの拳をぶつけ、シリューたちはその場を離れ戦場へと向かった。


 最後の戦いが始まる。


 誰もがそれぞれの胸に、それぞれの思いを抱いて。

 





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