表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

421/429

【第412話】あの日の約束

 その後、二日間に渡ってシリューはヴリトラの偵察を続けた。


 無人の街を破壊したヴリトラは方向を変え、予測通りサラフを次のターゲットに定めた。


 夜は動きを止めているがけっして眠っているわけではなく、近づけば即座に攻撃を仕掛けてくる。


「闇夜の中じゃ、こっちが圧倒的に不利だな……」


 ただ、夜間は500m以上の距離では反応もなく、例え近づいて戦闘になっても、500mを越えて逃げればそれ以上は追ってこない。


「悪いなドク、そのくらいしか情報がなくて」


「いや、十分さ。夜はこちらも休めるって事が分かったんだからな。お疲れさん、シリュー」


 サラフ近辺に現れるのは、進行速度からみて二日後。


 途中の丘陵地帯に全軍を展開しヴリトラを迎え撃つ。


 当然の事ながら、近接戦闘を挑む勇者パーティーと銀の羽が、この作戦の主幹となる。


 連合軍の騎士団・魔導士団は、彼らのサポートと敵の攪乱。


 固定式魔導榴砲及び魔法弩弓(フレシェット)の魔導砲機は丘の上に設置し簡易結界で防衛、移動式の戦車部隊のうち一式はヴリトラへ攻撃を、二式は遊撃を担う。


 フレンドリーファイアを防ぐため、騎士団・魔導士団はヴリトラの右側、それ以外の火砲は勇者を援護する一部を除き左側に展開する。


 以上が作戦の概要だ。


 今回は直人もシリューも軍への指示は出さない。


 おそらくそんな余裕もないだろう。


「明日見、ちょっといいか?」


 最終会議の後、宿舎に戻ろうとしたシリューを直人が呼び止めた。


「あ、はい。えっと……」


 シリューはミリアムたちを振り向く。


「悪いんだけど、ちょっと明日見を借りるよ」


 どうやら自分たち召喚者だけで話そう、という事らしい。


「はい、ごゆっくりどうぞ」


 笑顔で見送るミリアムに手を振り、直人についてゆく。


「とりあえず、入ってくれ」


 案内された部屋に入ると、そこには既に有希、ほのか、恵梨香が揃っていた。


「どうしたんです?」


「ま、ま、座って。ね」


 シリューが尋ねると、有希が笑って椅子を勧める。


 円形のテーブルに椅子が五つ。


 シリューはその一つ、直人と有希の間に腰掛ける。


「えっと……」


 何の話しなのか、気にはなるが言い出せる雰囲気ではない。


 皆表情は穏やかだが、心に何か秘めているように見える。


 最初に口を開いたのは直人だった。


「なあ、覚えてるか? 初めてこっちに来た時の事」


 それはシリューだけでなく、全員への問いかけ。


「なんか、ちょっと懐かしいねぇ」


「あの時も、こうやって五人で話しましたね……」


 そう言われて、シリューはあの日の事を思い返す。


「そうですね」


 あれから随分と時間が過ぎた。


 色々な事が矢継ぎ早に起こったせいで、ゆっくりと思い出すような時間もなかったが。


「やっと、帰れるな……」


 直人は深く息をして呟いた。


 そしてシリューは悟る。


 今まで彼らがけっして表に出さなかっただろう思いに。


「これで、やっと……家族に会える」


 有希の瞳には、零れ落ちそうなほど涙が滲んでいる。


「お母さんの料理、早くたべたいなぁ」


「小学生の弟に、プラモデルを作ってやる約束してるんです……」


 ほのかと恵梨香は、少し俯いて笑みを浮かべた。


「でも、帰ったら受験地獄だけどな」


「それでいいんよ。今なら、どんな大学も合格できそう」


「それな。魔法とかは使えなくなるって事だけど、ここでの経験はぜってぇ無駄にはなんねぇ」


「直人くんは大学でも野球続けるんだよねぇ。僚くんは?」


「え……」


 不意に尋ねられて、シリューは戸惑う。


「俺は……」


「陸上、続けるんだろ? お前ならさ、オリンピックも夢じゃないって」


 正直、何も考えていなかった。


「それも、悪くないかな……」


「で、直人はメジャーを目指す?」


「いいですね、男の子は夢があって」


 すかさず有希と恵梨香が冗談めかして笑う。


「お前らだって、何かあるだろ」


 皆、さっきまでの焦りや緊張がほぐれたようだ。


「明日見」


 直人がいきなりシリューに真顔を向ける。


「あの時の約束だ。大災厄をやっつけて、元の世界に、俺たちの世界に帰ろう。俺たち五人で、さ」


「そう、ですね……」


 はい。と答えられず、シリュー返事は曖昧なものになってしまった。


「僚くん? まさか、帰らないわけじゃないよね?」


「いや、そんな」


 ほのかが怪訝な顔で尋ねたが、シリューはそれにも言葉を濁し、「用事があるから」そ、早々に部屋を出た。


「……元の世界、か……そうだよな」


 直人たちの心は、もう既に故郷へと向いているのだろう。


「俺は……」


 心が揺らぐ。


 残して来た友人たち、届かなかった目標、捨てきれない思い出の数々。


 大好きだった珈琲の味も香りも、もう思い出せなくなってしまった。


 自分の宿舎へ向かう途中。


「シリューさん」


 大きな広葉樹の幹にもたれたミリアムが、シリューを呼び止めた。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 そう言えばシリューだけが分裂(?)したのか⋯⋯。 ⋯⋯アレ? もしかして美亜さんが関係してる?
美亜の転生体も、ミリアムたちもこちらにいるのに 地球へ帰るメリットが薄いですねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ