【第411話】シリューは笑う
翌日。
昼を過ぎる頃には、サラフの街に全ての連合軍が集結した。
現地のオルレーン軍一万、ビクトリアス四千、エルレイン四千、ガイナン二千、そしてドクの率いるアルフォロメイ軍が五千。
正規軍二万五千に加え、冒険者ギルドから選ばれたA・B・Cランクの冒険者が五百名。
その八割が戦闘部隊で、二割が補給や兵站を担う後方部隊により構成されている。
これまでにない大規模戦力の総司令に選ばれたのは、禍害即応機構の長官でもあるジョシュア・ドク・スカーロックだった。
「やれやれ、とんでもない役が回ってきたな……」
いつも飄々としたドクもさすがに緊張しているようで、硬く引きつった表情を隠せていない。
「なかなか堂に入った演説だったじゃないか。ま、あんたなら大丈夫。自信持ってやれよドク」
「ああ、ありがとうシリュー。君にそう言ってもらえると、本当に大丈夫な気がしてくる」
第一回目の作戦会議を終え、人目を避けた場所でシリューとドクは、忖度のない会話を交わす。
「ところで、アスラの動向も気になるんだが……」
「それな。実は昨日、ヴリトラの攻撃を受けた時、誰かが介入してきて、そのお陰で死なずに済んだ」
「おいおい、随分気軽に言ってくれるな。ま、いいか。それで、その介入がアスラだったと?」
シリューはその時の事を思い返し頷いた。
あの時、頭の中に響いた声はおそらくアスラのものだ。
「アスラは、やはりヴリトラを……大災厄を狙ってるのか、1500年前と同じように?」
「たぶん、な。俺を助けたのも、そのためだと思う」
1500年前も、アスラは勇者たちが大災厄を追い詰めた直後に割って入りとどめを刺した。
「つまり、自分で倒す必要があるけど、お膳立ては君たちに任せようって事か」
オルタンシアの身体を宿り木にしている今のアスラに、大災厄を一人で倒し切るまでの力は無いのだろう。
「とにかく、ヤツより先に大災厄を倒す」
「それしかなさそうだな」
今のところ、それ以外に対策の打ちようがなかった。
「それで、ナオトたちにはどこまで話してるんだ?」
「昨日の件は話してない。それから、アスラがもう一人の俺だって事も。あとは……だいたい話した、と思う」
「そうか。ま、無難なところだな。俺も気を付けとくよ」
頼む、の一言でシリューは話題を変える。
「あんたの方はどうなってる?」
アルフォロメイ軍の戦力がどれだけのものなのか。
「報告を聞いた時には、正直戦いにならないと思ったけど、君の提案してくれた新兵器が役に立ちそうだ」
「何機ある?」
「驚いてもいいぞ、シリュー。なんと50機だ」
ドクの言う新兵器とは、シリューの発案で開発された移動式魔導榴砲の事だ。
これは牽引・固定型である魔導榴砲をカスモリプス(体長4m程のトリケラトプスに似た大型の魔物)の曳く被牽引車に架装し、走行しながら発砲できるようにした現代でいうところの戦車である。
「50か。短期間でよくそれだけ揃えられたな、流石だよ。それで、内訳は?」
「単発高火力の一式が30機、連射の二式が20機だ」
二式がそれだけあれば、従魔竜にも対応できるだろう。
今回、アルフォロメイ軍はその戦車部隊を中心に編成されている。
「頼むぞドク。きっとあんたたちがこの戦いの要になる」
「ああ、任せてくれシリュー。君やナオトの舞台は整える。だから絶対にヴリトラを倒してくれ」
大災厄を倒せるのは、異世界から召喚された勇者のみ。
だが、勇者たちの役割はそれだけではない。
この世界の生物は活動する為にマナを消費し魔力を使う。
消費されたマナは魔素(瘴気)として排出され、その魔素が魔物を生む。
そして数百年に一度、世界中を覆いつくす程の魔素が一つに集まり、この世界を滅ぼしてしまう規模の大災厄が具現化する。
勇者には、大災厄を形作る大量の瘴気を浄化するという、もう一つの極めて重要な役目があった。
この世界の人々だけでは解決できない、明らかに不完全なシステムだが、これも『管理者メビウス』の思惑なのかもしれない。
そこにどんな意味があるのか、おそらく聞いても答えるはずはないし、聞いたとしても理解はできないだろう。
だが今のシリューに、そんな事はどうでもよかった。
「あんたの詩も、これで完成するさ」
シリューは涼やかに笑った。
世界のためでも、栄光のためでもなく。
ただそこにある、愛すべきものたちのために。




