【第410話】乙女たちの誓い
「夕食後、皆さんで少しお話しませんか?」
シリューの部屋を出ると、パティーユがミリアムたちにそう声をかけ、シリューも勇者一行も抜きで集まる事になった。
宿舎の個室は、五人で話しをするには狭すぎるため、宿舎のブリーフィングルームを借る。
幸い、直人たちの宿舎は別棟に用意されていたので、余計な気を回す必要も、彼らに訝しまれる事もない。
宿舎の管理人には単なる女子会だからと給仕を断わり、それぞれがお茶や軽食を持ち寄った。
「それで、お話しって何でしょう?」
皆のお茶を淹れ終えたミリアムが、緊張ぎみに切り出す。
パティーユの雰囲気から、気楽な女子会というわけではなさそうだ。
「実は、少々気になっている事がありまして……アリエル様に伺いたいと」
「いいよ、でもその前に……」
アリエルは頬に指を添えて、四人に視線を巡らせる。
「様、はやめてほしい。アリエルでいいよ。敬語も要らない」
同じ魂を持つ者同士、身分も立場も関係なく皆平等であるべき。
それがアリエルの理念。砕けて言えば、
「トモダチになりたい」
という事だ。
「そうですね。では、公式の場以外では、みんな呼び捨てで呼ぶことにしましょうっ。話し方もそれぞれでっ」
パティーユの声が弾む。
「ええと、皆がそれで良ければ、私は構わないかな」
「私も、その方が気楽でいいわ」
クリスティーナとハーティアの目が、ミリアムに向けられる。
「わ、私っ、私は……はい、あの、善処しますっ」
元々、一人だけ平民のミリアムには、少々ハードルが高いようだ。
「決まりだね。それで、聞きたい事って?」
アリエルは、改めて話題を進める。
「はい。ここに来る前、アリエルは『大災厄が出現すれば、彼もきっと現れるはず』と言いました。私たちにとって最も重要な真の戦い、とも」
「うん」
その『彼』、がアスラの事を指しているという事は、皆もう分かっている。
「何故、アスラが此処に現れると思ったのかを知りたくて。ただの勘、ではありませんよね?」
パティーユの問いに、アリエルはしっかりと頷く。
「1500年前、彼は勇者がとどめを刺す直前に、大災厄と一体化した。ううん、採り込んだって言った方がいいかな。とにかく、それが魔神の起源になった。魔神としての完全な復活を目指している彼は、今回もきっと大災厄を採り込もうとするはず」
「でも、アスラにはもう、1500年前みたいに肉体は残ってないですよね?」
ミリアムが疑問を投げかける。
アスラの肉体は灰となって消えた。
それはアリエル自身が話してくれた事実だ。
「身体が無いのに、どうやって復活するつもりなのかな。えっと、オルタンシアだっけ? 彼女の身体を使う、とか?」
クリスティーナが口にした疑問に、アリエルが首を振る。
「それはどうかな。彼は、『復活を遂げるまでの間、この身体を使ってやっている』って言ってた。仮住まいだ、とも」
「という事は……他に何か確実な、代わりになるものがある……」
ハーティアはもう、その答えに手を掛けたようだ。
「そう確信してるんでしょうね……」
皺を寄せ、深く沈んだ声でミリアムが呟く。
「ま、まさかっ」
二人の様子に、パティーユは思わず声をあげた。
「僚を……僚の身体を奪い取るつもりなのですか!?」
ミリアムとハーティアが、苦い顔でパティーユの言葉を認める。
「心臓の封印が解けた時、アスラはそう言ってました」
「〝我と一つになれ……お前は我と一つに戻る。世界への復讐の始まりだ〟だったかしら? そうそう、〝殺して身体を奪う〟とも、はっきり言っていたわね」
「そうか……だから、私たちにとって最も重要な真の戦い、なんだ」
果敢な笑みを浮かべるクリスティーナには、少しの迷いもない。
大災厄『ヴリトラ』との戦いを越えて、シリューを守るための戦いが彼女たちを待っている。
五人の誰も、恐れも怯みもしない。
「そう。そして……最後の戦いになる」
アリエルは表情を変える事もなく、まるで物語の終わりを告げるかのように囁く。
「最後の……」
それが意味するもの。
「戦いが終わって、アスラと決着がついたら……シリューさんは、どうなるんでしょう。どう……するの、かな」
不安げな表情を浮かべたミリアムの視線が、拠り所を求めるように漂う。
「それはわたくしにも分からない。どちらかが消滅するのか、元の一人に戻るのか。それとも、どちらも……いいえ、それは考えたくない」
アリエルは続ける。
「彼はきっと無事に生き残る。そして、幸せになる。彼が選ぶ世界が、たとえわたくしたちと繋がっていなくても、わたくしたちの決意は変わらない」
「そう、ですね」「ええ」「そうだね」「もちろんよ」
ミリアムが、パティーユが、クリスティーナが、ハーティアが。
愛する者のため、ひたすらに命を懸ける。
運命の乙女たちは今、ただ一つを誓った。




