【第409話】誤魔化せません!
大まかな戦術を決めたところで、詳細な作戦については連合軍が揃う明日、本格的な会議を行う事となった。
また、オルレーン軍の指揮官には、現在ヴリトラが向かっていると予測される街へ直ちに伝令を出し、全住民を避難させるよう指示した。
シリューが帰還の途中で立ち寄る事も考えたが、見ず知らずの男がいきなり避難しろと言ったところで、誰も聞く耳を持たなかっただろう。
「じゃ、ちょっと疲れたから、俺は部屋で休むよ。ああそれと、食欲も無いから晩飯も呼ばなくていいよ」
シリューは誰よりも先に部屋を出て、砦に隣接する宿舎に向かった。
平静を装ってはいたが、もう限界に近い。
歩くどころか、立っているのがやっとという状態だ。
ミリアムかパティーユに治癒魔法を掛けてもらえばいいのだが、余計な心配や気遣いはさせたくなかった。
「ああそうか、こっそりエマーシュさんに頼めば良かった……」
大人の彼女なら、シリューの心情を考慮してこっそり治療してくれたかもしない。
今更戻る気力はないが。
「ご主人様、大丈夫、です?」
ヒスイが心配そうに覗き込む。
「大丈夫だよ。だから、皆には内緒な」
「はい……なの」
納得のいかない顔をしていても、基本ヒスイはシリューの言葉に逆らわない。
「ってか、何本折れてんだ、これ……」
人に見られていないのを確認しながら時々壁にもたれ、手摺にしがみ付いて階段を上がり、息も絶え絶えに部屋に辿り着きベッドに倒れ込む。
「セクレタリー・インターフェイス。魔法が使えるまであとどれくらいだ」
【21時間32分17秒です】
「まだそんなに……ああくそ、やばいな、これ……っ」
緊張の糸が切れたせいか、一気に痛みが襲って来る。
「く、うっ……やっぱ、ミリアムに話せば、よかったっ……」
枕に顔を埋め、痛みを堪えて声を押し殺す。
「そうですね、何で素直に言ってくれなかったんですか?」
空耳かと思い少し顔を上げると、ベッドの傍にはミリアムが立っていた。
「え、ミリア、ム……?」
「はい、ミリアムです」
「私たちもいるけどね?」
クリスティーナにハーティア、もちろんパティーユとアリエルの姿も。
「真っ先に出て来る名前がミリアムか……少し妬けるわね」
ハーティアが何となく呆れた顔で微笑み、クリスティーナとパティーユも仕方がないと頷く。
アリエルの表情は相変わらず読めない。
「えっと……なんで?」
そう。問題は皆が何故、いつの間に部屋に入ってきたのか。
「ドア、空いていましたよ?」
パティーユが振り返ってドアを指さす。
「ああ……」
言われてみれば、閉めた覚えがない。
「あ、いや、そうじゃなくて……どうして皆が……」
「話している間ずっと、辛そうだった」
アリエルの言葉に、皆うんうんと頷く。
「日向殿たちは気付いてなかったけど、私たちの目は誤魔化せないよ、シリューくん」
クリスティーナがぴんっと指を立てて笑った。
上手く誤魔化せたと思っていたのだが、そうでもなかったようだ。
「私たちとの約束も守らないで、結局一人で大災厄に挑むなんてね」
「情報のためとはいえ、相変わらず無茶が過ぎますよ、僚」
頬を膨らすハーティアとパティーユの声は、少しだけ怒っているようでいつもより1オクターブ低い。
「いや、えっと……何で……?」
できるだけ直接的な表現を避けて、戦った事を悟られないように話したはず。
「あれだけ事細かな情報、実際に戦ってなきゃ得られないでしょう? 誰だってそう思いますよ? アホの子ですかシリューさん」
「……アホの子にアホの子呼ばわりされたくない……」
シリューは、囁くような声で思わず呟いてしまった。
「ん?」
「あ、いえ、何でもアリマセン」
幸い、はっきりとは聞こえなかったらしい。
「シリューさん」
「はい」
「怪我、してるんでしょう? 我慢しないで、ちゃんとそう言ってください」
ミリアムの顔から剣が消え、労わるような物腰に変わる。
「じゃないと、みんな心配します」
「うん、ごめん……」
シリューは一人一人としっかり目を合わせ、結局は心配を掛けてしまった事を謝った。
「とにかく、治療しますね。自分でできないんでしょう? 後で、もう少し話を聞かせてください」
そう言ってミリアムはパティーユと頷き合い、二人同時に治癒魔法を唱えた。




