【第408話】帰還
「痛っ」
翔駆の足場を蹴る度、体中に激痛が走る。
「ヒール」
思わず治癒魔法を唱えるが、当然発動しない。
「ああ、クールタイムか……」
肋骨が数本と、左腕も折れているようだ。
後は右の鎖骨か。
両脚が無事だったのは幸運だったが、サラフの街まで帰れるだろうか。
「この辺で、一日休んでいこうかな……」
そんな事をすれば、ミリアムたち皆に心配を掛けてしまう。
シリューは歯を食いしばり、時折気が遠くなるのを堪えて、サラフまでの距離を飛び続けた。
「換装」
街の直前で蒼の装備に切り替え、ゆっくりと地上に降り要塞の幹部用会議室へと向かう。
「これは、龍牙戦将閣下。お疲れ様でございます」
入口の前で、見張りの兵がシリューに気付き敬礼した。
「どうも。勇者様方は、中に?」
「は、皆様お揃いでございます」
兵士が扉を開けようとするのを一旦制止し、シリューは大きく深呼吸をする。
それで痛みが和らぐ訳ではないが、少しだけ気分は落ち着く。
シリューが頷くと、兵士は扉を開けた。
「シリューさん!」
真っ先に気付いたミリアムが弾んだ声をあげる。
「ただいま」
「おう、お疲れ」
「お疲れ様」
一通り挨拶をして、シリューは椅子に腰を下ろす。
平然とした表情は崩さない。
「どうだった?」
皆を代表して直人が尋ねる。
「ええ、先ずは……」
シリューは偵察によって知り得た情報を、事細かに説明した。
「……と、まあ、こんなところです」
シリューの話しが終わると、皆硬く蒼ざめた表情になった。
無理もない。
実際に対峙したシリューは、皆以上に驚愕したのだから。
「地形を変えるほどのエネルギー波、ですか……聖域と簡易結界で防げるかどうか……」
既に戦術を練っているエマーシュは、誰に言うでもなく呟く。
「覇力の攻撃が無効化されるとなると、使える技は多くないな……」
クリスティーナの剣技は達人級だが、ほとんどは覇力を使う。
「けど、魔力を乗せる技は効くんだろ?」
逆に、直人や有希の技は魔力を使うものが多い。
「シリューさんっ、身体強化も有効なんですよね。なら、私は戦鎚で直接殴れます!」
「あ、あたしもあたしもっ」
「却下」
「「ええっ、即決っ!?」」
ミリアムと有希の意見は無かったものとする。
そんな危険な真似をさせられるはずがない。
「わたくしのエネイブルは、魔力と理力によって光の矢を撃つから、十分効果があると思う」
「私の弓術も、魔力を理力でコントロールするので、いけると思います」
アリエルの神弓エネイブルと恵梨香の弓術は、確かに有効な手札の一つだ。
「上位魔法しか効果がないのね……」
「しかも、たいしたダメージにはならないみたいだしねぇ」
こちらは魔導士のハーティアとほのか。
二人とも眉をひそめ、難しい顔をしている。
「それに……魔法が届く距離まで、どう近づくかが問題ですね……」
パティーユの投げかけた疑問に、誰も答えられずに黙り込む。
「あ~えっと……」
微妙な沈黙を破り、口を開いたのは直人だった。
「結局さ、俺と明日見が近接で攻撃するしかないんじゃね? 空中戦ができるのも俺たちだけだし」
「ちょい待ち。空中戦ならあたしだって」
有希が手を挙げて反論する。
「私も、紫の装備を使えば、結構いけますっ」
ミリアムも有希の言葉に触発されて立ち上がった。
「魔力の技なら使えるし。うん、問題ないな」
クリスティーナが剣の柄をぽんっと叩く。
「魔法で押すしかないのでしょう? それなら、ヴリトラの足元でキツイのをお見舞いしてあげるわ」
ハーティアは目の前に掲げた拳を握る。
「当然、支援魔法も必要ですよね」
ぴんっと指を立てて、パティーユは微笑む。
「守りは私にまかせて」
ほのかが、自信に満ちた顔で胸に手を添えた。
「露払いはわたしと……」
恵梨香は、同じく弓使いのアリエルに目を向ける。
「わたくしが」
それに応えてアリエルが大きく頷く。
「ちょっと待った、それは危険過ぎる。さっきも言ったけど……」
「シリューさん!」
「僚君!」
ミリアムと有希が同時に声をあげた。
「相手は大災厄で、私たちが行くのは戦場です。どこにも、安全な場所はないんです!」
「そう。そしてあたしたちは、大災厄と戦うためにここにいるの。守られる側じゃなくて、守る側なんだよ!」
守られる側ではなく守る側。
以前、同じ事をハーティアに言われた事がある。
そのハーティアに目を向けると、彼女は僅かに目を細めた。
「明日見。こうなったら、もう誰も引かねえぞ」
直人はそう言って、シリューの肩を叩く。
「うん、そうだな……俺たち全員、近接でいこう。まあそれに、ヴリトラも自分の足元にエネルギー波は撃てないだろうし、逆に安全かもな」
何気なく口にしたシリューの言葉だったが、エマーシュはそこに戦術の糸口を見た気がした。




