【第407話】介入
従魔竜15体を倒しても、ヴリトラは全く注意を向ける気配がない。
まして本体への攻撃など、蚊に刺された程度にも感じていないのだろう。
それ程にスケール感が違い過ぎる。
それは則ち、シリューを敵と認識していないという事だ。
ヴリトラ自体がどんな火力を持ち、どんな攻撃を仕掛けてくるのか。
「まさか、ただ歩いて圧し潰すだけじゃないよな?」
勿論、それだけでも十分脅威なのは変わらないが、戦闘において警戒すべきは従魔竜だけとなり、ヴリトラの攻撃に備える必要がなくなる。
だが、本当にそんな都合の良い事があるのか。
それを確認するには、ヴリトラに攻撃させるしかない。
従魔竜の群れが間近に迫る。
何体倒せばシリューを敵と認めるだろうか。
「くらえっ、重空撃波! 爆轟! アンチマテリエルキャノン! 極光の雷撃! レイ!」
上位魔法による連撃。
ガトリングやホーミングアローほどの連射性はないが、災害級並みの従魔竜を確実に引き裂いてゆく。
だが、倒した数が50体を超えた時。
【警告。魔法の過剰使用です。直ちに魔法を停止してください】
突然、セクレタリー・インターフェイスが警告を発した。
にもかかわらず、視界に表示された警告の赤い文字を無視して、シリューは魔法攻撃を続ける。
それから更に20体を倒した直後。
全ての魔法が停止した。
「なに!?」
【上位魔法の連続使用により、マナの魔力変換機能が限界に達しました。機能不全を防止するため、魔法発動を一時停止しクールタイムに入ります】
「魔力変換の限界? クールタイム?」
どちらも初めて耳にする言葉だ。
【魔力の放出超過が起こったため、魔力濃度が著しく低下した状態です】
「よく分からないけど、過呼吸を起こしたみたいになったって事か……で、クールタイムはどれくらいだ?」
【23時間59分47秒です】
「い、一日!? 長すぎだろっ」
そうはいっても、使えないものは使えないのだから諦めるしかない。
「ま、限界を知れたのは良かったのかもな」
今回の目的は敵の能力を調べる事だ。
幸い、従魔竜には覇力による攻撃も通る。
シリューの行動を察知したのか、従魔竜はそれ以上近づかずに散開し、一斉に光弾を撃ってきた。
少しずつ後退しながら、一つ一つの光弾を躱す。
だが何かおかしい。
あえて躱しやすい所へ撃っているような気がしてならない。
「誘導されてる?」
そう思った矢先。
周りの空気が震え、至る所で放電の閃光が走る。
「は!?」
強烈な圧迫感を覚えて目を向けるとヴリトラが右の頭をもたげ、大きく開いた口に強大なエネルギーが収束しつつあった。
「やばっ」
次の瞬間。
超高温の赤黒いエネルギー波が、プラズマと轟音を伴って発射された。
「くっ」
上昇し辛うじて躱した先に、従魔竜の光弾が集中する。
「ユニヴェールリフレクション!!」
咄嗟に展開した理力の盾は、数発の光弾で崩壊。
「換装!」
白の装備を装着した直後、光弾の直撃を受けた。
「うぐっ」
爆発の衝撃で息が詰まり眩暈が襲う。
身を翻しながらシリューの目に映る、ヴリトラのエネルギー波が大地を抉り丘を破壊する瞬間。
そして二発目の着弾。
大きく吹き飛ばされ、上下の感覚が曖昧になり落下してゆく。
「く、そっ」
落ちる前に翔駆の足場を展開し、何とか姿勢を制御する。
だが、そこにも多数の光弾が。
躱すだけの時間が無い。
理力の盾も間に合わない。
歯を食いしばり、衝撃に備えた時。
透明のドームがシリューを包み、光弾の直撃を防いだ。
更に。
幾条の黒い光線が次々と光弾を迎撃し、従魔竜をも撃墜する。
「なん、だ……」
初めて見る魔法だった。
いや、魔法かどうかも分からない。
ユニヴェールリフレクションとは異なり、盾というより結界に近い防護壁。
威力も見た目も光魔法のレイに似た、黒く光る線条の魔法。
「誰だ、いったい」
視線を巡らしても姿は見えない。
姿を現さない相手を探るよりも、今は仲間たちに情報を伝える事を優先するべきだろう。
「悪いけど、礼は今度会った時だ」
シリューは反転し、その場から飛び去った。
その様子を、遠くから見つめる影が一つ。
「「良かったんですか?」」
「「ああ、今死なせるわけにはいかないのでな」」
「「ほう……つまり、彼はあなたが倒す、と?」」
「「さあな。貴様が気にする必要はない」」
「「ええ、そうでしょうとも」」
オルタンシアは呆れたように肩を竦める。
「「それで、アレはどうします?」」
アレ、とは勿論大災厄の事だ。
「「放っておけ。今はな」」
「「まあ、どのみち私たちだけでは、勝てませんからねぇ」」
向かって来る従魔竜の一団を気にも留めず、オルタンシアは姿を消した。




