【第403話】知らせ
アストワールに滞在中のシリューへ、禍害即応機構代表であるジョシュア・ドク・スカーロックから火急の知らせが届いたのは、それから二日後の事だった。
因みに、アストワールには閃光灯火灯台を使った情報速達網が無いため、早馬により手紙が届けられた。
「シリューさん、ドクさんは何て?」
手紙を読むシリューの表情が、たちまち厳しくなるのを見て、ミリアムは少し不安そうに尋ねる。
「うん……どうやら、大災厄が出現しそうって事だ」
「だ、大災厄ですって!?」
「それで、場所は?」
手に持ったティーカップを、落としそうなくらい驚いたハーティアに比べて、クリスティーナは冷静さを崩さなかった。
「アルフォロメイの南で、エルレインからは南西にある、オルレーンって国だそうだ」
「オルレーンか……連合の一つで、ガイナン王国と同規模の国じゃな」
少し憂いのある顔でエリアスが呟く。
「遂に、この時が来たのですね……」
パティーユは、ぐっと握りしめた拳を見つめる。
元より彼女は、この時のために準備してきたのだ。
「日向さんたちは、ビクトリアス皇国から直接向かうそうだ。俺たちも、至急合流してくれってさ」
手紙の最後に、そう締めくくられていた。
「大災厄が出現すれば、彼もきっと現れるはず」
アリエルが付け加える。
シリューたちにとって、最も重要な真の戦いが始まる、と彼女は言う。
「すぐ、出発しますか?」
「ああ、そうだな……」
ミリアムに問われ、シリューは確かめるようにアリエルへ目を向ける。
「うん、大丈夫。準備はできてるから」
アリエルはしっかりとシリューを見据えて頷く。
ここ数日、執務や兵事、その他祭事・式典について引継ぎを行い、旅立つ用意も既に完了していた。
「ヒスイも、最後までご主人様についてゆくの、です」
反魔導領域が停止し、すっかり元気になったヒスイが、シリューのポケットから飛び出す。
「分かった。じゃあ、行こう」
それから一時間ほどで馬車の準備が整う。
そして、いよいよ出発の時。
「後の事は任せておけ。そなたはそなたの役目を果たし、思う存分に駆けてみるがよい。そなたの想いの成就を願っておるよ、アリエル……どうか、無事でな……」
馬車に乗り込むアリエルの手を取ったエリアスは、感慨深い表情で妹の人生の節目を見届ける。
「うん、お姉様も、元気でね」
エリアスの手にそっとじぶんの手を重ね、ぎこちなくも笑顔をつくりそれに応えたアリエル。
「姉上、シリュー様、そして皆様。ご多幸を祈念いたします」
セオウィンはアストワールを救い、これから大災厄との戦いに赴く一同に、最敬礼で感謝を贈った。
「シリュー」
最後に乗り込もうとしたシリューを、エリアスが呼び止める。
「アリエルを……いや、よそう……達者でな、シリュー」
エリアスが何を言いかけたのか、シリューにそれを確かめつもりはない。
「ああそうだ、王都のクランハウス。また時々換気してもらっていいですか? 一年分家賃を払ってるんで」
アリエルは何の事かと首を傾げるが、すぐさまその意味に気付き頬を緩めた。
「ああ、分かった。手配しておこう」
「よろしく。じゃあ、また」
「うむ。またな」
シリューは涼しげに微笑んで、馬車に乗り込んだ。
城の正門を抜け大橋を渡り、馬車は遠ざかってゆく。
エリアスとセオウィンは、その姿が見えなくなるまで見送った。
三日後。
王都に着いたシリューたちは、クランハウスにも立ち寄らず自動車に乗り換え、オルレーンに向けて出立。
その翌日には、先行したドクと彼の部隊に追い付いた。
「早速足を運んでもらって悪いな、シリュー……って、そちらのお方は、まさかっ……」
シリューたち一行を迎えたドクは、アリエルの姿に息を呑む。
「アストワールのアリエル・ミュラトールです」
「あ、わ、私は、禍害即応機構の代表、ジョシュア・スカーロック。お会いできて光栄です、アリエル様」
ドクは慌てて居住まいを正し、アリエルに最敬礼する。
今回ばかりはドクに一泡吹かせてやれたようだ。
「それで、状況は?」
「ああ、エマーシュさんの推測通りだ。昨日、オルレーンに現れたらしいんだが……」
ドクの表情が一変して曇る。そこにいつもの余裕は感じられない。
「あんたでも、そんな顔をするようなやつなのか?」
「体高200m、体長1000m以上って聞けば、君だってこんな顔になるさ、シリュー」
「なっ……」
今まで戦ってきた魔物と、比べものにならないほどの巨体。
もはや想像さえできないレベルだ。
だが、怖気づいてはいられない。
「ここからは、俺たちが先行する」
「ああ、よろしく頼む。ナオトたちも向かってるはずだから、先ずは彼らと合流してくれ。それと……悪いな、また君に頼る事になりそうだ……」
ドクは申し訳なさそうに頭を下げる。
「これも仕事さ。ま、報酬はがっつり請求するから、覚悟しといてくれ」
お道化て見せるシリューの心にも、口振りほどの余裕はなかった。




