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【第401話】運命の乙女

 誰も口を開こうとしない。


 今の心境をどう言葉にすればいいのか分からない。


 自分だと思っていたものが、実はそうではなかった。


 自分の中にあるのは、アリエルから分離した魂の一つ。


 では、自分自身が持っていたはずの魂は何処にあるのか。


 それとも、そんなものは初めから無かったのか。


 自分のなかで、自分の存在が揺らぐ。


 ミリアムが、ハーティアが。


 クリスティーナが、パティーユが。


 四人が例外なく動揺し、同じ考えに至り、正しい答えを求めて迷い躊躇い探っていた。


 彼女たちだけではない。


 シリューとエリアスも、同様に戸惑っていた。


 それから、どれくらい経ったのだろう。


「私……」


 永遠に続かに思えた沈黙に、ミリアムが終止符を打った。


「私は、私、ですよね。アリエル様の一部じゃない……私の魂も心も、全部私だけのもの。だって、私は   私の意志でここに来たんです、誰かに言われたからじゃありません。今までだってそう。私は、私の心に従って生きてきて、シリューさんに出会って、そして好きになった。それが運命だったとしても、私はそれを選んだ。シリューさんを救いたい。それは、私自身の願いで、私だけの想いです」


 それから、少し息を荒げて立ち上がり、ハーティアを、クリスティーナを、パティーユを見据える。


「そうね、私もそう。私の想いは、私だけのもの。恩を返すためではなく、私はただシリューの力になりたい、傍にいたい」


 姿勢を正し、ハーティアは強く拳を握った。


「ああ、私もだ。誰かに言われたわけじゃない、運命も関係ない。私は、私自身に、シリュー君を支えると誓った」


 クリスティーナは傍らの剣をとり、僅かに鞘から抜いて再び納める。


「私は……一度過ちを犯しました。だから、どんな罰でも受け入れます。でも、僚のために、僚を守るために、命を懸ける自由を選んだのは、私です」


 胸に手を当てて、パティーユは毅然とした態度で明言した。


「そうだね、元は同じ魂から分かれたものでも、一つ一つ、それは決して同じものじゃない。だから、あなたたちの心は、あなたたちもの。出会う事は運命だったけど、何を選択してどう生きるか、決められるのはあなたたちだけ。今までも、そして、これからも」


 それが答えだった。


「終わらせる事ができるのは、わたくしたちだけ」


 五人の『運命の乙女』は、それぞれの意志で絆を築き、唯一の道を選んだ。


「みんな……ありがとう……」


 シリューはただ一言、感謝の気持ちを伝えた。


 だが、まだ終わりではない。


 本当の戦いは、これから始まるのだ。


「そなたに、そのような事情があったとはのう……」


 エリアスがそっとアリエルの前に立ち、優しい眼差しを向けた。


「たった一人で抱え続けるには、1500年はあまりに永すぎる。たとえ感情を失っているとはいえ、さぞ耐え難く辛い事であったじゃろう」


 その辛さに耐え抜くために、メビウスはあえて感情を奪ったのかもしれない。


「のう、アリエルよ……」


 エリアスは、妹の顔を神妙な面持ちで見つめる。


「この話を妾にしたという事は……そなた、此処を出るつもりじゃな?」


「……はい、お姉様」


 アリエルは素直にそれを認めて頷く。


「セオウィンに指揮を任せたのも、その為だったという事か……」


「セオウィンは立派に戦った。信望も厚い。でもまだ、少し未熟だと思う。だからお姉様、あの子の事を導いてほしい。あの子が一人前になるまで、アストワールをお願い」


 懸命に願うアリエルの表情には、彼女が失ったはずの感情が、ほんの僅かながら滲んでいるように見えた。


 エリアスは目を閉じ、深く息をしてその意味を思案する。


 いや、考えるまでもない。


 答えは1500年前から決まっていたのだ。


「……本来ならば、アストワールの統治も世界樹の守護も、姉である妾の役目。じゃが妾には、そなたのような強い魔力も能力も無かった……それを言い訳に、父の説得にも耳を貸さず、全てをそなたに押し付けてしまった……」


 もちろんエリアスにはエリアスの考えがあっての事だった。


 あの当時、魔神によってほぼ全ての国が壊滅状態に陥っていた。


 荒廃した世界を復興させるため、エリアスはアストワールを出奔し、同士を集めて、世界を繋ぐ新しい組織を立ち上げたのだ。


「世界のため、と言えば聞こえは良いが……妾は自由が欲しかっただけなのじゃ……それなのに、それを知っていたはずのそなたは、妾を責めないどころか、笑顔で見送ってくれた」


「うん。あの時は、それが一番いいと思ったから。でも、ちゃんと笑えていたかな」


 感情はなくとも、笑顔を作る事はできる。


「ああ、勿論じゃ。あの笑顔に、随分勇気づけられた……じゃから、今度はわらわの番じゃ。セオウィンの事も、アストワールの事も心配はいらぬ。そなたは、そなたの心のままに生きるがよい。そして、あの日そなたがそうしてくれたように、そなたが旅立つ日には、妾も笑顔で見送ろう、アリエルよ」


「お姉様……」


 シリューたちの見守る中、アリエルとアリアスはそっと抱き合った。




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【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 まぁ、初手姫様の一目惚れ(?)が多少の 違和感はあったんですよね⋯⋯。(今更言うか感w) でもまぁ[異世界モノならこんなものかも?]を 逆手に取った(?)トリックかもw
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