表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

409/429

【第400話】希望の代価

「どこで間違ったのかな、私たち……」


 心臓を封印したオーブが運ばれてゆくのを、アリエルはただ呆然と見送りながら、右手に持ったペンダントに語り掛けた。


 答えはない。


 封印されたアスラの魂に、アリエルの言葉は届かない。


 いや、もう随分前から、届いてはいなかった。


「間違ったのは、君たちだけじゃない」


 声が聞こえた瞬間、アリエルは真っ白な世界にいた。


「君は……メビウス……」


 そして、目の前には白いフードの少年。


 転生の時に会って以来だからもう80年以上になるはずなのに、メビウスの姿は全く変わっていない。


「私たちだけじゃないって、どういう事?」


 アリエルは訝しむように尋ねた。


「少し状況は複雑でね、うん、結論から話そうか。実は、今から1500年後の世界にも、明日見僚が召喚される」


「どういう事? 僚ちゃんはもう……」


 メビウスの言葉の意味は理解し難い。


 それも以前と変わらないようだ。


「召喚のシステムに不具合があってね。本来は想定されていなかった彼が、こちらの世界に召喚されてしまったんだ」


「不具合? ただ巻き込まれただけじゃなかったの?」


〝高校生たちの召喚に巻き込まれた〟


 僚はそう話していた。


 高校生?


 僚と一緒に召喚されたのは、明らかに平安時代の人物たちだ。


 では、その高校生たちはどうなったのだろう。


「うん、気付いたみたいだね。彼らは正しく、1500年後のこちらに召喚()()()


 された、と過去形で話した事にアリエルは違和感を覚えるが、今それを追求する気はない。


「どうして、二つの違う時代に僚ちゃんが? まさか、二人に別れた訳じゃないでしょう?」


 それは半ば皮肉のつもりだった。


 だが、メビウスはそれをあっさりと肯定した。


「彼はある力の干渉によって、本来は影響を受けないはずの召喚領域に引き込まれた。それだけではなく、その力は時空を超えた二つの点へ、彼を同時に存在させる事となった。君の知ってる言葉を使えばそう、一つのファイルをPCと外部HDに保存したようなもの、かな。これは僕も想定外だったよ」


 そして明日見僚は、現在と未来の二人に別れた存在となった。


 どれ程の力が召喚に影響を与えたのだろうか。


 無理に干渉してまで、彼をこの世界に呼び寄せたかったものとは……。


 どくん。


 アリエルの心臓が跳ねた。


 全身から血の気が引き、酷い眩暈に襲われる。


 凍えたように、震えが止まらない。


「……まさか……その力って……」


 否定してほしかった。


 そんな力はないと。


 アリエルは、縋るような思いでメビウスを見つめる。


「残念ながら、君の思った通りだよ。召喚に干渉し、明日見僚を呼び寄せたのは、君だ。君の彼への強い想いが、世界のシステムを狂わせたんだ」


 責めるような口調ではなかった。


 メビウスは同情的ですらあった。


「そ、そんな……僚ちゃんっ」


 アリエルは力なく膝をつく。


「私が……私のせいで、僚ちゃんはっ……」


 零れ落ちる涙が、膝元で音をたてる。


 もういい。


 この世界も、自分自身も。


 アリエルは、そっと腰の短剣に手を伸ばす。


 だがその行為をメビウスが止めた。


「急がないで。まだ希望はある」


「え……」


 柄に掛けた手を放し、アリエルはメビウスを見上げる。


「何もしなかったら、未来の明日見僚も魔神になる。でも、それを回避して()を救う方法はある」


 そう未来だ。


 未来の僚は、まだ生きている。


「教えて! 何でもする! 僚ちゃんを救えるなら、何でもできるから!!」


 何を失ってもいい、この身を犠牲にする事も厭わない。


「本当に、そう思うかい?」


 アリエルは力強く頷く。


「君にとって、死よりも辛い事だとしても?」


 メビウスは分かっているのだろうか。


 アリエルにとって、何もせずにいる事こそ最も辛い事なのだと。


 アリエルはもう一度頷いて見せた。


 その覚悟を、メビウスも認めた。


「君の魂を五つに分けて一つは君に残し、四つは未来に生まれる乙女の中へ送る。その乙女たちが明日見僚と繋がり、彼の心を光に導く事ができれば、未来の彼も、魔神として封印された彼も、両方を救える可能性がある」


「わかった、問題ないわ。それで、辛い事って?」


 どんなに辛く苦しい事にも耐えてみせる。


「先ず、君の力は大幅に低下する。それから……」


 メビウスは一旦言葉を切ってアリエルを見つめた。


「君は前世の、森崎美亜としての記憶と、人としての感情を代価として払わなければならない。それでも、この方法をとるかい?」


 アリエルに迷いはなかった。


「ええ。彼を救えるのなら」


「分かった、では契約だ」


 メビウスが指を鳴らす。


 アリエルの中から何かが抜けてゆく。


 それは、アリエルから分かれて、未来へ飛び立つ四つの魂。


「乙女たちが滞りなく明日見僚と出会えるよう、調整しておくよ。これは僕からのお詫びだ」


 全てが終わった後、再び荒野の中にアリエルはいた。


「わたくしは……」


 メビウスとの契約通り、感情と美亜としての記憶を失った状態で。


 それから1500年後。


 分かれたアリエルの魂を持って、『運命の乙女』たちは生まれた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
運命の少女が5人しかいないなら、最初からその5人だけ使おう。最初に、主人公を好きな後の2人は追加しないでおくべきだ。そうじゃなければ、異世界組と現代組を合わせて7人にして、「運命の七少女」と呼ぶ方がい…
ふむ…やたら惚れられやすいと思ったら 約束された運命だったのか まあ、有希とほのかは運命枠じゃないんでしょうけど
更新有り難うございます。 おぉ、ヒロインsにはそう言う秘密が!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ