【第398話】白き世界
防護結界の復活後。
時を同じくして、避難住民の護衛に当たっていたセオウィンが、部隊の三分の二を率いて駆け付け戦闘に加わる。
アリエルの弟であるセオウィンの参戦で、アストワール軍の士気は大幅に高まり、戦局を変える突破口の一つとなった。
セオウィンの行動は命令違反に当たっていたのだが、アリエルはそれを咎める事はせず、そのままアストワール軍の指揮を譲り、弟の初陣を支援する立場へと退く。
十分な休息と交代を繰り返す事で、常に万全な態勢を維持するアストワールに対し、召喚・再生魔法陣が崩壊し、補充の効かなくなった魔物軍は徐々にその数を減らし続けた。
そして遂に、戦闘開始から八日。
アストワールとアルフォロメイの連合軍は、一万の魔物軍を完全に撃退し勝利を収めたのだった。
「アストワールはこの度の恩を決して忘れる事はないでしょう。諸兄姉の尽力に感謝します。アルフォロメイに栄光あれ!」
アルフォロメイ軍が帰還の途に就く日。
執り行われた解散式の壇上で、アリエルはアルフォロメイの勇士たちに向かい、心からの謝辞を述べた。
「直々のお言葉に預かり、大変光栄にございます」
アルフォロメイ軍を率いる団長は、最敬礼でそれに応える。
かくして、アストワールを巡る魔族との戦いは一応の収束を迎えた。
ただ一つ、大きな問題が残されてはいたが。
「大事な話があるの。みんな、いいかな?」
その日の夕食後、アリエルはシリューたちを私室に招いた。
「のうアリエル。どうも妾だけ場違いに思えるのじゃが……」
この部屋に呼ばれたのはエリアスの他、シリュー、ミリアム、ハーティア、クリスティーナ、パティーユの五人。
この中で身内はエリアスだけ。
違和感を抱くのは当然だろう。
「1500年前の事を知らないセオウィンには、まだ話すべきじゃないと思う。でも、お姉様には聞いてほしい」
「そうか……そういう事なら」
エリアスは改めてソファーに座り直した。
シリューたちも、大きめのソファーにゆったりと腰掛け、アリエルが話し始めるのを待つ。
「先ず、言っておく事があるの……」
そう前置きして、アリエルは静かに語り始める。
「わたくしは、転生者。森崎美亜の生まれ変わり」
既にその事実を知っていたシリューは勿論のこと、少なからず予想していたミリアムたちにも、大きな驚きはなかった。
「転生者!? 森崎、美亜? いったい何の事じゃ?」
ただし、エリアスはそうはいかない。
転生者など初めて耳にする言葉だ。
そのうえ、森崎美亜が誰なのかも知らない。
「もしかして、シリューやヒュウガと同じ世界の人物なのか?」
それに答えたのはシリューだった。
「美亜は俺の幼馴染で、恋人でした。でも……病気で亡くなった……」
「それで、この世界にアリエルとして生まれ変わった、と……じゃが、何故そなたたちは違う時代に……いや、そうか」
アリエルはゆっくりと頷く。
そう、アリエルと明日見僚は、同じ時代に邂逅を果たしている。
「どうしてわたくしが選ばれたのか、分からない。わたくしには、もう美亜としての記憶がないの。ただ、覚えているのは……」
果てしなく続く真っ白な世界。
上も下も前後も左右も、全く境目がなく、どれほどの広さなのか見当さえつかない。
立っているのか寝ているのかも分からないまま、美亜は白一色の世界に手を伸ばす。
「いらっしゃい、森崎美亜」
透き通るような声に振り返るとそこには、世界に溶け込む白いフードを被った少年が立っていた。
「警戒しなくてもいいよ、僕は君を傷つけるつもりはないからね」
快活で陽気な話しぶりだが、フードのせいで表情が見えない。
どう考えても怪し過ぎる。
「ここは、何処?」
美亜は内心の不安を顔に出さないよう、細心の注意を払いながら尋ねた。
「ここは『終わりなき連なる流れ』、表は裏になり、裏は表になる。右は左へ左は右へ、上は下へ下は上へ。永遠に連続する宇宙の狭間、そして宇宙の中心」
「つまり、神様の世界?」
一瞬、少年が笑ったように見えた。
「なるほど、君たちの言葉では、そう表現するのが一番近いのかもね」
という事は、彼は神ではないのだろうか。
「そう、僕は神じゃない。ただ、僕を神と崇める世界もあってね。君には、その世界に転生してもらいたい。どう生きるかは君の自由、その為の力もあげるよ」
そう言って少年は、ぱちんっと指を鳴らした。
すると、白い世界は霧が晴れてゆくように薄く透明になり、少年の存在も徐々に希薄になってゆく。
「待って、どういう事? 君は誰!?」
「僕はメビウス、世界の管理者だよ。エターナエルと呼ばれる事もある」
そして完全にその存在が消えた後、美亜はハイエルフのアリエルとして、異世界に生を受けた。




