【第396話】退却
「殺撃放電!」
電撃の雨をくらったポリポッドマンティスが、黒く焼け焦げて崩れ落ちる。
これで何体目だったか。
シリューは次のターゲットを探しながらふと考える。
リポッドマンティスだけでも12体。
黯一角獣やハンタースパイダーを含めれば優に50を超え、空の魔物も200以上は倒している。
それでも敵の数はまだまだ多く、減らしたという実感はない。
シリューたちが上位の魔物を削った事で、アストワールとアルフォロメイの連合軍も随分戦い易くなったとはいえ、体力も気力もそろそろ限界に近いはずだ。
「総員、反魔導領域内に退避!!」
シリューは戦場を駆け巡り、両軍に指示を飛ばす。
これ以上の戦闘は、味方の損耗を招く。
一旦、休息を挟むべきだろう。
合図を受けて、城からも退却の号音が鳴り響いた。
ミリアムとクリスティーナが、シリューと合流し味方の撤退を援護する。
「メビウス・ディストラクション!」
金に輝くメビウスリングが、追ってくる魔物の軍勢を空間ごと斬り裂く。
「総員、撤退完了!」
城門前で兵士が叫んだ。
「ミリアム! クリス! 下がって!!」
二人が城内に入るのを見て、最後にシリューが門を潜る。
反魔導領域の危険性を認知しているようで、魔物たちが領域内まで追ってくる事はなかった。
ただ、安全は担保されており休息は取れたとしても、根本的な問題は解決していない。
「大丈夫か? ミリアム」
城に戻るとすぐ、シリューはミリアムに声を掛けた。
「え? あ、はい。全っ然大丈夫ですよ、これくらいっ」
ふんっと、胸の前で両拳を握り笑って見せるものの、ミリアムの顔からはすっかり血の気が引いている。
領域内に入ってからそれ程時間は経っていないが、ミリアムの躰は既に領域の影響を受け、過剰に反応しているのだろう。
明らかに、学院の時よりも辛そうだ。
ヒスイに至っては更に深刻で、ここのところシリューのポケットに入ったまま、ずっと眠っている。
「気付いていないだけで、私にも皆にも、同じ事が起こっているのよね……」
ハーティアが眉間に皺を寄せ、独り言のように呟く。
時間が経てば経つほど、その症状は重くなり遂には動けなくなる。
「その前に此処を放棄して脱出するか、それとも反魔導領域を停止するか……」
どちらも選べない選択肢を口にして、クリスティーナは自嘲するように肩を竦めた。
「結界を再起動する方法は無いのでしょうか……例えば、反魔導領域の展開に使われている魔力を、結界の起動装置に繋ぐ、とか……」
有効に思えるパティーユの提案だったが、アリエルは沈んだ表情で首を振る。
「二つの装置は、全く別の系統で、それぞれ独立しているの。だから、繋ぐのは無理……」
できなくはないが、そのためには大掛かりな改修が必要らしい。
「魔力を直接注入できないかな? 魔石とかと同じように」
シリューが考えているのは、自動車への魔力供給と同じ方法だった。
「それも無理。防護結界装置は、世界樹から放出されるマナを取り込んで、魔力に変換してるの」
「要するに、原理は人と同じという事ね」
アリエルの説明に、ハーティアが短く補足を加える。
〝人を含む生物はマナを体内に取り込み、体内で魔力を生成するの。だから、人は魔力を直接取り込む事はできないし、マナを直接放出する事もできないわ〟
以前、ハーティアはそう言った。
魔力切れを起こした人に、魔力を補填する事はできないか、とシリューが尋ねた時だ。
あの時、シリューはハーティアの言葉を疑いもしなかった。
普通の人間なら、それが常識だからだ。
「……いや、ちょっとまてよ……」
ただし、シリューには当てはまらない。
魔力ゼロのシリューは、空気中のエーテルを直接魔力に変換し、体内に取り込まずに供給し続ける事で、ほぼ無制限に魔法を撃てる。
「やってみる価値はあるんじゃないか……」
此処は世界樹から極めて近い位置にあり、マナの密度も他の地域よりも濃い。
魔法と同じ方法なら或いは……。
「アリエルさん、結界の起動装置ってどこにある?」
「案内する、来て」
アリエルの先導で、シリューは起動装置のある地下へと向かった。




