【第395話】援軍到着
「これ以上進むのは無理っぽいな……」
小高い丘の樹上に身を隠し、シリューは城までのルートを探っていた。
敵が全面攻撃を仕掛けているなら、その混乱に乗じて城に入る事も考えたのだが、現在戦闘は膠着状態にあり、密集した魔物軍の中を秘密裏に突破するのは不可能に近かった。
「暗くなるまで待つ?」
「いや……」
アリエルの提案も、現実的ではないだろう。
この場所がいつまでも安全だとは限らない。
空からの強行突破という方法もあるが、アリエルを抱き上げて飛んだ場合、空中の高速起動に彼女が耐えられるかどうか。
シリューは空の状況に目を向けた。
ハーピー、大蝙蝠、飛行蜥蜴の大軍が、攻撃の機会を窺うように城の上空を旋回している。
それでも、地上を行くより危険は少ないかもしれない。
躰が密着する事を、アリエルが我慢してくれたらの話しだが。
「空から行こう。アリエルさん、少しの間、我慢してくれる?」
「うん、分かった。何をするの?」
「えっと……」
言いかけた瞬間、森のあちこちで大きな爆発が起こった。
「何だ!?」
直後に鳴り響く、甲高い進軍ラッパの音。
これはアルフォロメイ軍のものだ。
「援軍が来たのか!」
想定よりも一日早い。
「ドクのヤツ、いい仕事してるじゃないか……」
間を置かず、城からの号音が呼応する。
どうやら、アルフォロメイ軍の進撃に合わせて、アストワール軍も討って出たようだ。
空の魔物たちが四方へと散らばってゆく。
敵の目が地上に向けられている今なら、包囲を突破するのも難しくはない。
「アリエルさんっ、ちょっとごめん!」
「え!?」
アリエルを横抱きに抱き上げ、空へ舞い上がった。
「ひゃっ」
アリエルは小さく悲鳴を零し、目を閉じてシリューの首にしがみ付く。
「ホントごめんっ」
それでも、速度は落とせない。
「ガトリング! 重空撃波! レイ!!」
魔法の波状攻撃によって突破口を開き、すかさず飛び込む。
「爆轟! 冬の滅び!」
すりョン抜け様の追撃で魔物の数を削りながら、反魔導領域の中へ。
城壁にハーティアとパティーユを見つけ、二人の元へ舞い降りてアリエルを下ろす。
「いつもながら派手な登場ね、シリュー」
「お二人とも、無事で何よりです」
笑顔で頷きつつ辺りを見渡したシリューは、近くにミリアムとクリスティーナが居ない事に気付く。
「あの二人なら、下で戦っているわ。ミリアムは、この領域が躰に合わないようね」
クリスティーナは、領域内にいても何もできる事がないと、ミリアムと一緒に出撃していったらしい。
「やっぱり、影響が?」
パティーユとハーティアが頷く。
「いつもより、魔力の消耗が早い気がします」
「ミリアムは、学院の時に似ていると言っていたわ」
反魔導領域は魔物の魔石からだけでなく、人や動植物からも少しずつ魔力を吸い取る。
魔力の流れに敏感なミリアムは、他の者よりも強くその影響を受けたのだろう。
「早い人なら明日、そうでない人もあと二日くらいで、動くのが辛くなるよ」
そうなれば、戦う事もままならなくなるし、だからといって領域の外で過ごすわけにもいかない。
皆が動けなくなる前に決着を付けるか、消失した結界を何とか再展開するか。
どちらも簡単な事ではない。
「結界を張り直すには、どうしたらいい?」
アリエルに尋ねる。
「結界の起動装置に、世界樹からマナを取り込んで魔力に変換するの。ただ、魔力の充填にあと六日は掛かると思う」
「六日か……」
反魔導領域も結界もなしに、一万以上の魔物軍と戦い抜くのは不可能に近い。
「パティ、ハーティア、地上の援護は魔導榴砲に任せて、とにかく飛び回ってる奴等を、一体でも多く墜としてくれ!」
「はい!」
「分かったわ!」
パティーユとハーティアは鋸壁際に立って空に向き直る。
「じゃあ、わたくしは地上を援護する」
神弓エネイブルが放つ光の矢は、アストワール軍なら誰でもそれと分かるだろう。
アリエルの援護があれば、兵士たちの士気も上がるに違いない。
「うん、よろしく」
シリューは城壁から飛び降り、ミリアムとクリスティーナに合流する。
「シリューさん!」
「シリューくん!」
ミリアムもクリスティーナも、動きを止めずちらりとシリューを見た。
「ミリアム、クリス! ちょっとキツイかもだけど、二人はハンタースパイダーとグロムレパードを叩いてくれ!」
「了解です!」
「任せてくれ!」
二人はそれぞれの獲物を求めて散って行く。
シリューが狙うのは、モノケロースやポリポッドマンティスだ。
アルフォロメイ軍とアストワール軍が戦い易いよう、上位の魔物をシリューたちで減らす。
シリューは混沌の支配する戦場を疾走した。




