【第393話】目前の危機
一方。
ビクトリアス皇国の南、海辺の街ラテルシア近郊で起こった瘴気の異常発生は、当初から懸念されていた通り、災害級の出現という最悪の事態に見舞われていた。
ただし、調査のため派遣された直人たちが、既に警戒態勢を採っていた事もあり、街への侵攻前にこれを迎え撃つ事に成功する。
ガイナン王国に出現したイロウシュット同様、今回の災厄級も保存記録にはない個体だ。
細長い体は20mを超え、蛇のような頭に三つの目。合計十対の足は前二対が触手になっており、後の六対は尺取虫のように動く。
背には足より太い突起が生えていて、そこからほぼ無尽蔵に魔力弾を吐き出す。
その姿はまるで、巨大化したカンブリア紀の生物『ハルゲニア』そのもの。
ブラエタリベルトゥルバーやイロウシュット以上の火力と、非常に高い防御力を持つ。
それだけでも有効な攻撃が限られるうえ、更に厄介なのはあらゆる攻撃を反射する障壁の存在だ。
「日向様! 奴の障壁は魔法の術式によるものです! こちらの攻撃が当たる直前に展開され、直後に解除されています!!」
パティーユに代わって後方支援を担うエマーシュが、攻めあぐねる直人たちに叫ぶ。
魔法の能力はパティーユに劣るかもしれないが、状況判断と分析において卓越した能力を有するエマーシュは、パティーユとは違う形でこのパーティーの戦力強化に貢献していた。
「魔法の術式……」
「直前……」
「解除ってコトは……」
「みんなっ、タイミングを合わせるぞ!」
有希、恵梨香、ほのかが、直人の指示で同時に動く。
「波状する無数の火種よ、霧中へと誘い早暁に瞬く風となり、猛威を振るえ。爆轟!!」
ほのかの魔法が命中する直前、災害級が障壁を展開する。同時に。
「いっくよぉ! バーストォォォ!!」
有希の拳がその魔法効果を無効化。更に。
「バスター!!」
恵梨香の放つ光によって、防御力を下げる。
「「「今よ!」」」
「終わりだぁ! 雷神龍翔!!!」
直人の振るう剣から目を焼くような青白い光が流れ、雷光を纏う龍へと変化し敵を呑み込む。
響き渡る落雷の爆音。大地を揺るがす衝撃。
そして、巻き上がる粉塵の中に横たわる、引き裂かれ焼け焦げた災厄級の死体。
戦いは終わった。
シリューの力を借りずに災厄級を倒した事実は、揺るぎない自信に繋がるとともに、直人たちの力を更に飛躍させた。
「結構やるよな、俺たち」
「うんうん、勇者を名乗れるくらいにはねっ」
「自信、持とうねぇ」
「次こそ、わたしたちが明日見さんを助ける番ですね」
直人の突き出した拳に、有希とほのかと恵梨香が続いて拳を合わせる。
この世界に来て、戦い続けて、今回が一番すっきりと笑えたのかもしれない。
大災厄との戦いを前に四人がそう思ったのは、けっして悪い事ではないだろう。
「お疲れ様です、皆様。本当に、素晴らしい戦いぶりでした」
そんな直人たちの様子を、エマーシュは微笑ましく見ていた。
「で、どうする直人。やっぱり僚君トコに応援いく?」
有希が尋ねる。
もちろん数日は様子を見るため、ラテルシアの街に滞在する事になるのだが。
「ん~、ってかさ、俺たちが着く頃には、もう解決してそうだけどな」
直人はお道化るように肩を竦める。
「そだねぇ、僚くんのコトだから、とっくに片付けてるかも」
「アルフォロメイからの援軍もあるでしょうから、わたしたちの出番はなさそうですね」
ほのかと恵梨香は、そう言ってにこにこと笑った。
「日向様、少々気になる事があるのですが……」
エマーシュが遠慮がちに声を掛け、一同はラテルシアの宿に戻って話をする事になった。
「この地図を御覧ください」
エマーシュがテーブルに広げた地図はこの大陸のもので、十六か所に赤い印が打たれている。
位置は外側に八か所、内側に八か所。
「これは……」
「これまで、直人様方が派遣され戦った場所と、明日見様が災厄級と戦った場所です」
確かに、十五か所は直人たちにも覚えがある。
ただこれだけでは、印の意味するところは分からない。
「これを、全て線で結びます」
そう言ってエマーシュは、地図上の点を線で結んでゆく。
内側と外側にそれぞれ八角形。更に内と外の角を直線で結ぶ。
「何か、蜘蛛の巣みたいだな……」
直人の言う通り、それは放射状に張られた巨大な蜘蛛の巣。
八角形を結んだ直線は、蜘蛛の巣の中心で交わっている。
「これは、もしかして……」
恵梨香が最初に気付いた。
「はい。私の推測が正しければ、おそらく大災厄の出現地点……」
直人たちは押し黙って地図を見つめる。
その時は、もう目の前に迫っていた。




