【第392話】復讐
クレアソン商会の地下。
魔神教団本部の礼拝堂で、オルタンシアは六人の幹部の前に跪き、アストワールでの成果を報告していた。
「では、アスラ様の御魂は回収できたのだな」
幹部の一人が念を押すように尋ねる。
前回と同じく逆光とフードのせいで、誰の言葉かは分からない。
「はい、これに……」
オルタンシアは懐からペンダントを取り出した。
「よろしい、こちらへ」
幹部の女が指示すると、一人の従者が供物台を持って現れ、オルタンシアの前に跪く。
〝たかがペンダントに、滑稽なほど仰々しいですねぇ〟
オルタンシアは供物台にペンダントを置き、心の中で笑った。
あれは昨日店で買った、ただのペンダント。
魔神の魂など入ってはいないが、誰もその事実に気付く事はないだろう。
オルタンシアの目論見通り、幹部の女は従者からペンダントを受け取った。
「ご苦労でしたオルタンシア」
その言葉を合図に礼拝堂の扉が開き、黒い一団が突入してオルタンシアを取り囲んだ。
「何のつもりか、伺ってもよろしいですか?」
オルタンシアは立ち上がり、壇上の幹部たちに尋ねる。
黒の一団は、おそらく教団の特殊戦闘隊だ。
「お前には、アスラ様の心臓と共に眠ってもらう」
幹部の一人が答える。
「ほう、アスラ様を復活させず、もう一度封印するんですか?」
「なかなか察しがよいな」
魔神復活は教団の悲願だったはず。
教団の信者は本気でそれを願っていたし、そのために教団が作られた。
「つまり、あなた方は裏切ると?」
「そうではない、これは教団上層部の総意なのだ。アスラ様を復活したとて、我々の制御下に置ける保証はない。それよりも、三つの封印を盾にすれば、大国とも対等な交渉ができる。我々は、富も権力も、国さえも支配できるのだ!」
幹部の男は、やや興奮気味に声を張り上げた。
「なるほど……そういう事らしいですよ? 居眠り魔神さん」
《 愚かな……もはや利用価値もない 》
「では、少々力を貸してもらえますか?」
《 よかろう 》
オルタンシアは、取り囲む男たちを見据える。
数は十人。
「捕らえよ」
幹部の一人が命令を下す。
だが。
黒の一団が動く寸前、オルタンシアの姿が消えた。
直後、十人の男たちが血を噴きバタバタと倒れる。
「何だ……っ!?」
立ち上がろうとした幹部の言葉が途切れ、その首がゴトリと床に落ちた。
「な、何をする! こんな事をして、無事で済むと思うのかっ」
叫んだ男のフードがずれて顔が見える。
この男は、たしか商会の副会長だ。
「無事で済まないのは、お前たちだ」
「きさっ……ゴボッ」
言い終わるまで待たず、手刀で喉を斬り裂く。
「や、止めなさい! 教団を裏切る気ですかっ」
椅子から転げ落ちながら、女幹部が叫ぶ。
「先に裏切ったのはお前たちだろう? 魔神様はお怒りだ」
「ぎゃあっ」
女の胸に拳を突き立て、心臓を潰す。
「ひぃっ」
二人の男がその殺戮から逃れようと、必死に出口を目指して走る。
「逃げるな」
素早く回り込んで逃げ道を塞ぎ、二人の頭に手刀を振り下ろす。
「た、たすっ」
「ぶべっ」
頭を砕かれた二人は、ガラクタのように崩れ落ちた。
残るはただ一人。
魔神教団の最高指導者だ。
「わ、私を殺せば、教団は崩壊するぞ……」
この期に及んで、まだそんな言葉が出て来る事に、オルタンシアは肩を竦めた。
「分からないか? それが私の目的だ。お前たちに復讐するために、私は教団に入った」
オルタンシアは指導者の首を掴み締め上げる。
「因みに聞くが、エルナンデルという名に聞き覚えは?」
「かっ……ぐふ……」
指導者は弱々しく首を振った。
「そうか」
養父母の粛清に、最高幹部が絡んでいるはずもないが、それももうどうでもいい。
「では死ね」
「ま、待って……グバッ」
オルタンシアは男の喉を潰した。
「「さて……」」
オルタンシアの目的は果たした、次はアスラの番だ。
血まみれで転がる死体を踏みつけ、オルタンシアは祭壇へと歩み寄る。
「「これだ……」」
祭壇に安置されている、装飾の入った壺を手に取る。
1500年前、神弓によって心臓を撃ち抜かれた魔神の身体は、燃え尽きて灰となった。
この壺には、魔族たちがかき集めたアスラの遺灰が入っている。
「これで貴方も復活ですね」
《 まだだ。分かっているだろう 》
「そうでした。では、もう少し私に付き合ってください。その後で、最後の旅路へ向かうとしましょう」
オルタンシアが礼拝堂から立ち去った直後、クレアソン商会の本店が大爆発を起こした。
その後。
各地にある商会の建物全てと、商会幹部の所有する邸宅も謎の爆発で消し飛び、少なくとも百数十人が命を落とす。
闇の中に暗躍した魔神教団は、世間に知られる事なく壊滅した。




