【第391話】勝利の方向
日の光も届かない鬱蒼とした森の中は、昼間であるにもかかわらず、地図を読むのに灯りが必要なほどだった。
ノワールから貰った魔石の配置図を参照して、アストワールの地図上に印を付けてゆく。
最後に、アリエルが見たビジョンと照らし合わせる。
「三ヶ所の中核点がどれか分かる?」
「ん……ここと、ここと、ここ……だと思う」
アリエルが指差した箇所を丸で囲む。
「一か所目は……」
シリューは地図から視線を上げて、森の先を見つめる。
「この先だ……わりと近いな」
「凄いね、全然分からない……」
首を傾げるアリエルに、シリューは思わず吹き出しそうになり、慌てて口元を隠した。
「どうしたの?」
疑いの目を向けられて、シリューは咄嗟に咳払いをする。
「ごめん、ちょっと喉が……。さ、行こうか」
「うん」
魔法陣の中心部に近づくにつれて、探査のスキルが上手く発動しなるが、意外にも遭遇する魔物の数は減っていった。
おそらく、召喚されたり再生された魔物は、間を置かず前線に投入されるためだろう。
ただ、中核にはそこを守る魔族か魔物がいる可能性もあるため、油断はできない。
「もう少しだ……」
シリューたちは武器を構え、物音に注意しながら慎重に進む。
やがて薄闇の先に、比較的明るい光が差す場所が見えた。
手前で止まり、樹の陰から様子を窺う。
人影もなく魔物もいない。
「見つけた、あれだ」
少し開けた草地の中央に、直径2mほどの魔法陣が描かれており、中央から光が立ち昇っている。
「間違いないね。あれが魔法陣の中核の一つだよ」
「壊せそう?」
アリエルは首を振った。
「あれは、表面を壊しただけじゃダメみたい。解除する必要がある」
「そっか……」
シリューはもう一度注意深く草地を見渡す。
動くものはないが、罠が仕掛けられているかもしれない。
「俺が先に行くから、合図したら来て」
アリエルが頷くのを見て、シリューは草地に足を入れる。
剣で草をかき分け、異常がないか見極めながら一歩一歩ゆっくりと進む。
万が一に備えて、足元には翔駆の足場を作っておく。
だが予想に反して、どこまで進んでも何も起きない。
結局、何事もなく魔法陣に辿り着けた。
「考え過ぎだったかな……」
シリューは振り返ってアリエルに合図を送る。
「思ってた以上に、高度なものだね」
シリューの残した足場を辿ってきたアリエルは、魔法陣を見るなりそう判断した。
「解除できる?」
「大丈夫、任せて」
アリエルが魔法陣の中央に立ち、両手かざした時。
背後の地面が大きく爆ぜて、体長5mを越える魔物が姿を現した。
「オルデラオクトナリア!?」
環形動物に似た災害級のオルデラオクトナリアは、弾力性の身体を持つのに加えて、衝撃を分散する粘液で全身を覆っている。
鞭のように身体をしならせる体当たりはもちろん、毒性の酸を吐くのも厄介だ。
「こっちは俺が何とかする、君は続けて!」
そう言ったものの、魔法が使えない状況でオルデラオクトナリアを倒すのは厳しい。
「ま、やるしかないけど!」
シリューは飛び上がり、オルデラオクトナリアの腹を蹴りつける。
空中を高速で駆け、更に一撃。
巨大な魔物を吹き飛ばす。
頭を上げたオルデラオクトナリアが、口から酸を吐く。
「ユニヴェールリフレクション!」
理力の盾を叩きつけるように展開し、それを弾く。
「アブソリュート・ゼロ!」
絶対零度の凍気はしかし、表面を僅かに凍らせただけで消滅した。
シリューはアリエルに目を向ける。
ここは時間を稼ぎ、魔法陣の解除を待つしかない。
幸い、魔物はこの一体だけだ。
アリエルに近づかせない事だけに、気を付ければいい。
やがて。
「解除したよ!」
アリエルが叫ぶ。
【魔法陣の一部が解除されました。50%の威力で、魔法の発動が可能です】
「50%あれば十分さ! アブソリュート・ゼロ!!」
オルデラオクトナリアの頭が凍り付く。
「くらえ! アンチマテリエルキャノン!!」
六発の砲弾によって、凍結した頭を粉々に粉砕されたオルデラオクトナリアが、轟音を立てて崩れ落ちた。
「あと二ヶ所。さ、急ごう!」
「うん」
シリューとアリエルは次の中核点へ向かう。
二ヶ所目にポリポッドマンティス、三ヶ所目にはサウラープロクスと、それぞれ災害級と魔族の戦闘部隊が配置されてはいたが、効果半減でも魔法の使えるシリューの敵ではなかった。
「これで、最後」
アリエルが三か所目の中核点を解除する。
【召喚・再生大魔法陣の効果が停止しました】
「お疲れ。じゃあ、帰ろうか。きっと皆待ってるよ」
シリューは右手を差し出す。
「そうだね」
アリエルがその手を取る。
「帰ったら、ゆっくり話せるかな?」
「ああ。でもその前に、この戦いに勝たなきゃね」
魔法陣は無効化しても、一万の魔物は未だ健在なのだ。
とはいえ、シリューには既に勝利の道筋が見えていた。




