【第390話】奮戦
「はあぁぁぁぁっ、ディープ・インパクトォ!」
高く跳躍したミリアムは空中で回転し、衝撃波を生むほどの速さと力でハンタースパイダーに戦鎚を叩きつけた。
クレーターのできた地面に体液の跡だけを残し、原型を留めず粉々に砕け散るハンタースパイダー。
着地して大きな隙のできたミリアムに、黯一角獣が突進する。
「翔破刃!」
クリスティーナがすかさず三日月の斬撃を放ち、モノケロースを両断。
「前に出過ぎだ、ミリアム殿!」
「ごめんなさい!」
ミリアムはクリスティーナと共に、反魔導領域内に駆け戻った。
二人を追った魔物たちは勢いのまま不用意に領域内へと踏み込み、魔力を吸い取られてバタバタと倒れてゆく。
この戦法を、もう十回は繰り返しただろうか。
「はあっ、はあっ……」
クリスティーナにはまだ十分な余力があるものの、ミリアムは既に息が上がってしまっている。
「大丈夫? 少し休もうか」
「は、い……っ」
一撃一撃の重いミリアムは明らかに瞬発力タイプで、長時間の戦闘には向かないらしい。
少し力を加減すればいいようなものだが、あえてそれをしないのか、それともできないのか。
クリスティーナは、上気した顔で息を切らすミリアムの背中を撫でながら、くすりと笑った。
「シリューさんたち、もう、魔境に入った、かな……」
喘ぎながら、ミリアムが呟く。
「どうだろう。でも、心配はいらないよ」
もちろん、ミリアムも心配はしていない。
ただ、魔境に設置された召喚魔法陣を、一刻も早く解除してほしいと願っていた。
そうでなければ、いくら倒したところでいずれ魔物は復活してしまう。
「延々とこれを繰り返すなんて……私、死んじゃいますぅ……」
「うんうん。分かるよ」
クリスティーナはミリアムが落ち着くまで、彼女の背中をさすり続けた。
そんな二人の様子を、パティーユとハーティアは城壁から観察していた。
「お二人とも、反魔導領域内に退避したようです」
パティーユたちの任務は、ミリアムや他の兵士たちを城壁から援護する事。
作戦の概要はこうだ。
先ず小隊規模に編成された部隊が、反魔導領域外に突撃し攻撃を加えて魔物を挑発。
すぐに撤退して、魔物を領域内に誘い込む。
人やエルフを無条件に襲う魔物の本能を煽り、反魔導領域の特質を利用して殲滅する。
単純だが、こちらの被害を最小限に抑ながら敵の数を削る、防衛戦には最適な戦術だった。
「それにしても……」
パティーユは、ミリアムとクリスティーナの残した戦闘の跡を眺めて、思わずため息を漏らす。
大量のブルートベアやフォレストウルフに混じり、ハンタースパイダーが二体、グロムレパード五頭にモノケロースが三頭。
ハーティアとパティーユの支援で、災害級のポリポッドも一体。
これらは全て、反魔導領域外で彼女たちが倒したものだった。
「……お二人とも、従士の高科様たちに匹敵する強さですね……」
シリューが勇者に比肩するのならば、そのパートナーたちが従士に匹敵するのも当然の事なのかもしれない。
パティーユがそんな事を考えていると、右側から詠唱の声が聞こえた。
「移り行く近傍の風、大いなる力を解き放ち、重なり合う高速の波面となりて、抗う者を退ける標を示せ。重空撃波!」
強い圧力波が幾重にも重なり発生した衝撃波が、超音速で円錐形に伝播し、上空から地上の別部隊に牙を剥く魔物の編隊を一掃する。
もちろんハーティアの魔法も、葉月ほのかのものと見劣りしない。
次はパティーユ自身が力を示す番だ。
ミリアムたちの戦闘跡からやや左。グロムレパードと対峙するエルフの小隊に、一体のポリポッドマンティスが接近している。
狙うはその二体。
「闇を打ち払い大地を照らす静かなる月の華、禁忌へと戯れし悪意をその荘厳なる光を以て縫い留めよ。月華掣肘!」
銀の月がポリポッドマンティスとグロムレパードを捕らえ、その動きを止める。
その好機を逃さず、兵士たちの剣と槍が二体の魔物を貫いた。
作戦は今のところ順調といえるだろうが、戦局を決定づけるものではない。
召喚と再生の魔法陣がある限り戦闘は続く。
そして今、魔法陣破壊の大任を果たすため、シリューとアリエルは魔境にいる。
「僚……」
パティーユは空を見つめ祈るのだった。




