【第387話】包囲を抜けて
「頑固なとこは、変わってないんだな」
「え?」
アリエルと二人、魔物のうごめく魔境を慎重に進みながら、シリューは生前の美亜を思い出していた。
「いや、何でもない」
早朝暗いうちに城を出て敵の目を欺き、包囲網を突破してそのまま魔境近くまで駆け抜けた。
二人で行くと決めたのは、彼女が頑として意志を曲げなかったから。
曰く。
二百か所以上に及ぶ儀式と埋められた魔石は、巨大な魔法陣を形成するための部品であり、その範囲は数キロメートルに及ぶ。
魔力の分布で魔法陣は探知できたとしても、一つ一つの魔石の場所まで特定できるかどうかは分からない。
隠ぺいされている可能性もある。
「もちろん、君の能力を疑うわけじゃないよ。でもね、ここは星の意識にリンクできるわたくしの方が、成功率は高いと思う」
アリエルは一歩も引く気がなかった。
それは、この地を治める彼女の、揺るぎない決意の表れだろう。
「分かった。じゃあ一緒に行こう」
シリューが折れる形で、作戦の実行が決まった。
「もうすぐ、魔法陣の中に入る」
「気を付けて、どんな影響があるか分からない」
探査の結果、魔法陣の大きさは直径がおよそ5Km。
まるで台風の目のように、周囲のマナを引き寄せている。
「50m先に魔物の集団がいる」
シリューたちは会敵を避けるため、方向を変えた。
「魔法陣の中に、他よりも反応の強い所が三つある。多分それが中核だと思うけど……」
全ての魔石を破壊する必要はなく、重要な機能を持つ箇所だけを解除すれば良い。
アリエルはそう考えていた。
ただ、彼女の言葉は何故か歯切れが悪い。
「……ごめんなさい、正確な方向は分からないの……」
頭にビジョンは見えるものの、それが魔境の何処なのかまでは分からない、という事らしい。
「地図を見れば、分かる?」
「ん……頑張る……」
見るからに自信がなさそうだ。
「ああ、そっか……」
美亜はかなりの方向音痴だった。
「じゃあ、一緒に考えようか」
「うん」
預かっていたアストワールの地図を、ガイアストレージから取り出そうと立ち止まった時、ふと背後に人の気配を感じた。
次の瞬間、気配の方から五本のナイフが、シリューとアリエルを狙って飛んでくる。
咄嗟に剣を抜き、全て打ち払う。
「随分ぶしつけな挨拶だな!」
落ちたナイフの一本を拾い、気配のする樹に投げつける。
脅しではない。
覇力を込めた全力の一投。
音速を超えたナイフは衝撃波を纏い、樹の幹を粉砕する。
「くっ」
紙一重で樹の陰から飛び出した一人に続き、四人の男たちが姿を現す。
武装した五人とも、全身黒づくめで顔もフードで隠している。
「一応聞くけど、あんたたち、魔族か?」
男たちは答えず、武器を構えた。
問答無用という訳だ。
【ストライクアイ起動。ターゲットロックオン】
もちろん、こちらも手加減するつもりはない。
アリエルを狙った報いは受けてもらう。
「マルチブローホーミング」
魔法を察知し散開する男たちを、確実に仕留めるべくマジックアローが追尾する。
逃がさない。
しかし。
魔法の鏃は急激に勢いを失い、命中する前に消滅した。
「何だ!?」
【発動した魔法の魔力が、魔法陣に吸収されています】
「ここじゃ、魔法は無力って事か……」
シリューはアリエルを背後に庇う。
「少し離れて」
「うん。でも、わたくしも戦う」
アリエルは神弓エネイブルを構えた。
理力の弦に、光の矢を番える。
シリューが目を逸らした瞬間を好機と捉え、男たちが一斉に動きだした。
「烈咲斬!」
シリューの剣が放つ無数の風刃を、男たちは難なく躱す。
動きはかなり速い。クリスにも劣らないだろう。
アリエルの放った光の矢も、男たちを捉える事ができない。
シリューは前に出て、真ん中の男に剣を薙ぐ。
「だあぁぁ!」
男が自分の剣で受けたところを、そのまま振り切って吹き飛ばす。
更に。
「ユニヴェールリフレクション!」
アリエルを理力の盾で包む。
右から斬り掛かる一人を右手の剣で受け、左の剣で斬り返す。
男は飛び退ってそれを躱す。
入れ替わるように、左から二人。左右の剣で受ける。
「くっ」
息をつく間もない。
これでは完全に相手のペースだ。
シリューは地を蹴り、大きく間合いを取る。
切り返して、左端の男へ。
フェイントを掛け、一瞬棒立ちになった男を蹴り飛ばす。
その直後。
ガラスが割れるような音が響き、目を向ける。
いつの間に現れたのか、十数体の魔物が倒れたアリエルを囲み、群れに混じった五頭の黯一角獣によって、理力の盾が破壊されていた。
モノケロースの赤い目が光る。火焔を吐くつもりだ。
「させるかぁ! ユニヴェールリフ……っ」
脇腹に痛みが走る。
アリエルに気を取られ、敵の剣を躱しきれなかった。
「うざいんだよ!」
シリューは身を翻して男を蹴り倒す。
傷は浅い。動ける。早く!
アリエルの元へ飛ぼうとするが、行手に二人、更に上から一人が同時に仕掛けてくる。
「くっそぉ!!」
間に合わない。
アリエルは光の矢で一頭を倒すが、残りの四頭が同時にその口を大きく開ける。
それだけではない。
最悪な事に、一体の赤いポリポッドマンティスが空から飛来した。




