【第385話】止まらない戦
反魔導領域の特殊性を警戒したのか、魔物たちが無謀な特攻を仕掛けてくる事はなくなった。
ただし、完全に撤退したわけではなく、未だ小規模な攻撃は続いている。
領域ぎりぎりに近づき、火球や殺撃放電での攻撃を試みる集団もあるが、どれも城壁を越えるほどの射程はなく、弓と魔法によって撃退されていた。
魔族の目的は果たされたはずだが、彼らにこの戦争を止めるつもりはないようだ。
アストワールを滅ぼすまで。
「それが、貴方の望み……」
城内の広間に設けられた指揮所で戦闘の音を聞きながら、アリエルは掌にのせた鎖だけのペンダントを見つめた。
「仕方ない、よね……貴方に恨まれても……」
どんな理由があったにせよ、アスラを封印したのはアリエル自身だ。
そして、彼がこの世界に来て、二人に別れてしまうきっかけを作ったのもアリエルだった。
ただし、だからといって悲嘆に暮れている余裕はない。
反魔導領域が使えるのは、せいぜい二日。
それまでに打開策を講じなければ、アストワールは敗北してしまうだろう。
「わたくしが……わたくしのせいで始まった……なのに、これ以上、君を頼っていいの?」
アリエルは自分の言葉を拒むように何度も首を振り、掌のペンダントを強く握りしめた。
丁度その時、広間の扉が開き背後から懐かしい声が響く。
「アリエル!」
「お姉様?」
振り向くとそこには、シリューと並んだエリアス。その後ろに、初めて見る四人の女性。
「それに……」
会うのは初めてでも、彼女たちが誰なのかは分かっているし、言葉を交わすのは初めてではない。
「ようこそアストワールへ。運命の乙女たち」
「お初にお目にかかります、アリエル様」
ミリアム、ハーティア、クリス、パティーユと、それぞれ名乗るだけの挨拶を済ませる。
「アリエル様!」
ミリアムのポケットから飛び出したヒスイが、きらきらと星を振り撒きながらアリエルの周りをまわり、
「お帰りピクシーちゃん。彼を見つけてくれたね、ありがとう」
「はい、なのです!」
嬉しそうに跳ねた。
「アリエル、無事でなによりじゃ」
「お姉様」
最後に、エリアスがゆっくりと歩み寄り、身を屈めたアリエルを抱きしめる。
「わたくしもアストワールも、シリュー様に救われた。彼が来てくれなかったら、今頃ここは……」
「ああ、妾もお前もそしてアストワールも、シリューに大きな恩を受けた」
抱き合ったまま、アリエルとエリアスは頷き合う。
だが、二人の会話を聞いたシリューは、きまりが悪そうに顔を背ける。
「感動の再会に水を差すようで、心苦しいんですけど。可及的速やかに、今後の対策を話し合いませんか?」
シリューの提案は尤もだったが、それが照れ隠しの言葉だという事は、その場の全員が分かっていた。
「そうじゃな、今は一刻を争う」
「じゃあ、皆座って。お茶を出す余裕はないけど」
仮置きされた大テーブルに椅子が用意され、全員が席に着く。
「騎士団長のラヴィトルです。同席させていただきます」
ラヴィトルの他に二人の指揮官も同席する。
「ご報告します。リィルム殿を自室にて保護いたしました。弱ってはいますが、命に別状はないとの事です」
「そう、良かった……」
指揮官の言葉に、アリエルはほっと胸を撫でおろす。
「住民の避難はどうなっておる?」
エリアスの問いには、もう一人の指揮官が答えた。
「セオウィン様の護衛部隊が、無事全員を戦域外の安全地帯へ避難させております」
「ほう、セオウィンがな……」
少し驚いたように、エリアスは目を見開く。
「あの子も、もう、泣き虫の子供じゃないよ」
「うむ、そのようじゃな」
エリアスとセオウィンが顔を合わせたのは、100年ほど前の事。
その頃はまだ、やっと自分で着替えができるようになったばかりだった。
「魔物の死体については、どうです?」
これはシリューから。
答えたのは騎士団長のラヴィトルだ。
「観察を続けた結果、倒した魔物の死体は全て消滅している事が判明しました。実際、消える瞬間を目撃した者も多数おります」
消えた魔物の死体は何処へいくのか。
鍵はやはり、魔境での儀式にあるようだ。




