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【第360話】秘密の会合

 召喚から一月ほどは特に異常もなく、訓練に明け暮れる毎日を過ごした。


 勇者である吉之助、従士の三郎太、佐那、汐里との関係といえば、同世代であっても生きる時代が違い過ぎるせいか、それほど親しくなるわけでもなく、そうかと言ってまったく交流がないわけでもない、顔を合わせれば挨拶と短い会話程度は交わす、当たり障りのないものだった。


 ちなみに吉之助と三郎太は下級武士。佐那と汐里はそれぞれ女官と巫女らしい。


 セレスフィアに対しては態度にこそ出さなかったものの、勝手な都合で召喚された事に、決して小さくない不満を抱いていた。


 そしてここでも、もう一人の自分であるアスラには魔力もスキルもなく、あるのはギフト『千古不易』と『覚醒』の二つ。


 千古不易がどんな能力なのかは分からないが、覚醒についてはおそらく想像通りだろう。


 訓練にも異世界にも慣れつつあったある日、変化はシリューの時と同じように、C級(下位災害級)の襲撃によってもたらされた。


 五人の協力によって魔物自体は倒したものの、勇者たちにはその能力を制限する呪いが掛かっている事が判明する。


 その理由をシリューは知っているが、この時代の人々にそれが分かるはずもなく、根拠のない憶測が飛び交う状況に陥ってしまう。


 やがてその憶測に人々の噂が加わり、アスラにとってよろしくない状況となっていった。


 曰く、想定外である五人目の召喚者は、勇者に破滅をもたらす存在である、と。


「そのような噂、気になさるな」


「明日見様に害が及ぶような事は、わたくしがけっして許しません」


 吉之助たちもセレスフィアもそう言ってくれてはいたが、彼らとの関係も少しずつ変わってゆく。


 いや、アスラ自らが彼らを拒否した。


「そっちで勝手にやれよ。勇者とか世界とか、俺には関係ないっての……」


 口にこそ出さなかったが、アスラの心には小さな闇が芽生えていたのだ。


 それでも表面上を取り繕いながら過ごしていたある日、アスラは自分の命運を決する事態に遭遇する。


 夕食後、いつものように夜の個人訓練を終え、部屋に戻ろうとしていた時。


 吉之助たちが揃って何処かに歩いてゆくのを見かけた。


「こんな夜中に……?」


 不信に思い跡をつけると、彼らは召喚の行われた広間へと入っていった。


「見張りも立ててない? 不用心なのか、見張りにも聞かれたくないのか……」


 おそらくは後者だろう。


 扉に耳を寄せ、中の様子を探る。


「もはや、一刻の猶予もありません」


 聞こえてくる話声から、セレスフィアも一緒のようだ。


「しかしながら、それは可能性の一つという事であると……」


 吉之助が、セレスフィアの提案を拒むように答える。


「他は全て試しました。考え得るのは、この方法のみなのです」


「ううむ……」


 おそらく話題は呪いについてだろう。だが、彼らは何を試そうとしているのか。


「吉之助、もう迷っている場合ではないだろう」


 三郎太が決断を迫る。


「私たちは、この世界のために戦うと誓いました」


「世界と、一人と、どちらが重いのか、よくお考えください。吉之助様」


 佐那と汐里にも迷いはないようだ。




「ってか、こいつら、何の相談をしてるんだ……?」


 アスラの心に、極限まで不信感が広がる。




「……分かった」


 やがて観念したように吉之助が答えた。


「それで、方法は如何に。せめて、できるだけ苦しまずに送ってやりたいが……」




 送る? 何を? 


「苦しめずにって、誰を……」


 アスラの心臓が早鐘を打つ。




「明日の夕食に……毒を盛ります。苦しむ事も、死を意識する事もなく、眠るように最後を迎えられるでしょう」


「毒に、耐性があったら?」


「その時は、寝ている間に俺が」




「毒を盛る? 殺すつもりか? 誰を?」


 アスラは自問するが、正解は既に示されている。


「俺、を……」




「では明日の夜まで、明日見殿に悟られぬよう注意しよう」


 吉之助の声が響き、この密会に終止符が打たれた。


 アスラは気付かれないよう物陰に身を隠し、彼らが去って行くのを待って自分の部屋に戻る。


 明日の夜、それは決行される。


「ふざけるな! 勝手に呼んどいて、邪魔だから殺す? 冗談じゃない! 殺されてたまるかよ!」


 この世界に、何の義理もない。


 明日まで待つつもりもない。


 奴らが動く前に、先手を取ってやる。


 その夜遅く、アスラは身支度を整え部屋を抜けた。


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