【第359話】もう一人の明日見僚
〝これは……〟
気が付くと、シリューは懐かしい場所に立っていた。
いつものように美亜と待ち合わせた交差点。
そして、目の前には信号を待つ高校生の男女が四人。
「……いま……?」
ほのかが振り返り、シリューは気まずくなって逃げるように駆け出す。
周りの音が消え、時が止まり、眩しい光に包まれる。
上下さえ分からない浮遊感。
まるっきり、あの日と同じだ。
この世界に召喚されたあの日の出来事を、寸分違わずに繰り返す。
〝夢、か……?〟
昨日はレーヴグラーツィアで直人たちと食事をた後、王都を案内してちょっとした観光気分を味わってもらった。
それからクランハウスに戻り、早めにベッドに入り本を読んでいたはずだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。
ただ、夢にしてはやけにリアルで意識もはっきりしている。
やがて光が消え、同時に浮遊感もなくなり、薄暗いホールに投げ出された。
あの時と違うのは、尻餅をつかずしっかりと両脚で立っている事だ。
いや、違うところはまだある。
召喚魔法陣に立つ四人は、直人たちではない。
「ようこそ、勇者様、従士様方」
そう挨拶をする女性も、パティーユとは別人だ。
〝どういう事だ……?〟
自分が五人目の召喚者である事に変わりはないようなのに、その他のすべてが違う。
「どこだよ、ここ……」
シリューは周りを見渡して呟く。
だがそこには大きな違和感があった。
視線を動かしたのも呟いたのも、自分であって自分ではないとでも言えばいいいのか、とにかく自分の目と耳で聞いているはずなのに、まるで3Dのゲーム画面をプレイヤー視点で見ているような感覚が纏わりつく。
加えて、意識ははっきりしているものの、身体は別の誰かに支配され自分の意志で動いていない。
〝これって……〟
以前も似たような事があった。
エラールの森の中、転移魔法陣の痕跡を探していた時だ。
激しい胸の痛みに襲われ気を失ったシリューが見た、夢とも現実とも区別のつかない光景を思い出す。
真っ黒な雲に覆われ、草も木も枯れ果てた、殺伐の支配する世界。
神々しい三柱の龍は目の光を失って横たわり、肉の焼けるような臭いと夥しい死体が大地を埋め尽くす。
誰も動く者のいない地獄絵図に、透き通るように輝く碧の髪をなびかせ、エルフと思しき一人の女性だけが立っていた。
「……貴方を、救いたかった……」
大粒の涙を零し、エルフの女性が手にした弓を引き絞る。
「愛……て……ます……り……」
とぎれとぎれの言葉。
そして、放たれた矢が胸を貫いたところで目が覚めた。
〝……もしかして、あの時の事も、これも……もう一人の、俺の記憶……?〟
何らかの理由でもう一人の自分と意識が繋がったのだろうか。
「アイツが呼んだのか? 王都の時みたいに。それとも……」
アスラの目を通して見える光景を、じっくりと観察してみる。
召喚された他の四人は、明らかにシリューと同じ時代の人間ではなさそうだ。
歴史書で見た覚えがあるが、男性二人は平安時代の『水干』という装束に身を包み、二人の女性は小袖に褶だつものという布を腰に巻いている。
コスプレでなければ、この人たちは平安時代かそれに近い時代から召喚されたようだ。
四人とも警戒はしているものの身構える素振りは見せず、女官の差し出した指輪をはめる。
「改めまして、ようこそこのグランヴィル王国へ。わたくしはセレスフィア・グランヴィル。我々はあなた方四人を歓迎いたします」
両手を胸の前で合わせ、優雅にお辞儀をする金髪の女性が、召喚の儀式を行った本人だろう。
彼女が口にした【グランヴィル王国】はエルレイン、アルフォロメイ、ビクトリアスの三大王国ができる以前、魔神によって滅びた国だと聞いた事があった。
〝やっぱり、ここは1500年前の世界……〟
そしてシリューの場合と同じく、アスラも望まれない召喚者というわけだ。
「あの、四人じゃなくて、五人みたいなんですけど」
あの時と全く同じ言葉をアスラが口にする。
「ええ!?」
セレスフィアが大きくめを見開いてアスラを見た。
ここまでは、ほぼシリューの時と変わらない。
〝ここから、何が変わるんだ……〟
魔神へと至った理由。
それを確かめたいとシリューは思った。




