【第358話】築き上げた繋がり
「シリュー」
禍害即応機構の初回会議が終わり、大会議室を出ようとしたところで、シリューは自分を呼び止める声に立ち止まり振り返った。
「やあディック。あんたたちが魔調研から選ばれたんだな」
声をかけてきたのはリチャード“ディック”ブリューワーとエマ・エフォリアード。
今回の会議は実務担当者同士の顔合わせという名目で、それぞれの組織から選ばれたチーム全員が出席していた。
ディックとエマは、王都の危機を共に乗り越えた仲間だ。
「ああ。またお前と一緒に働ける事になって光栄だ」
「よろしくね、シリュー」
「よろしく、ディック、エマ」
シリューは二人と握手を交わす。
「あたしもいるわよ、シリュー君」
そう言って二人の背後からぬっと姿を現したのは、魔調研長官のタンストール。
いるのは最初から分かっていた。会議室に入った瞬間、その姿が目に入ったのだが、あえて見ないようにしていたのだ。
「久しぶり、元気そうで何よりだわ」
「たった今、体調を崩しました」
シリューはタンストールの差し出した手を、申しわけ程度に触れお茶を濁す。
「相変わらずだな……」
気にした様子もなく、あははと笑いながら去って行くタンストールと、あからさまに嫌そうな表情のシリューを交互に見て、ディックは蒼ざめた顔で息をついた。
「おお、シリュー。例の件で少し話したい事があるでな。近いうちに訪ねてくれ」
冒険者ギルド本部長のエリアスが、立ち止まらずに過ぎて行く。
例の件とは、おそらくハイエルフの王女、アリエルに関する話だろう。
「ええ、後で行きますよ」
エリアスを見送った後、ディックたちも「またな」と軽く挨拶をして離れていった。
「何か、やっぱ凄ぇな……」
その様子をずっと眺めていたのだろう。
直人が感心した表情で歩み寄ってきた。
「凄い? えっと……」
何の事を言われているのか、シリューは首を傾げる。
これまでの場面で、凄い、と思われるような事は無かったはずだ。
「改めてさ。お前は一人で、しっかり地盤を作ってたんだな、って思ってさ」
直人は溜息交じりに、「俺には絶対ムリだ」と続けた。
「そんな、大げさな事じゃないですよ……」
とはいえ、積み上げてきたものは少なくない。
シリューは未だざわつく会場を眺める。
知っている顔、知らない顔。
ここに集まった人々が、これからこの世界のために手を組む。
その中に、勇者一行の一人としてではなく、シリューはシリュー個人として参加する。
「でも……ちょっとは自慢してもいいですかね」
「いいに決まってんだろ」
直人はシリューの肩をぽんっと叩いた。
「ちょっと、男同士で、何の話し?」
それまでミリアムたちと雑談に花を咲かせていた有希が、興味深そうに近づいてくる。
「別に、たいした事じゃねぇよ」
「そうそう、この後どうしようか、って」
聞かれて困る話でもないが、何となく気恥ずかしくて話題を変えた。
「あ、それなら、どっか美味しいお店案内してよ。ね、僚君!」
「賛成! ねえミリアムさんたちも、一緒に行こう?」
有希とほのかが、期待に満ちた笑顔を浮かべる。
「ええと……」
王都は長いが、その方面にはあまり詳しくない。
シリューは助けを求めるようにハーティアをみつめた。
「そうね。皆ドレスコードに問題はないし、父が懇意にしているレストランなら、この人数でも予約なしで大丈夫だと思うわ」
以前ハーティに連れて行ってもらった、王都で最も高級な店。
名前はたしか『レーヴグラーツィア』。
あそこなら、有希たちもパティーユも満足してくれるだろう。
「ドレス、コード……」
直人は……少々堅苦しいと感じるかもしれないが。
「もうっ。晩餐会とか、何回も出てるでしょ。いい加減慣れなさいっての」
有希が直人の背中を勢いよく叩く。
「シリューさんも。もう大丈夫ですよねっ」
ミリアムは、少し悪戯っぽい笑み浮かべてシリューを見つめた。
「俺の事はいいんだよ。皆が楽しんでくれれば」
実のところ未だに緊張してしまう店だが、多少は慣れてきたし、その良さも分かってきたつもりだ。
「素晴らしい考えだね」
「本当。素敵な紳士に成長したわ」
クリスティーナとハーティアは真顔だが、本心なのか揶揄っているのか。
それでも、その後皆で『レーヴグラーツィア』へ向かい、優雅で楽しい時間を過ごしたのは言うまでもない。




