【第357話】私たちはきっと……
「あ、私が……」
ソファーから立ち上がり玄関に向かおうとしたミリアムを、「ちょっと待った」とドクが制した。
「ここはこの家の主である、シリューが出るべきじゃないかな?」
なるほど、また何か企んでいるのだろう。「お見えになられた」という言い回しがどうにもきな臭い。
だが今回は手の内を見せるのが早過ぎた。
「アドバイスありがとうドク。ミリアム、俺が出るよ」
シリューはドクに対して大仰なお辞儀をし、玄関に向かう。
相手は果たしてどこのお偉方だろうか。
タンストールやエリアスはもちろんの事、たとえ国王が来たとしても今更驚きはしない。
「残念だったな、ドク。あんたのサプライズなんか、もう引っ掛からないって」
そう心の中で呟きながらドアを開ける。
ガチャ。
「え!?」
不覚にも、そこに立っていた人物に意表をつかれてしまった。
「こんにちは、僚」
「パティ!?」
彼女が一人で訪ねて来るとは。
目を見開いて固まっているシリューに、パティーユが穏やかに微笑みかける。
「あの、入れてもらえますか?」
「あ、ああ、もちろんっ、どうぞ」
こくり、と頷いて玄関の扉を潜ったパティーは、固まったままのシリューを通り過ぎてミリアムたちに挨拶をした。
アスハイマでの休養中に随分と打ち解けたようで、彼女たちの間に以前のような堅苦しさはない。
得意げな顔つきで首を傾けるドクには少しムカつくものの、やって来た相手がパティーユとなれば話は別だ。
「なあ、どういう事だ?」
シリューはドクに近づき小声で尋ねた。
何の目論見も無く、ドクがこんな事を仕込むはずがない。
「考え過ぎだよシリュー。これは禍害即応機構の運営上……」
「詳しくは、私から」
パティーユが、不自然にならない程度の距離でシリューの隣に立ち、ドクの言葉を継いだ。
各組織間の連絡や手続きを円滑に進めるため、主要な戦力である勇者パーティーと『銀の羽』、それぞれに窓口となる担当者を置く事となった。
候補者として名前の挙がったパティーユとエマーシュ二人のうち、パティーユが銀の羽の担当に決まったのだという。
「えっと、という事は……」
シリューは重要な事に気付いてパティーユを見つめる。
「はい。運営上、どうしても必要な事でっ。不束者ですが、あの、何卒よろしくお願いしますっ」
この件はパティーユが自分から名乗り出たのだろうか、それとも直人やエマーシュが気を回してくれたのだろうか。
清楚という言葉がよく似合うパティーユだが、いざという時の押しの強さはなかなかのものだ。
二人のうちのどちらか、となれば責任を放棄した事にならず、堂々とシリューたちの担当となれる。
「こちらこそ、よろしく、パティ」
それを本人に尋ねないくらいには、シリューも成長していた。
意外だったのは、ミリアムもハーティアもクリスも、さほど驚いているようには見えない事だ。
「じゃあ、第一回目の会合は明日の午後だ。俺はこれで失礼するよ」
そういってドクは去って行った。
下手な詩を聞かされなかったのは幸いだ。
「あの、いきなり押しかける形になってしまって……迷惑ではありませんか?」
ドクがクランハウスから出て行くと、パティーユはミリアムたちに向け、恐る恐るといった様子で尋ねた。
「大丈夫です。私も押し掛けですから」
「私もそう、ですね。部屋も一つ空いていますから、遠慮なさらないでください」
ハーティアとクリスティーナはそう答えた後、二人同時に後ろに立つミリアムを振り返る。
全員の視線が集中する中、ミリアムはゆっくりと深呼吸をした。
それから少しだけ間を置き、朗らかな笑みを浮かべる。
「多分……いえ、きっと……私たちは一緒にいるべきだと思います。それが運命かどうか分からないけど、私たちの使命、望みは……同じはずだから」
運命の乙女。
その意味を最も深く理解しているのは、紛れもなくミリアムだ。
そして、幾多の経験と戦いから、彼女はその終焉を見据えていたのかもしれない。




