表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

370/376

【第361話】逃走、そして再会

 アスラの気持ちはシリューにも痛いほど理解できた。


 別の個性とはいえ自分自身だから、当然といえば当然なのだが。


 激しい怒りを抱きながらも、アスラの行動には冷静さも備わっていた。


「寝込みを襲っても、吉之助とかには勝てないしな……」


 確か彼には危機察知のスキルがあったはず。


 ならばここは闇に紛れて脱出し、何処かに潜伏し元の世界に戻れる方法を探すのがベストだろう。


 部屋を抜け出したアスラは、慎重に王宮の出口を目指す。


 ところが、出口まであと少しというところで、少し焦ったせいか見回りの兵二人に見つかってしまった。


「おや? こんな夜中に、どうされました?」


 一般兵はまだ事情を知らされていないのだろう。


 アスラは一瞬だけ迷ったが、決断を下すのにそれほどの時間は掛からなかった。



〝よせっ、やめろ!〟



 何をしようとしているのかに気付いたシリューが、心の中で叫ぶ。


 だが当然、その声はアスラに届くはずもない。


 スキルはなくとも強化された身体能力とスピードは、普通の兵士程度なら瞬時に無力化できる。


 アスラは素早く兵との間合いを詰め、一人目の心臓を剣で貫く。


「なっ……」


 もう一人が声を上げる前に口を塞ぎ、首の骨を折る。


「お前たちが悪いんだ……こんな腐った国で、兵士なんかやってるから」


 人を殺しても、罪の意識などまったく湧かなかった。


 相手は兵士だ。戦って死ねたのだから満足だろう。


 そんな感想しか出てこなかった。



〝何て事を……〟



 アスラが境界線を越えた瞬間だった。


「お前は、手配中の!」


 ある街に立ち寄った時は、官憲に見つかり取り囲まれてしまう。


 相手は4人。


「捕まってたまるかよ!」


 アスラは躊躇なく、全員を殺した。


「恨むなら、王女のセレスティアを恨めよ」


 それから一か月ほど経つ頃には、街道の至る所に検問所が設けられ、どの街でも取り締まりが厳しくなる。


 数を増した追手から逃れるため、昼は身を隠し夜暗くなってからの移動を余儀なくされた。


 そうなると水はともかく、食料の調達が難しい。


 真夜中、人家に忍び込み金品を奪う事もしばしば。


 一度は襲ってきた野盗たちを皆殺しにして、金と食料を奪った事もある。


 この頃になると、もうこの世界の人間の命など、ただ路肩の石程度にしか思わなくなっていた。


「悪いのは俺じゃない。俺をこの世界に連れて来た、お前らが悪いんだ」


 ある夜、忍び込んだ家の主に気付かれ、咄嗟に殴り倒した。


 老人だった。殺すつもりではなかったが、力の加減もしなかった。


 死んだのかどうか、もう興味すら湧かなかった。


 やがて監視の目は昼夜を問わず蜘蛛の巣のように張り巡らされ、街にも立ち寄れなくなる。


 アスラは確実に追い詰められつつあった。


 そんな時、ある転機が訪れる。


 昼間。森で見つけた小さな洞穴の中に、蹲り身を隠していた時の事だ。


「ようやく、見つけました」


 透き通るような女性の声に顔を上げる。


「だ、誰だ!」


 近づいてきた事にまったく気付かなかった。


 眠ってしまっていたのかもしれない。


 とにかく、その女性は身構えるでもなく、柔らかな微笑を湛えていた。


 それがハイエルフ、アリエル・ミュラトールとの出会いだった。


「俺を、助けてくれるのか?」


 碧の髪を揺らしてアリエルは頷く。


「追手が迫っています。ここは安全ではありません、わたくしと来てください」


「どこに? 安全な場所なんてあるのか?」


 アスラからみれば、この世界の全てが敵で危険な場所に他ならない。


「アストワールの森に、わたくしの住まいがあります。ここからは少し遠いですが、そこなら貴方を守る事ができます」


 アストワールの森がここからどれ程の距離にあるのか、見当もつかない。


 そこまでの道程を、この儚げなエルフと無事に行けるのか。


「あんたは、どうやって俺を見つけたんだ? 追手だって、上手く躱してきたのに」


 一番の疑問点だ。


 遠い所から一人でやって来て、この場所をどうやって探り当てたのか。


「わたくしは、世界樹を通して、この星の意識と繋がる事ができます」


 つまり、世界の何処にいても、目標の人物を見つけられるというのだ。


 だが、魔法の存在する世界とはいえ、本当にそんな事ができるのだろうか。


 たとえできたとして、アスラを助ける事にどんなメリットがあるというのか。


「はっきり言って、あんたも信用できない」


 アスラはあの日以来、全てを疑っていた。


 そんなアスラに、アリエルは慈愛に満ちた笑みを向ける。


「分からない? 私だよ……()()()()


 久しぶりに、本当に久しぶりに、その呼び名を聞いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
下記のサイト様のランキングに参加しています。
よろしければクリックをお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング
こちらもよろしくお願いします。
【異世界に転生した俺が、姫勇者様の料理番から最強の英雄になるまで】
― 新着の感想 ―
更新有り難うございます。 ⋯⋯なん⋯⋯だとぉっ!?(ここで(コッチでも?)繋がりが?)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ