【閑話10-1】リゾート気分!(中編)
夏の陽射しが湖面に反射し、白くきらめく。
レウニ湖のビーチ。
シリューはパラソルの影で、デッキチェアに体を預け、ぼんやりと湖面を眺めていた。
「……遅……」
20分以上待っているのに、まだ誰一人来ない。
「3番って、言ったよな……」
このビーチは、一区画毎に予約することができ、パティーユは確かに3番の区画だと言ったはず。
「迎えにいった方がいいかな……」
そう思っていたところ。
「お待たせぇ」
「待った? 僚君」
背後から、ほのかと有希が現れた。
待った、とは言わない。
それよりも……。
「ねえねえ、どお?」
「リゾートだし、異世界だし、ちょっと攻めてみたんだけど」
二人がくるんっと回る。
有希は赤、ほのかは青。大きなフリルの付いたオフショルダーブラに、両サイドがリボンのショーツ。エスニックな雰囲気漂う更紗柄。
「うん、二人とも、めっちゃ似合ってる。可愛いよ」
どストレートな誉め言葉に、二人は驚き、顔を見合わせる。
そして――。
「僚くん……成長したんだね」
「嬉しいけど……何か、照れる……」
僅かに頬を赤らめた。
そうしているうちに、ようやく他の四人もやって来る。
「お待たせ、飲み物を貰ってきたわよ」
最初はハーティア。
薄い藍色のビキニ。
装飾は少ないが、その分、洗練された色気が際立つ。
「わ、意外と……ある……」
「ナイスバディ……」
少しだけ羨ましそうに、ほのかと有希。
「お待たせして、ごめんない」
次に現れたのはパティーユ。
白いビキニに薄いショール。大胆さの中にも気品がある。
「姫って、着やせするタイプなんだ……」
「……ごーじゃす」
三人目、クリスティーナ。
「待った? シリューくん」
胸元と両脇が大きく空いた黒のワンピース。
胸の部分は細い鎖で繋がっていてかなり際どいが、下品にはなっていない。
「す、すごいね……」
「ワガママ、傲慢……」
ほのかと有希の額に、一筋の汗が。
「遅くなってごめんなさいっ」
最後にミリアム。
二人は息を呑む。
紫の三角ビキニ。
布面積は――言わずもがな。
これで泳いだら、胸がまろび出そう。
「や、これは、別次元……」
「――でんじゃらす……」
有希は自分とほのか、そしてミリアムたち四人を交互に見比べる。
少し考えた末に、二人が出した答えは――。
「ねえ、僚君ってさ……」
「うん」
「……巨乳ふぇ――」
「違うから!」
シリューは、速攻で否定した。
「それで……どうですか?」
ミリアムが腰に手を当てて、わざとらしく前屈みになる。
「どう、とは……?」
「分かっているでしょう?」
その横にハーティアが並ぶ。
「しっかり、見てください」
パティーユが、両手を広げ。
「こういうの、好きだよね?」
クリスティーナは、ゆっくりと髪をかき上げる。
つまり、選べと。
誰が一番かを。
だが――。
「……いい、と思う」
「何が〝いい〟のかしら?」
腕を組み、ハーティアがにやりと笑う。
「……全員、似合ってるし、綺麗だし、かわいい……」
四人の視線がシリューを追い詰める。
逃げ場は、ない。
「却下」
「また日和る?」
「逃げましたね」
「甘いです」
四方向から容赦のない否定の言葉。
「ってか、ごめん。順位とか無理!」
シリューは海に向かって駆け出す。
「あ、逃げたっ」
「待ちなさい!」
「逃がさないよ!」
「覚悟を決めてください!」
ミリアムが、ハーティアが、クリスティーナが、パティーユが。
笑顔で追いかけてゆく。
「捕まえましたぁ」
「うわっ!?」
波打ち際で真っ先に追い付たミリアムが、シリューにタックル。
ばしゃん!
そのまま二人で水の中へ。
「ミリアム、ずるいわよ!」
「公平じゃないとね!」
「遠慮はしません!」
起き上がろうとしたところで、更に三人が抱きついてきた。
「ちょ、待っ――!」
もう一度、今度は全員で水に倒れ込む。
湖面に、水しぶきと笑い声が弾ける。
「子供かっ!」
何とか立ち上がったシリューが叫ぶ。
「はい、今は子供です!」
「そうね、子供なら、こんなこともできるわ」
ミリアムとハーティアが、ばしゃばしゃと楽しそうに水をかけてくる。
「ぷっ」
顔に水を浴びて、シリューは思わず目を閉じた。
「ふふ、隙だらけですよ!」
ばしゃっ、と今度はパティーユが。
「やったな……っ!」
反撃しようとした瞬間――
後ろから、しがみつかれた。
「クリス!?」
「ほらほら、逃げ場ないよ?」
背中にぴったりと張りつかれ、腕の自由が利かない。
「ちょ、離れて!」
「やだ」
クリスティーナは、悪戯っぽく舌を出す。
「じゃあそのまま――」
にやり、とハーティアが笑う。
「え?」
次の瞬間。
正面から、盛大な水しぶき。
「ぶっ――!?」
「挟み撃ち成功ね」
「ぐっ……覚えてろ……!」
「ほら、こっちも空いていますよ?」
反対側から、今度はパティーユが控えめに、しかし確実に水をかけてくる。
「いや待て四対一は卑怯だろ!?」
「戦いに卑怯はありません」
ミリアムがきっぱりと言い切った。
「ないわね」
「ないね」
「ないです」
「……それも四対一?」
そのとき。
――ぴちゃ。
「……?」
頭に、小さな水滴。
「ぴちゃ、ぴちゃ」
今度は連続で落ちてくる。
「……雨?」
見上げる。
空は快晴だ。
「違うの、です」
すぐ近く――いや、すぐ上から声がした。
「ヒスイ?」
次の瞬間。
ばしゃぁっ!!
「うわああああ!?」
頭上から、水が降ってきた。
「ふふふ、奇襲成功なの、です」
いつの間にか、ヒスイが宙に浮かんでいた。
「ヒスイ、ずるいだろそれ!」
「これは戦術なの、です」
「そっか……」
ミリアムがにやりと笑い、他の三人に目配せする。
「ほら、逃げられないですよ?」
ミリアムが右の腕を取る。
「観念しなさい」
ハーティアは左腕を。
「もう少し、楽しもうよ」
クリスティーナが背中から離れない。
「まだ終わりませんよ?」
パティーユは、正面から肩を掴む。
四人が密着して、動けない。
「一緒に、行きましょうね、シリューさん♪ ヒスイちゃん、お願い!」
「了解なの、です!」
「待て待て待て――!」
次の瞬間。
ざっぱあぁぁぁん!!
大量の水が滝のように落ちて来た。
「きゃあぁぁぁ!!」
――その光景を、少し離れたパラソルから。
「……なんか、楽しそう」
有希がぽつりと呟く。
「楽しそうだねぇ」
ほのかがくすっと笑う。
「あたしたちも……」
「いこう!」
有希とほのかが砂浜を駆ける。
戦いの後に訪れた、ひとときの平和。
数日前までは、命を懸けていたことが嘘のようだ。
けれど――。
この時間を守るためなら、また何度でも戦える。
そう思えるくらいに、今は穏やかだった。




