【閑話10-1】リゾート気分!(前編)
ベナルートでの戦いの後、シリューたちはガイナン王国一のリゾート地、アスハイマを訪れていた。
針葉樹の森に囲まれた美しい景観を持つレウニ湖は、周囲20Km、水深約20mと日本の河口湖に近く、湖水浴や釣りを楽しむ避暑客で賑わう。
今は火期の下月、日本なら真夏の季節だ。
「めっちゃ綺麗な湖っ。みんなっ、泳ご! って、その前に水着!」
有希は早速大はしゃぎで皆を引き連れ、水着を買いに向かう。
「行ってら~」
正直、湖水浴に興味のなかったシリューは、直人と恵梨香に誘われて、エマーシュと四人で釣りをするため、別行動をとるつもりだったが……。
「何言ってるんですか、シリューさんも来るんですっ」
「ほら、僚君!」
と、無理矢理に手を引かれる。
「じゃあな~」
「楽しんでください」
直人と恵梨香は予定通り、エマーシュと一緒に釣り場へと向かって行った。
「ヒスイも泳ぐの、です」
「うん。流されないように、注意してね」
いざとなれば飛べるので無用な心配かとも思ったが、一応は念を押しておく。
「大丈夫なの、です」
ヒスイは自信満々に胸を叩く。
イロウシュットとの戦いの後、二度目の進化を果たし魔力が倍増し能力も強化された。
エピスタシス・ピクシーからエピジェネティック・ピクシーへ。
特筆すべきは、魔力存在になる『姿消し』(不可視になるが魔力は検知可)が、別位相の空間に潜んで存在できる『潜在』(魔力も検知不可)へと進化した事だ。
自由に別位相へと行き来できるヒスイを、もはや誰も傷つけたり捉えたりはできないだろう。
「あ、ほら、ここ」
店先に並んだたくさんの水着を指差し、有希の声が弾む。
「日本とあんまりかわらないねぇ」
と、ほのか。
確かに、女性用はカラフルな色に多彩なデザイン、サイズも豊富に揃っている。
「不思議だよな……」
シリューは、店を眺めて呟いた。
文明レベルに対して、縫製技術だけが突出して高い。
「やっぱ、召喚者が関係してるのかな……」
湖水浴よりも、そちらの方に興味をそそられる。
「ほら、ぼおっとしてないで、ちゃんと選んでください!」
ミリアムが腕を引っ張る。
「え、えっ? 俺が?」
「他に誰がいるんですか」
きっぱりと言い切るミリアム。
「誰に見せると思っているの?」
耳元でハーティアが囁く。
「見たいでしょ? シリューくん」
クリスティーナがウィンクする。
「僚の好みを聞いておかないと」
パティーユも声を弾ませる。
「や、ちょっ――」
見たいかと問われれば、もちろん見たい。
だが、女性物の売り場に入るのは気恥ずかしい。
選ぶのは、もっと――。
「「「「いいからっ!」」」」
結局、四人に押され、引きずられ、シリューは店の中へ。
「どれにします? 好きなのを選んでくださいっ」
「いや、俺のじゃないんだけど……」
「ある意味、君の、だよ?」
ミリアムとクリスティーナは、楽しそうに笑う。
「なんか、面白いことになってるねぇ」
「僚君、アウェー感ハンパない」
少し離れた場所で、ほのかと有希が様子を窺う。
「じゃあまずは軽めからいきますね」
ミリアムが手に取ったのは――。
布面積がやたら少ないビキニ。
「軽め、とは?」
いや、確かに軽いだろう。重さは。
「これは?」
ハーティアが、ちょこんと首を傾ける。
見ると、さらに布が減っていた。
「減ってるよね!? 確実に!」
「進化よ」
「退化だろ!」
だが、このまま進化したら――。
「じゃあ、コレはどう?」
クリスティーナが、蠱惑的な笑みを浮かべた。
胸元も脇も大きく開いた、ほぼ紐のようなデザイン。
「……それ、どうやって固定するの?」
「気合い? かな」
「歩けないよね、それ!」
完全に物理法則を無視している。
「こちらも素敵ですよ」
パティーユが取り出したのは――。
白く上品だが……透け感が強い一着。
「いやいやいやいや」
「問題ありますか?」
「大ありだと思うけど!?」
彼女たちの手にあるのは、どれも実際に着用できるか怪しいものばかり。
「……あのさ」
有希がぼそっと呟く。
「これ、選ばせる気、なくない?」
「うん、追い込んでるだけだね、完全に」
さすがに、あの輪に入る勇気はない。
「で、どれがいいんですか? シリューさん」
四人が一斉に詰め寄る。
四人の圧が凄い。
「あ、え、えっと……」
気持ちはもちろん――。
だが。
「じゃあ、みんなコレでっ」
シリューが咄嗟に掴んだのは――。
露出の少ないワンピース。
「「「「却下!!」」」」
即答で拒否された。
「じゃあ、こうしましょうか」
ミリアムが一歩近づく。
「私、これ着ます」
手にしているのは。さっきの〝布が少ないやつ〟。
「いや、待て」
「そして……」
さらにもう一着。
ほぼ紐。
「そっちは何?」
「気分で変えます」
「何の気分!?」
圧倒され続けるシリュー。
「ミリアムさん、完全に仕掛けにいってるね」
「うん、勝ちに来てる」
ほのかと有希は、事の成り行きを興味深く見守る。
「勝負、ですよね?」
ミリアムがにやりと笑う。
「誰に?」
「決まってるじゃないですか」
ちらっとシリューを見る。
「……ああ、あのっ、ちょっと用事がっ」
シリューは苦しい言い訳をして店を出ていった。
「逃げた、か」
「逃げたね」
「逃げましたね」
「でも……」
ミリアムが小さく笑う。
「逃がしません」
レウニ湖の湖岸では――。
道具一式を借りた直人たちが、釣りの名所と言われる湾状の浅場を目指していた。
「何か、ガキの頃、親父と一緒に行った湖に似てるなぁ」
直人は、懐かしそうに目を細める。
「有希さんたちと行かなくて、良かったんですか?」
恵梨香が尋ねる。
「え、何で?」
直人も湖水浴に興味はなかった。
恵梨香は悪戯っぽく笑って、
「ミリアムさんたちの水着、見逃しましたね」
「ああ~そっか。残念っ」
素直に悔しがる直人。
「――でも、今日は釣り!」
そう宣言して、そのまま岸辺に行こうとしたところ――。
「いけませんっ」
エマーシュに止められた。
「いきなり岸に立っては駄目です。ある程度、距離を取って……」
3mほど岸から離れた場所で、エマーシュは疑似餌をキャストする。
水面の波紋が消え、ちょんちょんっと疑似餌を動かす。
すると――。
がぼっ!
水面を割って、魚が疑似餌に喰い付いた。
「おおっ!」
1分ほどの格闘後、釣り上げた魚を披露するエマーシュ。
「40cmくらいですね。なかなかいいサイズです」
俄然やる気になる直人と恵梨香。
「じゃ、俺たちも!」
「大物、狙います!」
湖面に向かって、疑似餌を投げ入れた。
つかの間の休息。
今は全員がそれを楽しんでいた。




