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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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122/123

16-1

 まだまだ寒さが収まらない2月。

 自身の存在や世界の可笑しさに気付いたヒロイン早乙女は結局のところ主人公に絆されて日常に戻った。自分の変える場所は主人公の横だと、最愛の場所は主人公がいるところだと思い直して日常へと戻った。

 主人公様とそのヒロインたちはいつもの日常へと帰って行った。


 けれど彼ら彼女らの日常は変化している。

 日常は留まることを知らず変わり続ける。

 その言葉の通りに。


 例えば彼ら彼女らが通う学校。

 本来は県立文殊高校という取り立てて特徴のない何処にでもある公立校。世界を大いに盛り上げる団なんてないし、奉仕する部活もない。生徒会に強大な権力があるわけもなく、異世界転移したりもしない。

 本当に何処にでもある高校だった。


 それが今となってはお祭りだらけの超自由な学校へと魔変化している。


 真新しい校舎。

 最新設備の教室。

 日本的な古めかしい机や椅子はなく黒板もない。

 制服は可愛らしくコストを無視した無駄に凝った意匠。

 部活動は盛んで摩訶不思議な同好会まで存在する。

 生徒会には強大な権力があり、お祭り好きの生徒会長がイベントを勝手に作り盛り上げる。


 要するにマンガやアニメなどの創作物に出てくるような学校へと変化してしまった。


 それは当然、当たり前の変化ではなく超常的な力によるもの。主人公様の我が儘による変化。

 どうやらヒロインを助けた主人公様はパワーアップし、傲慢さがグレードアップしたらしい。

 学校がアニメチックになっただけであれば可愛らしいモノだ。中学高校生であればそういった創作物に憧れる。そんな面白い場所があれば良いなと夢想する。それは仕方のない事だと思う。

 問題は夢想する子どもには世界を変えてしまう力があったこと。そしてその力を制御する能力が無かったこと。その力を制限するという理性が無かったこと。


 世界は主人公様の思い描く理想のために刻一刻と変化している。

 ヒロインを助けレベルアップの直後だからなのか主人公様の世界改変の力のストッパーは馬鹿になっている。夢の中の妄想が漏れるとかそういうレベルではない。

 不快に思った事、思い通りにならなかった事を平然と書き換えてしまう。


 例えば、アニメ的学校に似合わない風貌の生徒が消えた。

 例えば、全ての教師生徒が美男美女になった。

 例えば、主人公様を揶揄った上級生が消えた。

 例えば、主人公様を喧嘩で負かした生徒が消えた。

 例えば、綺麗な彼女を連れていた男子生徒が消えた。

 例えば、綺麗な女子生徒が急に主人公様を好きになった。


 誰もが主人公様に好意を持ち、持て囃した。

 そこは主人公様を持ち上げるためだけの場所になった。

 そんなモノはもう狂気でしかなかった。



「流石は主人公様と言った具合ですが、これは」

「子どもの癇癪とはいえこれは、ですわね」

「酷いな」



 狂った世界を共に嘆くことの出来る共犯者がいるというのは幸いだろう。


 現在俺は変わってしまった学校の屋上、植物などが植えられているルーフトップガーデンなる場所にいる。今時の学校には屋上などないのだがそこは主人公様の妄想。しかも屋上に庭園を造るのだから何でもありだ。


 文字通り高みから主人公様がアニメ的な日常を繰り広げているのを見下ろしている。主人公様は見目麗しい女生徒に追われて陳腐なラブコメを繰りひろげている。その様はまさに酷いの一言。

 そんな見下している俺の横には両サイドには2人。

 右には金色短髪のスレンダー女性。

 左には白色長髪のグラマラスな女性。

 遠目から見れば羨ましがられる両手に花状態だが、残念ながら両者ともにヒトではない。金色短髪はロジィで白色長髪が早乙女乙女の劣化品の模造品。共に俺が生み出したモノだ。


 早乙女乙女の劣化品の模造品。名はルビィ。

 名前の由来は特になく適当につけた。

 本物の早乙女乙女には協力を拒まれたがその意志に従う義理はない。使えるモノは使わなければ勿体ない。生み出さないという選択肢はなかった。

 ルビィを生成するための代償は肋骨。

 最後に早乙女と接触していたのは左腕だが流石に両腕を失うのは困るので頑張った。幸い早乙女の髪の毛が胸に刺さっていたのでそれをもとに生成した。髪の毛だけでは切り離して生み出すというイメージが弱かったので神話をもとに肋骨を使用した。

 基本的にその場の気分でやったのだが、流石は摩訶不思議力、何とかなる。


 生成した直後は不満を言われたりしたのだが今となっては好き勝手に遊んでいる。ロジィと共に肉体を変化させたり、好き勝手衣装を生み出したりと文句を言っていた癖に随分楽しんでいる。というか本物以上に今を楽しんでいたりする。

 この前なぞ揃って街へ遊びに出かけた。

 まあ、それで俺が困るわけではないので良いのだが。

 姿かたちを少し変えているのでロジィとルビィがローズマリー・キャロルと早乙女乙女であるとは知られないわけだし。



「それで貴様はあれをどうするのだ?」

「そうですわ。目的があるから私やルビィを生み出したのでしょう?」

「特にあれをどうにかするつもりはありませんよ。あれは俺にはどうにも出来ませんし」

「しかしするつもりの事はあるのだろう」

「それは流動的なので何とも言えませんよ。少なくとも今は」

「今は、ですか。まあいいですわ」



 ロジィもルビィも遊んでいるが目の前の面倒事を放棄しているわけではない。好き勝手に癇癪を起す阿呆をどうすべきか悩んでくれている。

 劣化品の模造品とはいえ凡人な俺よりはあれこれ考えてくれるだろう。


 とはいえ、あれこれ考えたところで今は本当に何も出来ない。

 主人公様は面倒なことに自身の能力を理解していない。自身にはどんな能力が備わっていてどう制御すればいいのかを知らない。

 正しくは知ったことを無かったことにしている。

 早乙女乙女救出の物語の中で主人公様は自身の能力についていくらか聞かされている。自身の能力がコピーなどではなく世界を思い通りに書き換える力だと知らされている。

 しかし、主人公様はそれを無かったことにした。

 自身の能力は持ったままで、自身の持つ能力を別のモノへと偽造した。

 そして世界を我が儘身勝手気ままに自身の都合が良い様に作り替えている。


 事ここに至って本当の意味で俺が生き延びられてきた理由を知った。

 無謀にも力を集め非日常の組織を相手に勝手が出来たその理由は主人公様の気分を変えないようにするためだ。

 主人公様の力は絶大だが完全ではない。能力を蓄え強大になることで意識自我はその影響に対抗できる。

 しかし抵抗できるのはあくまで意識自我だけ。自分が何者なのか何処にいてどんな過去を持っているのか。そういった情報は守ることが出来ない。自分自身の記憶意識には留め置くことは出来るが周囲の認識は書き換えられてしまう。

 主人公様の前では積み重ねて来たモノは意味を成さない。どれだけ尽くし献身を重ねても一度の失敗でその席を別のモノへと移されてしまう。その積み重ねを残したまま別のモノがそこへと居座ってしまう。

 例えば、俺が斎藤潤が主人公様に小言を言ったとしよう。それが主人公様には納得できない気に入らない不要なモノだったとする。その時主人公様は俺を排除するだろう。斎藤潤ではなく俺を。

 主人公様が世界改変を行った後の世界でも恐らく主人公様の横には友人である斎藤潤がいることだろう。けれどそれは俺ではない別の誰か斎藤潤として存在させられているだけ。

 俺には別の何かを押し付けられる。あるいはそこまで考えるのも面倒で何もないただのモノへと変わるかもしれない。


 主人公様とは下手に触れば破裂する腫物だ。

 必要以上に介入したくない。下手に斎藤潤へ手を出して世界改変を起こさせたくない。主人公様の癇癪がどこまで広がるか分からない。自らの志を捻じ曲げられてしまうかもしれない。折角積み重ねてきたモノを奪われるかもしれない。

 そう思えばこそ黒幕は多少の面倒も目を瞑って来たのだろう。


 しかし、問題はその腫物が破裂したこと。破裂しているのにそれを治療修正しようという動きが無い事。

 そしてそれは百合師匠たち主人公様の背後組織が今の主人公様を認めている事。今の状況が望む姿と認識している事だ。

 実に面倒くさい状況だ。


 そして面倒なことはそれだけではない。

 その面倒事を前にロジィもルビィも消え去ってしまう。



「斎藤君、で良いんだよね」



 初代ヒロイン。

 御幸美咲様のご登場である。

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