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友人Aの反逆日記  作者: みくじ


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16-2

 御幸美咲。

 主人公様の中学時代からのヒロイン。最初期は主人公様からの好意も多分にあった。ヒロインの中での役割は唯一非日常を知らず日常を愛するヒロイン。主人公様の返ってくる場所にいるヒロイン。

 ただ、物語として言えば御幸美咲はぽっと出のヒロインに負ける当て馬ヒロイン。早乙女乙女という非日常のヒロインによって蔑ろにされる残念な立ち位置。

 もっとも最近では新しい美女が多数出現し主人公様がそちらに現を抜かしているのでもう少し悪い立場かもしれないが。


 そんな御幸美咲は悩み事が多いらしい。表面上笑っていることが多いが何処か怯えている。主人公様の前では普段通りのヒロインを演じているが主人公様の意識が逸れるとため息ばかり。

 それはここ最近急激に増えた。前々から何やら思う事は多い様だった。それもそのはずで主人公様が非日常に駆けまわっているのだから会う時間も減っている。それでいて主人公様が怪我したりするのだから心配もするのだろう。

 けれど深刻になり始めたのはここ数日。

 正確に言えば主人公様が早乙女乙女を救出してから。

 主人公様が癇癪持ちの子どものように世界を簡単に変えるようになってから。

 御幸美咲の悩みの種は明らかだった。



「斎藤潤君、でいいのよね。私と、竜泉寺零王君と同じ中学だったあの斎藤潤君で良いのよね」

「なんとも随分な言い回しだね。それだと俺がキミの知らない人物だといっているようだけれど? それなりの付き合いだと思うんだけど、悲しいなぁ」

「……答えてよ。ちゃんと、答えて」



 普段の柔和で愛嬌のある笑顔はない。常に明るく元気な柔らかい少女の面影は残っていない。

 目元を見れば隈が出来ている。頬はやつれている。頬の筋肉は不自然に硬直している。肉体的だけではなく精神的にも追い詰められているであろうことが容易に推測できてしまう。

 明るく朗らかだった美少女は衰弱していた。

 それもそのはず。物語上残念な立場にある御幸美咲だが、彼女はこの世界で最も地獄を味わっているニンゲンだろう。


 世界は今、主人公様の手によって破壊され創造されている。大小さまざまな変化を瞬きでもするかのように、息をするかのように繰り返している。

 主人公様の力は強大でそれに抗う事が出来ない。

 抗ったところで自分以外が飲み込まれるのでどうしようもない。自分という存在が他の誰かのモノになってしまうのでどうにもならない。世界は主人公様の味方をするのでどうしようもない。

 誰もが主人公様の思う通りの役で思う通りの演技をしなければならない。

 俺も意識は連続しているが斎藤潤という役割から離れられていない。斎藤潤という役割を与えられる前の自分を思い出すことは出来ない。今でさえ主人公様には振り回されている。


 振り回されている中で未だに斎藤潤でいられるのは主人公様の世界改変の仕様が影響している。

 主人公様が改変するごとに世界は光に包まれる。その光に呑み込まれると変化後の世界の情報が流れ込んでくる。自分が誰でどんな役割なのか、誰とどんな関係なのか。台本と設定集が渡される感じだ。

 抗う事の出来ないモノはこの台本と設定集が強制的に自我へとかき込まれるのだろう。

 そんな使用であるため改変前の記憶を持っていてもさほど混乱が無い。見知らぬ人がいても設定集を見れば分かる。設定に合わない行動をして主人公様に切られることも無いという訳だ。

 ただそれは世界が変わるという事を理解できるから納得できる仕様でもある。脳内に見覚えのない人との思い出が急に生まれたり、見知っていた人物が忽然と消えたとしても主人公様の癇癪かと飲み込むことができる。

 世界で何が起きているのか。主人公様が癇癪を起しているという事を知らないモノがその状況に置かれればどうなるのか。

 陳腐ではあるが地獄だろう。


 そしてそんな地獄に御幸美咲という人物は巻き込まれているのだ。


 御幸美咲は非日常を知らない。主人公様から知らなくていいと保護されて来た。それ故に何が起きているのかも把握しきれないだろう。訳も分からないままに状況が変化する。そしてその変化に抗う事も出来ない。

 友人だったはずの誰かが消えてしまった。見覚えのない人物が親友面をしてくる。その摩訶不思議を知っているのに何も言えず何も出来ない。

 まあ、可哀想の一言だ。


 何故そんなことになっているのか。

 そんなモノ俺が知るわけがない。興味もない。

 けれど現実として御幸美咲には改変前の意識が残っている。世界の異変に気付いてしまっている。そしてその結果、ヒロインが主人公様の手を離れようとしている。

 原因や理由には興味が無いが御幸美咲というモノには価値がある。それをどのように利用しようかと思考を巡らせるのだがあまり良いものが浮かばない。

 どうしたものかと考えているとするりと右腕から力が抜ける。そして右胸に鈍痛が響く。

 見ればロジィとルビィが勝手に出現し御幸美咲をいたわるように包み込んでいる。勝手気ままは今に始まったことではないので驚かないが色々と止めて欲しい。こちらにも色々と考えがあるのに。

 まあ、良い案が浮かんでいたわけでは無いし下手に策を弄すると面倒になりかねないので良いのだが。


 ひとまず突然の2人に驚いている御幸美咲に返答だけしておこう。



「簡潔に言えば答えはNOです。とはいえ周囲にはキミが言った斎藤潤として認識されているようですけど」



 さて、ここからどう話をどう続けようか。

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