第24話『光の出し方ですねぇ。』
第24話『光の出し方ですねぇ。』
それから何度か、イスターニャとの練習を重ねた。
最初は時々しか動かなかった魔力も、少しずつリリナの言うことを聞くようになっていた。
まだ思った通りに何でもできるわけではない。
それでも、感じた魔力を少し離れたところへ動かすくらいなら、以前ほど迷わなくなっている。
「では、もう一度お願いします」
「はい」
リリナは目を閉じた。
自分の中にある魔力を探す。
見つけたものを意識して、少しだけ動かす。
「……動きました」
「そのまま、もう一度」
戻して、また動かす。
今度も分かった。
「大丈夫そうですね」
イスターニャの言葉に、リリナは目を開ける。
「今日はここまでですか?」
「いいえ」
イスターニャが小さく笑った。
「今日は、その先へ進んでみましょう」
「その先……」
リリナは少しだけ身を乗り出した。
「魔法ですか?」
「はい。ようやく実際に使う練習へ入れそうです」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ弾んだ。
自分の手から光を出してみたい。
家族と話したあの日から、その気持ちは前よりずっと強くなっていた。
「まずは、光魔法の中でも基本的なものから始めます」
イスターニャが片手を上げる。
「《ライティ》です」
「ライティ」
「明かりを作る魔法です。見ていてください」
イスターニャは手のひらを上へ向けた。
少しの間、その手を見つめる。
「ライティ」
言葉と同時に、手の上へ淡い光が現れた。
それは今まで見た小さな光とは少し違っていた。
丸い形を保ったまま、手のひらの少し上に浮かんでいる。
「これが《ライティ》です」
「明かりの玉ですねぇ」
「そうですね。暗い場所を照らす時などに使います」
リリナは浮かんでいる光をじっと見る。
「今、何をしたんですか?」
「魔力を動かして、この魔法を使うと決めてから、名前を口にしました」
「名前を言うんですね」
「はい」
イスターニャは《ライティ》を消した。
「魔法を使う時は、まず魔力を動かします。その上で何の魔法を使うのかを意識し、最後に魔法名を口にします」
リリナは自分の手を見る。
「では、『ライティ』と言えば出るんですか?」
「名前だけでは出ませんよ」
「やっぱりそうですよねぇ」
「魔力を動かさなければ、何も起きません。それに、何を起こしたいのかも分かっていなければなりません」
リリナは少し考えた。
魔力を感じる。
動かす。
使いたい魔法を思い浮かべる。
そして、名前を言う。
「今までの練習は、このためだったんですね」
「そういうことです」
ようやく全部がつながった気がした。
魔力を感じるだけでは魔法にならない。
動かせるだけでも魔法にはならない。
そこから先があった。
「光魔法は《ライティ》だけなんですか?」
「いいえ。他にもあります」
イスターニャは指を一本立てる。
「強い光で相手の目をくらませる《フラッシュ》」
もう一本。
「小さな傷を癒す《ヒール》」
「傷も治せるんですか?」
「ええ。ただし《ヒール》は、いきなり試すものではありません」
「そうですねぇ」
人の傷を相手に練習するわけにはいかない。
「今日は《ライティ》だけです」
「はい」
リリナはもう一度、イスターニャが光を出した場所を見る。
あの小さな明かりを、自分でも出す。
「では、やってみましょう」
リリナは手のひらを上へ向けた。
まず魔力を探す。
これはもう分かる。
次に、それを手の方へ動かす。
少し時間はかかったものの、ここまでもできた。
「そのまま、《ライティ》の光を思い浮かべてください」
「はい」
先ほど見た明かりの玉を思い出す。
丸くて、淡く光っていた。
あれを自分の手の上に出す。
そう思いながら、息を整えた。
「ライティ」
何も起こらなかった。
リリナはしばらく手のひらを見つめる。
「……出ませんねぇ」
「最初ですから」
「もう一度やってもいいですか?」
「もちろんです」
再び魔力を探す。
手の方へ動かす。
光を思い浮かべる。
「ライティ」
やはり何も起こらない。
「難しいですね」
「魔力を動かすところまではできています。焦らなくて大丈夫ですよ」
「はい」
リリナはもう一度、自分の中へ意識を向けた。
今までだって、最初からできたことはなかった。
歩くことも。
言葉を話すことも。
魔力を感じることも。
何度もやっているうちに、少しずつできるようになった。
(これも同じですねぇ)
もう一度。
魔力を感じる。
手の方へ動かす。
明かりの玉を思い浮かべる。
「ライティ」
その瞬間だった。
手のひらの上で、ほんの小さな光が瞬いた。
「あ」
けれど、それはすぐに消えた。
丸い玉と呼べるほどの形もない。
明かりとして使うには短すぎる。
それでも確かに、何かが光った。
「先生、今……」
「ええ」
イスターニャが頷く。
「光りましたね」
リリナは自分の手のひらを見る。
もう何もない。
「今のが《ライティ》ですか?」
「まだ《ライティ》になったとは言えませんね」
「そうですか」
「ですが、魔力を身体の外へ出して、光にするところまではできました」
リリナはもう一度、自分の手を見る。
そこには何もない。
けれど、さっきまでは一度もなかったものが確かに見えた。
「では、もう一度やってみます」
「今日は無理をしすぎないでくださいね」
「はい」
返事をしながらも、リリナの目はまだ自分の手のひらへ向いていた。
次はもう少し長く。
できれば、さっきイスターニャが出したような丸い明かりに。
まだ《ライティ》とは呼べない。
それでも、自分の魔力が初めて外へ出て、光になった。
(光の出し方が、少し分かってきましたねぇ)
何もない手のひらを見ながら、リリナはもう一度あの小さな光を思い浮かべた。




