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昼間に領都の広場で見せたギルバート様の凄まじい独占欲は、夜になってもなお、主寝室の空気の中に熱を持ったまま燻り続けていた。
「レティシア……すまない。だが、どうしても日中の光景が頭から離れないのだ。領民どもが、お前を『聖女』と呼び、崇めるような目で見ていた。お前は俺の妻だ。俺だけのものなのに……」
大きなキングサイズベッドの上、ギルバート様は私の身体を壊れ物を扱うような手つきで抱きすくめ、その美しい銀髪の頭を私の首筋に深く埋めていた。
周囲を凍らせるはずの冷気は、私に対する情動が強まりすぎた結果、やはり完全な「熱」へと変換されている。寝室の中は、夜だというのにまるで春の温室のようにぽかぽかと暖かかった。
彼の頭上のシステムウィンドウには、相変わらず上限値を見失ったかのような激しいログが明滅している。
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【現在の感情ゲージ:上限値を計測不能(独占欲の嵐)】
ログ:『領民どもからレティシアを隠したい、俺だけの最高級な
存在としてこの部屋の中で一生愛で続けたい。いや、いっそ
領都の中央広場にレティシアの巨大な純金像を建てて、領民の
視線をそっちへ誘導すれば、本物のレティシアを独占できるか』
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(純金像の身代わりは余計に目立ちますから絶対にやめてくださいな。本当に、惚れた女に対して過保護がすぎてバグを起こすという、ヴォルフィード家特有の血の仕様は伊達ではないわね)
私はすでにセバスたちの立ち聞きや朝食の席で、この「過保護遺伝子の呪い」の本質を把握していた。
これほど強くて格好良い辺境伯公爵が、私の存在ひとつでここまで不器用にかき乱されている。その裏表のない切実さが、私にはたまらなく愛おしかった。
私は彼の広い背中にそっと両手を回し、優しく撫でながら声をかけた。
「ギルバート様、昼間の嫉妬をまだ引きずっていらっしゃるのね。例の過保護の暴走が少々、度を越していますわよ」
「レティシア……俺のこの異様な執着が怖くないのか? すでに何度も、お前の前で魔力を暴走させて周囲を凍らせてしまっている。先代公爵――俺の親父もお袋を愛しすぎるあまり、その魔力を暴走させて領地を大寒波に陥れた。俺の代で完全にこの血の宿痾が顕現している。これ以上お前を巻き込んだら、いつかこの地すべてを凍らせてしまうかもしれないのに……」
ギルバート様が、深紅の瞳を仔犬のように揺らして私を見つめてくる。自分を最低の粗悪品だと思い込んでいる彼の孤独な過去の傷が、その言葉の端々から痛いほど伝わってきた。
「怖くなどありませんわ。先代公爵様がどうであれ、私は王宮のザル予算を一人で支え、悪徳商人の不正を一時間で片付けた女ですのよ? 貴方の血の暴走がどれほど激しかろうとも、私がこうして触れていれば、その冷気も熱もすべて適正にコントロールできることはすでに証明済みですわ」
私は微笑み、彼の額にそっと自身の額を重ねた。
「貴方のその重すぎる愛という名の不器用な性質、私が責任を持って、すべて一番美しい形で運用して差し上げます。ですから、自分を化け物だなんて思わないでくださいな」
「――っ」
ギルバート様は息を詰め、呆然と私を見つめた後、ふっと、これまでで一番穏やかな、本物の「最強の男」としての格好良い笑みをこぼした。
【ステータス:呪いへの恐怖 ⇒ 妻の包容力により完全消滅】
「ああ……お前になら、俺のすべてを捧げても構わない。この血の暴走ごと、お前に従おう」
彼は私の手を取り、その甲に恭しく誓いのキスを落とした。
その瞬間、寝室を包んでいた過剰な熱気は心地よい暖かさへと落ち着き、私たちの間に極上の安心感が満ちていった。
翌朝、執務室に降りた私を待っていたのは、セバスが持ってきた「これ以上ない確実な実害の進捗報告」だった。
「奥様、旦那様。王都より、カイル殿下たちの最新の情報が入ってございます」
セバスが至高の笑みを浮かべて一礼する。
「奥様が意図的に残された『私以外には解読不能な仕様の帳簿』ですが、カイル殿下たちが無理に数字を弄り回した結果、国庫の計算が完全に破綻した模様です。来月の予算編成の目処が全く立たなくなり、王宮では現在、激怒した財務官僚たちが一斉に職場放棄を始めて阿鼻叫喚に包まれているとのことです」
「あらあら、随分と劇的な自爆ですこと」
私は差し出された報告書を眺めながら、ふっと冷ややかな笑みを浮かべた。
私の不在によって組織が内部から瓦解していくその様は、まさに自業自得という他ない。価値を認めず放り出した損失の大きさに、彼らは今更気づいてももう遅いのだ。
「ギルバート様、王都のあの一族が勝手に崩壊していくのを遠目に眺めながら、私たちは本日も、このフロストヘイムの地をさらに豊かにするための次なる内政の計画を進めましょうか」
「ああ、レティシア。お前の望むままに、俺の資産も、力も、すべて好きに使ってくれ」
過保護な旦那様の性質を完璧に手懐けた私は、この白銀の地から、王都のすべてをひっくり返す内政無双の次なる一手を、静かに指し示すのだった。




