表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されたら実態評価★1.2の公爵に拾われました ~検索履歴、全部わたしで埋まってます~  作者: じょな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/15

6

結論から申し上げますと、ヴォルフィード公爵家の財政状況は「インフラ資産は超弩級だが、中身の管理が完全にジャンク品」という、バイヤー泣かせの代物だった。


「……ギルバート様、これは一体どういうことですの?」


朝食を終えた私が、セバスに案内されて執務室へと足を踏み入れ、そこにあった一番新しい帳簿をめくった瞬間のことだ。

私の「真実の眼」が、埃を被った羊皮紙の上で激しく青い火花を散らした。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

【ヴォルフィード領・第4半期決算書】

資産健全度:★1.2(旦那様の評価と完全同期)

問題点:悪徳商人による資材の中抜き、無駄な軍事費の重複、

徴税システムの旧式化による未回収金の増大。

予測:このまま放置すれば、十年以内に流動資産が底を突く。

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


(……うわぁ。ギルバート様、戦場では最強の処刑人なのに、身内の財布管理に関しては完全にカモにされているじゃないの……!)


私の隣で、まるで護衛騎士のような険しい顔をして立っていたギルバート様が、わずかに眉を寄せた。


「……何か問題があったか。俺は、セバスや代官たちが必要だという金はすべて出してきた。兵士たちの冬装備や、領民の食料に不足がないように……」


ギルバート様が低い声で説明する。その声には、領民を思う純粋な責任感が滲んでいた。

だが、彼の頭上のウィンドウには、別の色のログが流れている。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

【思考ログ:困惑と羞恥(過保護が裏目に出ている)】

『俺は数字が苦手だ……。戦術計算ならいくらでもできるが、

市場の物価推移や帳簿の辻褄合わせは、見ているだけで頭の中が

フロストヘイムの吹雪のように白くなる。レティシアに無能だと

思われたか? 嫌われたか? 死にたい。俺は今すぐ雪に埋まる』

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


(埋まらないでください! 貴方は無能ではなく、ただ誠実すぎて悪い大人に騙されているだけですわ!)


「ギルバート様。貴方の誠実さは素晴らしいですが、この『王都御用達』を名乗る商人たちの請求書……相場の三割は上乗せされていますわね。それに、この土木工事の予算、資材の搬入記録と労働者の賃金が全く噛み合っていませんわ」


私はペンを手に取り、帳簿の空白に迷いのない速度で修正案を書き込み始めた。

前世の通販サイトで数千万件のレビューと在庫を管理し、今世では王宮のザル予算を一人で支えていた私の事務処理能力を舐めてもらっては困る。


カリカリ、と羽根ペンが羊皮紙を叩く心地よい音が室内に響く。

私が一点の曇りもない合理的な「家計の最適化」を施していく一方で、ギルバート様は私の手元をじっと見つめながら、その身体からポカポカとした春のような熱気を溢れさせていた。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

ログ:『レティシアの手が動くたびに、死んでいた帳簿が生き

返っていく……。計算する彼女の横顔、賢い、尊い、女神か?

俺を騙していた連中を今すぐ氷漬けにしてやりたいが、今は

レティシアの仕事ぶりを網膜に焼き付けるのが最優先だ』

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


【現在の感情ゲージ:満足度120%(職住近接の喜び)】


(職住近接の使い方を間違っていますわ、旦那様。でも、喜んでいただけているなら何よりですわね)


私が一時間ほど集中して公爵領の「不良債権」を次々と損切りし、浮いた予算を領民の冬の暖房費へと回す再編案を完成させた、その時。


ドンドンドン!と、執務室の扉が遠慮なく叩かれた。


「旦那様! 火急の知らせでございます! 王都より、カイル殿下のお使いと、グランディス伯爵家の使者が到着いたしました! 『レティシアを今すぐ引き渡し、王都へ連行せよ』と玄関先で大騒ぎしておりまして……!」


慌てて飛び込んできた若い使用人の言葉に、室内の温度が瞬時にマイナス四十度まで急降下した。


ギルバート様がゆっくりと立ち上がる。

その背後には、物理的な冷気の渦が巨大な竜巻となって渦巻いていた。


「……連行、だと?」


ギルバート様の瞳は、もはや深紅というより、凍りついた鮮血のような色に染まっている。

頭上のウィンドウは、今や漆黒の背景に血文字のようなログが高速で流れていた。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

【思考ログ:絶対零度の殺意(契約侵害)】

『俺のレティシアを……連行? 奪う? どの口がそれを言った。

俺とレティシアの神聖な独占契約を邪魔する不法侵入者どもめ。

今すぐ心臓の鼓動ごと凍らせて、二度と解けない氷の像にして

王都の門前に並べてやる』

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


「ギルバート様。……私も、参りますわ。こちらの『最高級物件(旦那様)』に手を出そうとする不届き者には、きっちりと違約金(報い)を支払っていただかなくてはなりませんもの」


私はペンを置くと、優雅な動作で立ち上がり、旦那様の冷たい手に自分の手を重ねた。

その瞬間、吹き荒れていた冷気がぴたりと止まり、彼のウィンドウには【レティシアが味方してくれた幸せ:測定不能】という黄金の文字が躍った。


玄関ホールに降りると、そこには見覚えのある顔があった。

カイル王子の側近の一人と、我が実家グランディス伯爵家で私を散々見下していた、★1.5の無能な執事だ。


「レティシア! ようやく現れたか! 貴様のせいで王都は大混乱だ! 今すぐ戻って帳簿の整理をしろ! これは王命であり、親の命令だ!」


実家の執事が、鼻の穴を膨らませて喚き散らす。

私の「真実の眼」を通すと、彼の評価は以前にも増して暴落していた。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

【グランディス家の使者】 総合評価:★0.8

本音:『はやくこの生意気な娘を連れ戻さないと、旦那様(伯爵)

が王宮から「公金横領の疑い」で調査を受けることになってしまう。

全部この娘に罪を被せて、地下室で計算だけさせればいいんだ』

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


(……まぁ。実の娘を犯罪の身代わりにしようとするなんて、どこまでも資産価値のない実家ですこと)


私は冷ややかな笑みを浮かべ、使者の前に一歩踏み出した。


「お断りいたします。私はすでにグランディス伯爵家を『損切り』し、ここヴォルフィード公爵家と終身契約を締結いたしました。現在の私の戸籍は公爵閣下の管理下にありますわ」


「なっ、身勝手な! 伯爵様がお前を勘当すると仰ったら――」


「どうぞ、お好きなように。勘当されるということは、私がこれまで無償で提供していた『家計管理』という高度な専門スキルを、今後一切提供しないという最終合意と受け取ります。……あ、そういえば」


私は扇で口元を隠し、王都の使者たちに慈悲深い(風の)言葉を投げかけた。


「カイル殿下にお伝えくださいませ。私が作成した予算管理書には、特定の権限(私)がないと解除できない『論理的な罠』をいくつか仕掛けてありますの。無理にこじ開けようとすれば、全ての計算式が崩壊し、来月の国庫は一ゴールドの計算も合わなくなるでしょう」


「な、何だと……っ!?」


「それを解決するためのコンサルティング料は、一分ごとに金貨十枚を申し受けますわ。……あ、もちろん、不法侵入を企てようとした貴方たちとの交渉は、今この瞬間に打ち切らせていただきますけれど」


「貴様ぁ!!」


逆上した執事が、私に向かって手を振り上げた。


だが、その手が私に届くことはなかった。

その腕が、空中で静止したのだ。

――パキリ、という硬い音と共に。


「――俺の妻に、その汚い手で触れようとしたな」


ギルバート様の声が、玄関ホール全体を震わせた。

使者の足元から、文字通りコンクリートを突き破るような勢いで巨大な氷の柱が突き立ち、執事の腕を、そして王都の側近の足元を瞬時に凍りつかせた。


「ひっ、あ、あああ……っ!! さ、寒い! 助けてくれ!」


「ギルバート様、そこまでにしておいてくださいませ。その者たちをここで完全に凍らせてしまうと、死体の処理費用という無駄なコストが発生してしまいますわ」


私がそう告げると、ギルバート様は不満そうに、けれど「レティシアの言うことなら」と即座に冷気を収めた。

氷漬けにされた使者たちは、ガタガタと歯の根が合わないほど震えながら、転がるように屋敷の外へと逃げ出していった。


【ステータス:過保護遺伝子がさらに進化。妻の敵は徹底的に粉砕せよ】


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

ログ:『レティシアが「私の旦那様」と言ってくれた……。

俺の妻だと宣言してくれた……。使者どもを粉砕するつもりが

逆に俺の心が幸福で粉砕されそうだ。もう離さない。絶対に

この腕から、この屋敷から、一歩も出さない……(過保護)』

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


(……ふふ。独占欲が少々重いですけれど、今の私にはそれが何よりの報酬ですわね)


王都の不良在庫たちが自分たちの無能さに咽び泣く声を遠くに聞きながら、私はフロストヘイムの澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


「ギルバート様、帳簿の続きをしましょうか。浮いた予算で、領民たちに振る舞う雪解けの祭りの準備も進めなくてはなりませんもの」


「……ああ。お前のやりたいようにしろ。俺の資産も、力も、すべてお前の好きに使っていい」


★1.2の氷公爵(実は純情の化け物)と、有能な追放令嬢の内政改革。

私たちの「新婚契約」は、まだ始まったばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ