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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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EP 8

善く生きるだけで昇る村と、タローマン製プレハブ倉庫

「月光薬」による沼熱の完全鎮圧から数日。

ポポロ村は、これまでの寂れた国境の村という姿から、信じられないほどの変貌を遂げていた。

「おいおい、なんだこの道は!? ロックバイソンの馬車が泥一つ跳ね上げずに進むぞ!」

「聞いていた通りだ! この村には絶対に治らないはずの沼熱を即座に治す『奇跡の薬』があり、しかも特産のコーヒー豆が前代未聞のスピードで出荷されているらしい!」

タローマン製の魔導セメントで白く舗装されたメインストリートには、ルナミス帝国やアバロン魔皇国から噂を聞きつけた商人たちの馬車が、引きも切らずに押し寄せていた。

彼らのお目当ては、圧倒的な品質を誇り始めた「ポポロ・コーヒー」と「ポポロ・タバコ」、そして万能の特効薬として名を馳せた「月光薬(余剰分)」の取引である。

村の広場は、瞬く間に人と荷物で溢れかえった。

「す、すごい活気ですね……」

私が村長室の窓からその光景を見下ろしていると、ポケットの『エンジェルすまーとふぉん』がブルブルと震えっぱなしになっていた。

画面を開くと、善行ポイントの残高が目を疑うような桁になっている。

『【祝】カグヤ様ch:医療ドラマ回から怒涛の村おこし大逆転祭りでPV率大陸ナンバーワン獲得! 天野織姫ちゃん、貴女はもう神界のスーパーアイドルですわ〜っ!!』

画面の向こうの女神様がテンション高く投げポイントを乱舞させている。

前世ではいくら身を粉にして働いても、給料は一円も上がらなかったというのに。ここでは、誰も蹴落とさず、ただ目の前の人を助け、善く生きようとするだけで、正当な評価が天井知らずに上がっていくのだ。

「でも、これだけ商人が押し寄せると、村人たちだけでは対応しきれませんね……」

広場では、突然の特需に戸惑う農家の人々が、商人たちから強引に安い価格で買い叩かれそうになっている姿が見えた。

(あんなこと、絶対にさせない。村のみんなが汗水流して作った価値を、不当に奪わせたりはしない!)

私の社畜OLとしての「実務・物流管理の血」が騒いだ。

「リバロンさん! キャルル!」

「はい、オリヒメ様。いかがなさいましたか」

「オリヒメ、どうしたの?」

背後に控えていた二人に、私はキッパリと告げた。

「村の広場に『ポポロ村総合物流センター』を設立します。商人たちとの個別取引を禁止し、全て村の窓口を通す一括管理システムに移行します!」

私はすぐさま膨大なポイントを消費し、タローマンのカタログから超大型の商品を取り寄せた。

広場の空き地に空間の歪みが発生し、巨大な箱がいくつも降ってくる。

「さあ、組み立てますよ! 『タローマン製・組み立て式魔導プレハブ倉庫』です!」

このプレハブは、説明書通りに魔力(闘気)を流してはめ込むだけで、たった数時間で頑丈な建造物が完成する優れものだ。キャルルの圧倒的なパワーと、村人たちの協力によって、広場にあっという間に巨大な物流拠点が立ち上がった。

さらに私は、ポイントで『魔導QR決済対応・レジシステム』と『番号札発券機』を取り寄せ、プレハブの窓口に設置した。

「皆様、ポポロ村へようこそ! これより本村の特産品取引は、こちらの窓口での一括対応とさせていただきます。順番に番号札をお取りいただき、待合室でお待ちください!」

私が声を張り上げると、商人たちは最初こそ「なんだこの見慣れぬ建物は」「直接買い付けさせろ!」と不満を口にした。

「……何か、我が主の定めたルールにご不満でも?」

スッ、と。

私の背後に、黒い燕尾服を着たリバロンが立った。

人狼族の爆発的な闘気が、氷のように冷たく、けれど鋭利な刃となって広場全体を制圧する。

「ここはポポロ村。オリヒメ様が構築された完璧なシステム(市場)に従えないというのであれば、お引き取り願おう。……私の『名刺』が、貴方方の首に届く前に」

リバロンの指先で、真っ白な名刺が闘気を帯びてチリチリと危険な音を立てている。

さらにその横では、特注安全靴を履いたキャルルが「列を乱すやつは、このトンファーの素振り(素振りとは言っていない風圧)の的にするからね!」とニカッと笑っている。

「ヒッ……!! し、従います! 順番待ちします!」

大陸最強の武力ウサギと、冷徹なオオカミ

二人の完璧な用心棒のおかげで、商人たちは羊のように大人しく番号札を引き、整然と列を作り始めた。

私は窓口に座り、魔導計算機とQR決済端末を駆使して、凄まじいスピードで取引を処理していく。

「ポポロ・コーヒー豆、Aランクが100袋ですね。適正価格の金貨5枚となります。……はい、QR決済確認しました! 次の方!」

「月光薬の卸売ですね。こちらはルナミス帝国の医療ギルドを通した正規ルートのみでのご契約となります。契約書はこちらにサインを」

前世で培った事務処理能力と、一切の不正を許さない的確な書類作成。

商人たちは、私が提示する「適正価格」に最初は渋い顔をしたが、品物の圧倒的な品質と、寸分の狂いもない透明な取引の前に、次第に感嘆の声を上げ始めた。

「す、素晴らしい……。これほど大規模な取引を、たった一人の令嬢が、これほど迅速かつ完璧に回すとは」

ルナミス帝国屈指の大企業である『ゴルド商会』の腕利き商人が、感極まったようにため息をついた。

「オリヒメ様と言いましたね。貴女は天才だ。我々ゴルド商会も、これほど気持ちの良い取引は久方ぶりです」

商人は、契約書にサインをしながら、ふと思い出したように口を開いた。

「それに引き換え、レオンハート王国の『レオナルド』の領地は酷い有様ですよ」

「……え?」

「以前はあそこの関税処理や在庫管理も見事なものでしたが……最近はもう、帳簿は計算間違いだらけ、納期は守らない。挙句の果てに、領地で沼熱が流行っているのに、薬草の備蓄がゼロだとか。我がゴルド商会も、あそこは『取引停止ブラックリスト』に叩き込みましたよ」

「……」

私はその言葉を聞いて、一切の同情を抱かなかった。

ただ、ずっ友ロコシに塩をかけたような、完全な塩対応で頷く。

「そうでしたか。それは大変ですね」

私を見下し、「お前の代わりなどいくらでもいる」と捨てた男。

彼は今頃、私が裏でどれだけの重圧と事務処理を完璧にこなして彼を支えていたのかを、身をもって味わっているのだろう。

ざまぁみろ、なんて汚い言葉は使わない。ただ、「見下した因果」が彼自身の首を絞めているだけだ。私にはもう、一ミリも関係のない話である。

「さあ、次の方、どうぞ!」

私は笑顔で次の商人を呼び込んだ。

夕暮れ。

プレハブ倉庫のシャッターを下ろし、本日の業務がすべて終了した。

村の金庫には、これまでのポポロ村の数年分に匹敵するほどの金貨と銀貨が納められている。これで、村の子供たちはもう二度と飢えることはない。

「ん〜っ! 疲れたぁ!」

私が大きく伸びをすると、ふわりと、上着が肩に掛けられた。

「お疲れ様でございました、オリヒメ様。本日の貴女の差配、まるでオーケストラの指揮者のように美しかった」

リバロンが、どこから取り出したのか、冷たく冷やしたタローソン(魔導コンビニ)の『100%人参ジュース』と、ご褒美の『ルナキン特製プリン』をトレイに乗せて差し出してくれた。

「ありがとうございます、リバロンさん。でも、キャルルとリバロンさんが守ってくれたおかげですよ」

私がプリンを一口食べて頬を緩めると、リバロンは静かに首を振った。

「いいえ。我々の『武力』や『恐怖』だけでは、人は集まりません。貴女の誰に対しても誠実で、誰も搾取しない『完璧な公平さ』があったからこそ、この村は黄金の都へと昇華しつつあるのです」

リバロンは私の前に片膝をつき、まるで聖女を仰ぎ見るような、熱を帯びた黄金の瞳で私を見つめ上げた。

「貴女は、ただそこにいて、善く生きようとするだけで……周囲の人間すべてを幸福に引き上げてしまう。何と恐ろしく、何と愛おしい御方か」

「リバロン、さん……」

「お嬢様。私が貴女の執事として、この身のすべてを捧げることを……どうか、お許しください」

月の光が差し込むプレハブ倉庫の中で。

最強の人狼執事からの、逃げ場のないほど深く、甘い忠誠の誓い。

私の心臓は、前世の過労による動悸とは全く違う、ひどく甘やかな理由で、早鐘のように鳴り続けていた。

読んでいただきありがとうございます。

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