表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
61/65

EP 6

ならず者襲来と、幻覚植物ハッピードリーム

「おのれ、おのれ……! なぜだ! なぜあの村の女どもは、金に屈しないのだ!」

大商人ゴルドーは、高級なペルシャ絨毯が敷き詰められた村外れの宿舎で、持参したワイングラスを叩き割った。

市場の買占めは失敗。アイドルの引き抜きも失敗。

ポポロ村は、彼がこれまでの商人人生で培ってきた『金の力で世界は動く』という大原則を、まるで根底から否定してくるような狂った村だった。

「隊長、もう我々の軍資金も底をつきかけております。これ以上の正攻法は、商会を潰すことになりかねません」

護衛の傭兵たちが、顔を見合わせて不安げに進言する。

だが、ゴルドーの目はもはや商人の目ではなかった。敗北を認められず、プライドという名の業火に焼かれた狂人のそれだった。

「商人の本懐だと? 商人とは、利益を得るためなら手段を選ばぬ存在のことだ! 奴らが正攻法を拒むなら、……裏の世界の住人を使ってでも、あの物流設備を物理的に破壊し、システムの信用を地の底まで叩き落としてやる!」

ゴルドーが召喚したのは、砂漠の国家で暗躍する裏社会のならず者集団『スネーク・アイズ』だった。

ナイフを舐め、顔に醜い刺青を彫った屈強な男たちが、ゴルドーの前にずらりと並ぶ。

「報酬は、あの村にあるすべての金庫の現金だ。あの物流拠点の『冷却装置』と、中央にある謎の『光るガチャ』を粉砕してこい。……跡形もなく消し去るのだ!」

「へへッ、任せな。村一つ焼くなんて、俺たちゃ朝飯前よ」

ならず者たちは凶悪な笑みを浮かべ、夜の闇に紛れてポポロ村へと潜入を開始した。

***

その頃。

村の物流設備の前で、ルナ・シンフォニアは、不思議な光を放つ青い草を植え替えていた。

「あら、植物さんたち。お水が足りないのかしら? ……ごめんなさい、すぐに潤してあげますわね」

ルナが杖を地面に軽く叩くと、その周囲に『ハッピー・ドリーム』と名付けられた幻覚催眠植物が、ボコボコと音を立てて生えてきた。

それは、触手に刺した相手に極上の快楽と、望む幻覚を見せるという、魔王軍すらも無力化した恐るべき防衛植物である。

「おや……? 森の奥から、なんだか楽しそうな足音が聞こえてきますわね。……お客様でしょうか?」

ちょうどその時、闇を抜けて『スネーク・アイズ』のならず者たちが、物流設備へと到着した。

「ここが噂の冷蔵庫か。……へへ、村の連中は皆寝てやがる。さっさと終わらせちまおうぜ」

「あら、ごきげんよう」

「わっ!?」

リーダーの男が飛び上がった。

目の前には、白く光る植物の群生の中に、妖艶な微笑みを浮かべたエルフの少女が立っていた。

「……なんだ、小娘一人か。邪魔だ、どけ!」

リーダーが抜き打ちの短剣を振り下ろす。

だが、その切っ先はルナに届く前に、足元から伸びてきた無数の触手によって、スルリと絡め取られた。

「あ、いけませんわ。おじ様たち、そんなに乱暴にしてはいけません。……お疲れのご様子ですし、少し『夢』を見て癒やされるとよろしいですわ」

ルナが杖を振るうと、触手がならず者たちの背中に、ブスリ、ブスリと容赦なく突き刺さった。

「ぐっ……! な、なんだこれ……力が抜け……」

「へへッ……こ、これは……? お、おい、見ろよ……」

ならず者たちの瞳孔が開き、口元からだらりとヨダレが垂れ落ちた。

彼らに見えているのは、物理的な破壊ではなく、彼らが人生で一度は夢見た『桃源郷』だった。

「ひゃっほー! 山盛りの金貨だぁ! 俺は王様だ!」

「キャバ嬢が百人……酒が飲み放題だぜ!」

「俺は、俺は……! 母親が帰ってきたんだ……!」

ならず者たちは、武器を取り落とし、地面に這いつくばって何もない空気を抱きしめ、うっとりと恍惚の表情を浮かべ始めた。

『ハッピー・ドリーム』の幻覚は、彼らの最も深い精神の渇望を映し出す。

彼らは戦うことも忘れて、触手から注ぎ込まれる偽りの幸福に浸りきっていた。

***

翌朝。

私は村の見回りをしていて、物流施設の入り口で異様な光景に出くわした。

「……おはようございます」

村長室へ向かおうとした私の視界に飛び込んできたのは、昨日まで村の裏で悪巧みをしていたはずの『スネーク・アイズ』の面々だった。

だが、彼らは村を破壊するどころか、ルナの周囲で甲斐甲斐しく働いていた。

「お嬢様、こちらのお花に水をおやりになりましたか!?」

「さあ! 設備のお掃除は俺たちに任せてください! ルナ様のおかげで、昨夜は最高の夢を見させてもらいました!」

「ああ、あの『金貨の山の夢』は忘れられねぇ……! もう一度あの夢を見るためなら、なんだってやるぜ!」

ならず者たちは、ルナに心酔し、まるで教祖を崇める信者のようになっていた。

そればかりではない。彼らはなんと、ゴルドーから受け取った報酬金全額を、「施設の管理維持費(お布施)」としてルナに差し出していたのだ。

「あら、お布施だなんて……! おじ様たち、なんてお優しいのでしょう! ありがとうございます、大切に使わせていただきますわね!」

「いえ! 我らスネーク・アイズ、今日からルナ様のお膝元で、村の警備をさせていただきます!」

(……状況が全然理解できません)

私が呆然としていると、リバロンがスッと横に立ち、ため息交じりに説明してくれた。

「オリヒメ様。どうやらあの愚か者たち、ルナ嬢の幻覚植物によって精神を完全に『書き換え』られたようですね。……もはや彼らは破壊活動など微塵も考えていません。それどころか、報酬をすべて寄付し、村の無料労働力として定着するつもりですよ」

「そ、そんな……。ルナさんの善意(天然)が、まさか裏社会の集団をも手懐けるなんて」

「……あのエルフの娘、天然の恐ろしさは認めざるを得ませんが……まぁ、村の治安維持という観点で見れば、これほど安上がりな用心棒はいませんね」

リバロンは、名刺刃を懐にしまいながら、私を優しく抱き寄せた。

「オリヒメ様。貴女の築いたこの村は、どんな悪意すらも『村の利益』に変えてしまう。……本当に、どこまで私を驚かせれば気が済むのですか」

耳元で囁かれる、くすぐったいほどの吐息。

私は顔を赤らめ、「驚かせてるのはルナさんですっ!」と抗議しながら、幸せそうな顔で働くならず者たちを遠目に見守るしかなかった。

――一方。

自分の放った精鋭集団が、いつまで経っても戻ってこないことに焦れたゴルドーは、ついに自ら施設へと乗り込んできた。

「おい! スネーク・アイズ! 破壊の音はどうした! 早くあの物流設備を……」

ゴルドーが息巻いて施設に駆け込んだその時。

彼が目にしたのは、かつての雇い主であったならず者たちが、エルフの少女のために一生懸命掃除をし、村人たちと仲良く談笑している地獄絵図のような光景だった。

「……な」

「あら、おじ様! 昨日は素晴らしい野菜をありがとうございました! おかげさまで、ならず者の皆様ともお友達になれましたわ!」

ルナが満面の笑みで駆け寄り、ゴルドーの背中をバンバンと叩く。

「な……ななな……」

ゴルドーは、自分が払った報酬金で、自分の敵がルナを崇拝し、村のために働いているという現実を理解できず、再び口から泡を吹いて崩れ落ちた。

「……わ、私の……私の裏ギルドの精鋭が……! なぜ敵に寝返って、掃除をしているのだァァァッ!!」

ゴルドーの絶叫は、空しく朝の冷たい風に流されていく。

彼の悪意すらも「村の治安向上」という利益に変えてしまう、ポポロ村の恐るべき包容力(という名の経済的カオス)。

ゴルドーに残されたカードは、もはや一枚しかない。

それは、彼が商人として最もプライドをかけてきた、一発逆転の『ギャンブル勝負』だった。

だが、彼が最後に挑むその勝負相手が、この村で最も理不尽な『運ゲーの神に愛された男(借金まみれの男)』であることを、傲慢な商人はまだ知る由もなかったのである。

***

「……ふむ。やはりあの男、自分の全財産を賭けてでも、この村を陥れたいようです」

離れた場所からその様子を観察していたリバロンは、冷徹な予言を口にした。

「……オリヒメ様。準備をしましょう。あの男が最後に選ぶであろう『賭け事』……。あの村の『自警団リーダー』と、あちらの『大商人』による、醜い金と運の潰し合いを。……見届けましょう」

「ええ。前世でブラック企業を倒した時のように、完璧な経理ざまぁで締めくくって差し上げますわ」

私はリバロンの腕の中で、静かに微笑んだ。

悪徳商人の破滅のカウントダウンは、すでに最終局面へと突入していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ