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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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EP 5

アイドルの強欲と、ポイ活人魚姫

ルナによる『善意の神話級野菜・大量生成』によって買い占め作戦を完全に粉砕され、莫大な赤字と生ゴミ同然の在庫を抱え込むことになった大商人ゴルドー。

彼は村外れに設営した豪華なテントの中で、ギリッと葉巻を噛みちぎっていた。

「おのれ、おのれ……! このアルマディの天才商人たる私が、あのような田舎村の連中に手玉に取られるなど! 資金力で負けたのではない、あのエルフの小娘が規格外すぎただけだ!」

負け惜しみを叫ぶが、彼のふっくらとしていた頬は、心労で数ミリほど痩せこけていた。

「だが、まだ手はある。……あの村の活気の源、そして『コールドチェーン』の広告塔ともなっている、あの小娘だ!」

ゴルドーが血走った目で思い浮かべたのは、広場の中央でみかん箱の上に乗り、村人たちを熱狂させていた少女――リーザだった。

「あのアイドルとやらを引き抜き、アルマディの専属にしてしまえば、ポポロ村のブランド力は地に落ちる! 金と権力に目が眩まない女など、この世に存在しないのだ! フハハハ!」

ゴルドーは悪徳商人特有の気力を取り戻し、ニチャリと下劣な笑みを浮かべてテントを飛び出した。

***

その頃。

ポポロ村の広場の一角にある、王都から誘致したスーパー『ルナミスマート』の出張店舗では、熾烈な戦いが繰り広げられていた。

「フッ……甘いですわね!」

シュバッ!

芋ジャージに健康サンダルという、およそアイドル(そして本来は海中国家シーランの姫君)とは思えないラフな格好のリーザが、試食コーナーのおばちゃんが差し出した『焼きたて特製ソーセージ』を、音速の爪楊枝さばきで華麗にゲットしていた。

「もぐもぐ……んふー、美味しいですわ! さあおばちゃん、次はあちらの高級サイコロステーキの試食をお願いしますの!」

「リーザちゃん、相変わらずいい食べっぷりだねぇ! ほら、パンの耳もオマケしとくよ!」

「ありがとうございます! これで今日の主食とサラダ(公園で摘んだ食べれる雑草)が揃いましたわ!」

リーザはホクホク顔で、パンの耳がぎっしり詰まったビニール袋を抱きしめた。

「リーザちゃん、本当にたくましいねー」

その横で、キャルルが『特大カツ丼弁当』を3つも抱えながら、のんきに笑っている。

さらにその後ろでは、ふわふわのドレスを着たルナが、不思議そうにリーザのビニール袋を覗き込んでいた。

「まあ。リーザちゃん、そんな固そうなパンの端っこばかり……。よろしければ、私が世界樹のハチミツをたっぷりかけた焼きたてトーストをお出ししますわよ? あと、お小遣いの純金も少し削って……」

「お気持ちだけで十分ですわルナさん! これは私の『アイドルの矜持』に関わる問題ですから!」

リーザがパンの耳を高く掲げて熱弁を振るおうとした、まさにその時だった。

「フハハハ! そこまでだ、可哀想な少女よ!」

ゴルドーが、護衛を連れてルナミスマートの試食コーナーの前に立ちはだかった。

「おや? 貴方は、昨日私のお野菜をもらって泡を吹いて倒れたおじ様! もうお体はよろしいのですか?」

ルナが純粋な善意で気遣うと、ゴルドーは「ぐふぅッ」と胸を押さえて一瞬よろけたが、無理やり咳払いをして立ち直った。

「エ、エルフの小娘はすっこんでいろ! 私に用があるのは、そこのアイドル……リーザ、君だ!」

ゴルドーは、芝居がかった手つきでリーザをビシッと指差した。

「そんな芋ジャージを着て、パンの耳をかじるような底辺の生活……さぞかし辛かろう! どうだ、私と専属契約を結べば、こんな田舎村を出て、アルマディの王都で豪邸と豪華なドレス、毎日三ツ星レストランのフルコースを与えてやろう!」

ゴルドーが、自信満々に言い放つ。

普通の少女なら、いや、普通に貧困に喘ぐ地下アイドルなら、このパトロンからの甘い誘惑に一瞬で陥落してしまうだろう。

だが。

「……は?」

リーザの瞳が、スッと冷たいものに変わった。

彼女はパンの耳の入ったビニール袋を抱きしめたまま、ゴルドーを『哀れなもの』を見るような目で見つめ返したのだ。

「豪邸? ドレス? 三ツ星レストラン? ……ふふっ、おじ様。貴方、アイドルの何たるかを全く分かっていませんのね」

「な、なんだと?」

「私は確かに、お金が欲しいです。ダイヤも欲しいし、土地も欲しい。……でもね、それは『パトロンの施し』で得たいわけじゃないんですの!」

リーザが、ビシッとゴルドーに人差し指を突きつけた。

「私がステージに立って歌うと、ファンたちは自分の生活を削って、一生懸命稼いだ大切なお金(五円玉)を、私に投げてくれます。……私は、その五円玉の重みと、彼らが私に向けてくれる『愛』と『時間』のすべてを奪い尽くして、私の養分にしたいんですの!」

「……は?」

ゴルドーは、アイドルの口から飛び出した、あまりにも強欲で、ある種の『狂気』すら孕んだ言葉に、ポカンと口を開けた。

「私が欲しいのは、ただの富じゃない。ファンたちの『人生そのもの』ですわ! 貴方のようなおじさんに飼われて、ぬるま湯で施しを受けるだけの鳥になるなんて、まっぴらごめんです! 私は、私の歌で、世界中の愛とキャッシュを自らの力で搾り取って生きる、絶対無敵のスパチャアイドルなんですのーっ!!」

ドンッ!と。

リーザの背後に、彼女の持ち歌である『Love & Money』の幻影――大量の五円玉の雨と、熱狂するオタクたちの歓声が、強烈なオーラとなって立ち上った。

「な……ッ! なんだこの女の底知れぬ強欲さは……ッ!?」

ゴルドーは、その異様なまでの『金と愛への執着(プロ意識)』に圧倒され、思わず数歩後ずさった。

彼は金で人を動かせると思っていた。だが、目の前の少女は「金なら自分でファンから毟り取る」という、商人である彼すらもドン引きするレベルの自立した強欲さを誇っていたのだ。

「それに!」

リーザは、ジャージのポケットから何枚もの『ポイントカード』と『割引券』をバサッと取り出して見せつけた。

「スーパーの半額シール、ラジオ体操の皆勤賞、パチンコ屋の床に落ちている銀玉! この日々の『ポイ活』と節約で勝ち取る百ポポロの価値が、貴方の用意する豪邸に劣るはずがありませんわ! パンの耳を齧りながら、ファンから巻き上げたお金を数えるのが私の最高の快感なんですの!」

「ヒィィッ……!? こ、この村の女は、どいつもこいつも頭のネジが外れているのかァァッ!?」

エルフは純金をばら撒く厄災。ウサギは心を読み切るバケモノ。そしてアイドルは、ファンの人生と金を搾り取ることに無上の喜びを感じる強欲の化身。

ゴルドーの「金と権力で引き抜く」という浅はかな目論見は、リーザの『ポイ活アイドルとしての狂気の美学』の前に、完全に木っ端微塵に砕け散ったのである。

「もういい! 貴様らのようなイカれた女どもなど、タダでも要らんわァッ!」

ゴルドーは涙目になりながら、護衛たちと共にルナミスマートから逃げるように走り去っていった。

「あら、行っちゃいましたわね。せっかく、私の次のライブの最前列チケット(金貨一枚)を売りつけてあげようと思いましたのに」

リーザが残念そうにポイントカードをポケットにしまう。

「あはは、リーザはブレないねー」

キャルルがカツ丼の蓋を開けながら笑った。

そこへ。

「あれ? 皆さん、こんなところでお揃いでどうしたんですか?」

私は、手に書類の束を抱えながら、リバロンを伴ってスーパーの前にやってきた。

「あ、オリヒメお姉様! 今、あの成金のおじ様が私のファンクラブの『VIP会員パトロン』になりたいって言ってきたんですけど、私のスパチャへの美学を語ったら、感動して走り去っていきましたわ!」

リーザが満面の笑みで、見事に脚色された報告をしてくる。

「えっ……感動、ですか? ゴルドー様が?」

私が首を傾げていると、リバロンが私の横でスッと目を細め、静かに息を吐いた。

「……なるほど。あの汚らわしい羽虫、今度は我が陣営の身内にちょっかいを出そうとしたわけですか」

リバロンの黄金の瞳の奥で、冷たい殺意がチロリと燃える。

「オリヒメ様。やはりあの男は、生かしておくとこの村の平穏……ひいては、貴女の美しい笑顔を曇らせる原因になります。今夜こそ、私が彼の宿舎を砂漠の砂ごと『更地』にしてまいりましょうか」

リバロンが名刺刃を抜こうとするので、私は慌てて彼の腕に抱きついて止めた。

「ダ、ダメですってばリバロンさん! リーザちゃんが無事ならそれでいいじゃないですか。それに、暴力に頼らなくても、あの人は勝手に自滅していく気がしますし」

私が彼を見上げて必死に止めると、リバロンは私の抱きついている腕に視線を落とし、ふわりと、どうしようもなく甘い微笑みを浮かべた。

「……ズルい人だ。貴女にそうやって触れられて引き止められてしまっては、私の殺意など一瞬で霧散してしまいます。……ええ、わかりました。貴女が望むなら、あの羽虫の寿命をもう一日だけ伸ばしてやりましょう」

リバロンは、私の頭を優しく撫で、まるで愛しい宝物を扱うように、私の髪にそっとキスを落とした。

「ひゃっ……! り、リバロンさん、みんな見てる前で!」

「構いませんよ。貴女の婚約者(予定)としての、当然の権利を行使しているだけですから」

【恋愛ラダー:第9段(周囲公認の婚約状態・家族としての絆)】に向けて、リバロンの甘やかしと過保護っぷりは、日を追うごとにエスカレートしていくばかりだ。

「オリヒメ、顔真っ赤だねー」

「愛のスパチャですわね!」

キャルルとリーザにからかわれ、私は「もーっ!」と抗議の声を上げながら、平和で騒がしいポポロ村の日常へと溶け込んでいくのだった。

一方、度重なる作戦の失敗により、資金も精神力も限界に達しつつある大商人ゴルドー。

彼が最後にすがる「裏社会の力」すらも、天然エルフの引き起こす新たな厄災の前に沈む運命にあることを、彼はまだ知らない。

読んでいただきありがとうございます。

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