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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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EP 5

完璧な三頭体制と、タローマンの魔導セメント

タローマン製の防刃軍手と魔導アシスト鎌のおかげで、ポポロ・コーヒーの収穫は劇的なスピードで進んだ。

しかし、大量の収穫物をルナミス帝国の商業ギルドへ出荷しようとした矢先、大きな問題が発生した。

「うおぉぉっ! ダメだ、馬車が泥にはまって動かねぇ!」

前日に降った大雨のせいで、ポポロ村の中央を通るメインストリートが完全にぬかるみ、巨大なロックバイソンが引く荷馬車の車輪が、泥の底に深く沈み込んでしまったのだ。

男たちが何人がかりで押しても、ビクともしない。

「困ったな……これじゃあ、出荷が遅れてギルドの信用に関わるぞ」

村人たちが頭を抱える中、私は村長室から駆けつけ、泥だらけの道を見渡した。

(インフラ問題……!)

前世のブラック企業時代を思い出す。

悪天候や交通インフラの乱れで納品が遅れた時、顧客の理不尽なクレームの矢面に立たされ、平謝りしながら徹夜で代替案をひねり出したのは、いつも私だった。

「道が悪いから」という言い訳は、ビジネスでは通用しない。根本的な物流の動線を確保しなければ、村の経済はいずれ頭打ちになる。

「オリヒメ、どうする? 私が荷馬車ごと担いで、帝国の国境まで走ろうか?」

隣に立つキャルルが、腕まくりをしながらトンデモない解決策を提案してくる。100mを5秒台で走り、ジャンプ力20mを誇る彼女の脚力なら本当にやりかねないが、それでは村人の根本的な解決にはならない。

「キャルル、力仕事はお願いしたいですが、運ぶのは荷馬車ではありません。……少し待ってくださいね」

私はポケットから『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。

前回の「農具プレゼント配信」は、神界のゴッドチューブで『DASH村顔負けのガチ開拓スローライフ!』として大反響を呼んでおり、私の善行ポイントはさらにうなぎ登りに増えていた。

(道を作るなら、これしかないわね)

私はカタログをスクロールし、『タローマン(職人・プロ用建材コーナー)』から特定のアイテムを検索した。

「ありました! 『タローマン印・水で固まる魔導舗装セメント』と、『ドワーフ謹製・絶対に折れないプロ仕様スコップ』、それから『魔導運搬一輪車ネコ』です!」

大量のポイントを消費し、注文を確定する。

空間が歪み、村の広場に巨大な紙袋に入ったセメントの山と、真新しいスコップ、そして一輪車がずらりと出現した。

「なっ、なんだその粉の入った袋は……?」

「村の皆さん、聞いてください! これからこの村のメインストリートを、石畳よりも頑丈な道に舗装します! 私が工程の段取りを組みますから、手の空いている方は協力をお願いできますか?」

私の言葉に、村人たちがざわめく。

「ほ、舗装工事なんて、普通は帝国の土木ギルドに金貨を何十枚も払って頼むもんだぞ!?」

「大丈夫です。この魔導セメントは、敷き詰めて水をかけるだけで、数十分で鋼鉄並みの硬さに固まるんです」

前世で培った「プロジェクト進行管理」のスキルが、ここで火を噴いた。

私は即座に手帳を取り出し、村人たちを3つの班に分けた。

「A班はスコップで泥を掻き出し、地面を平らに均してください! B班は一輪車でセメントを運び、均等に敷き詰めます! C班は水汲みと、全体の散水をお願いします!」

見事な指示出しに、村人たちも「おおっ!」と士気を高め、タローマンのスコップを手に取り始める。

だが、ここで最大のボトルネックに直面する。

道にはびこる、長年放置されていた巨大な岩や、深く根を張った切り株だ。こればかりは、人間の力ではどうにもならない。

「任せなっ!」

そこで輝くのが、最強の親友だ。

キャルルが特注の安全靴で地面を蹴り、巨大な岩の前に立つと、トンファーを構えることもなく、素手で岩の下に指をねじ込んだ。

「フッ……!」

彼女の細腕から闘気が爆発し、重さ数トンはあろうかという巨岩が、まるで発泡スチロールのように引っこ抜かれ、軽々と道の端へ放り投げられた。

「そ、村長すげぇぇ!!」

「さあ、みんな! オリヒメの指示通りにガンガン進めるよ!」

キャルルの圧倒的なカリスマと武力(戦力)が、プロジェクトの物理的な障害を粉砕していく。

そして、その後方で全体のペースメーカーとして機能しているのが、人狼族の執事、リバロンだった。

「B班、セメントの敷き詰めがA班の掘削ペースを上回っています。作業量を調整しなさい。C班、水撒きは均等に。……そこ、サボらない。アダム・スミスの『国富論』にもある通り、分業制の肝は各工程の歩調を合わせることにあります。ペースを乱す者は、私の『ネクタイ・ブレード』でみじん切りにして肥料にしますよ?」

リバロンは完璧な執事服のまま、泥一つ跳ね返さない優雅な足取りで現場を巡回し、村人たちを冷徹かつ的確にマネジメントしていく。彼の「法と罰(恐れ)」があるからこそ、現場に一切の緩みが生じない。

キャルルの『圧倒的な突破力(武と情)』。

リバロンの『冷徹な管理能力(法と理)』。

そして、私の『見返りを求めないインフラ提供と段取り(愛と兵站)』。

この日、ポポロ村に、他国の大国すら羨むほどの『完璧な三頭体制トロイカ』が確立された瞬間だった。

***

「ふぅっ、順調ですね。皆さんに、冷たい陽薬草茶を配ってきます!」

私はタローマン製の軍手をはめ、荷車に乗せたお茶の樽を運ぼうとした。

しかし、ぬかるみに足を取られ、バランスを崩してしまう。

「あっ――」

倒れそうになった私を、力強い腕がふわりと受け止めた。

「おっと。危ないですよ、オリヒメ様」

「リ、リバロンさん……すみません」

私を抱きとめたリバロンは、そのまま私の足元のぬかるみに向かって、懐から純白のハンカチを取り出し、サッと投げ放った。

ハンカチは空中で闘気を帯びて硬化し、泥の跳ね返りを完璧に防ぐ『オーラ・シールド』へと変貌した。

「泥仕事は我々にお任せを。貴女のような気高く美しい方に、この地の泥は似合いません」

リバロンの黄金の瞳が、至近距離で私を見つめる。

「貴女がこうして汗を流し、村人のために動き回るお姿……実に胸が熱くなります。ですが、私としては、貴女を安全な場所で甘やかしたいという執事のさがが疼いて困るのですよ」

耳元で低く甘い声で囁かれ、心臓が大きく跳ねた。

「わ、私は平気ですから! むしろ、じっとしている方が落ち着かないんです」

顔を真っ赤にして慌てて離れようとする私を、リバロンは愛おしそうに見つめて微笑んだ。

夕暮れ時。

村のメインストリートには、タローマンの魔法セメントによって固められた、白く美しい一直線の道が完成していた。

これなら、どんな悪天候でも馬車がスムーズに通れる。

「やったー! オリヒメ、すごいよ! これで帝国の商人もバンバン村に来れるね!」

キャルルが泥だらけの顔で笑いながら、私に抱きついてくる。

「ええ。皆さんが頑張ってくれたおかげです」

誰も見捨てず、誰も蹴落とさず、ただ前を向いて知恵を絞るだけで、こんなにも確かな「形」となって結果が残る。前世の虚しい労働とは違う、確かな充実感が胸を満たしていた。

「素晴らしい成果です、オリヒメ様。キャルル様」

リバロンが、完璧な角度でお辞儀をして二人を労う。しかし、彼はおもむろに懐中時計を取り出し、少しだけ表情を引き締めた。

「ですが、お嬢様方。喜ぶのはここまでになさってください。……今夜は『満月の前夜』です。そろそろ、事後処理の謝罪書類のテンプレートを作成せねばなりませんから」

「え? 満月……?」

私が首を傾げると、キャルルが空を見上げながら、なぜか小刻みに震え始めていた。

「あはは……なんか、体の底からすっごい力が湧いてきた気がする……ウズウズする……っ!」

ウサギの耳が、危険なアンテナのようにピンと真っ直ぐに立ち上がっている。

アナステシア世界が誇る、最強の月兎族。その『真の恐ろしさ(ヤンデレ暴走回復魔神)』を私が知るのは、翌日の夜のことだった。

読んでいただきありがとうございます。

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