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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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EP 3

エンジェルすまーとふぉんと、温かい朝定食

ポポロ村での新しい生活が始まって数日。私は体力を回復させつつ、村の様子を見て回るようになっていた。

この村は本当に貧しい。国境の緩衝地帯という不確かな立地ゆえに、どの国からも積極的な投資をされず、治安もインフラも行き届いていない。特産品である「ポポロコーヒー」や「ポポロ・タバコ」の畑も、手入れが行き届かずに少し荒れ気味だった。

「オリヒメ、あんまり無理しちゃダメだよ?」

村長室のデスクに山積みにされた書類を片付けていたキャルルが、ピコピコと兎耳を揺らしながら私を振り返る。

「大丈夫ですよ、キャルル。これくらい、前世の残業に比べたら定時退勤みたいなものですから」

私は苦笑しながら、村の備品リストや収支報告書の整理を進めていた。

元近衛騎士隊長候補のキャルルは武力と政治的直感には優れているが、ちまちまとした事務作業は苦手らしい。前の村長がバックレたせいで、書類は完全に破綻していた。そこを私の前世の社畜OLスキル――「完璧な帳簿整理」と「在庫管理の段取り」で瞬く間に整理していくと、キャルルは「神様か!」と大喜びし、人質のように私を抱きしめて人参抱き枕をプレゼントしてくれた。

そんな中、私はある「現実」に直面した。

村の広場にある小さな救護所兼託児所。そこでは、国境の小競り合いや貧困で行き場を失った孤児や困窮者たちが、冷たいスープを分け合って飢えを凌いでいた。

「うぅ、お腹すいたなぁ……」

ガリガリに痩せた小さな人間の男の子が、膝を抱えて力なく呟いている。

アナスタシア世界の人間はタフだが、それは栄養があってこその話だ。まともな食事も摂れず、冷えた配給を待つ子供たちの姿を見て、胸が締め付けられるように痛んだ。

(前世の私と同じだ……)

深夜、一人ぼっちのオフィスで、お腹を鳴らしながらツナマヨおにぎりすら買いに行けずに働き続けたあの夜。冷え切った体と、世界から取り残されたような孤独。

「私に見返りなんて何もいらない。ただ、あの時の私と同じ悲しい思いを、この子たちにさせたくない」

私は純粋な「助けたい」という衝動に突き動かされ、男の子の前にそっと膝をついた。

「大丈夫だよ。いま、温かいものを準備するからね」

優しくその小さな手を握りしめ、頭を撫でた――その瞬間だった。

私のポケットの中で、あの『エンジェルすまーとふぉん』が突如として激しく脈動し、眩い光を放ち始めたのだ。

『ピロリロリロリ~ン♪♪』

頭の中に、大音量で脳天を突き抜けるようなファンファーレが響き渡る。

「えっ、なに……!?」

驚いて取り出すと、スマートフォンの画面に花火のようなエフェクトが乱舞し、輝かしいゴールドの通知文字が躍り出ていた。

『【速報】女神カグヤのゴッドチューブ配信チャンネル:『薄幸の人間に魂を売った元OLの無私の善行』が神界で大バズり! PV率が垂直上昇中! 初回評価バナークリック10万件突破!!』

『おめでとうございます! 善行ポイント【50,000 P】が加算されました!』

「ご、ごまん……?」

呆然とする私の目の前で、スマホの画面が切り替わり、詳細な「お取り寄せ通販カタログ」が展開された。

そこには、ルナミス帝国で大人気の24時間ファミレス『ルナミスキング(ルナキン)』のメニューや、ホームセンター『タローマン』の生活雑貨がずらりと並び、それぞれに必要なポイント数が記載されている。

(本当に、この端末から現代の品を取り寄せられるの……!?)

半信半疑のまま、私は目の前で腹の虫を鳴らしている子供たちのために、一番栄養があって心まで温まるメニューを必死に探した。

画面をタップする。

【ルナキン特製・朝定食(厚切りトースト、極上の目玉焼き、人参サラダ、ドリンクバー特製濃厚コーンスープ)/必要ポイント:1組 50P】

これだ。これを、今いる子供たち全員分の30組。

ポチッと、注文確定のボタンをタップした。

次の瞬間、空間が不自然に歪み、まばゆい魔法陣が地面に広がった。

「うわぁっ!? なんだこれ!?」

子供たちが目を見開いて後ずさる中、魔法陣から湯気が立ち上る。

そして――信じられないことに、そこには出来立てアツアツの、香ばしいバターの匂いを漂わせた『ルナキンの朝定食』が、美しいトレーに乗って完璧な状態で30人分、ずらりと出現したのだ。

「……すご、い。本物だ……!」

前世で何度も通った、あの懐かしいルナキンの朝食。

私は驚いている暇はないと、すぐにOL仕込みの迅速な段取りでトレーを差配した。

「みんな、冷めないうちに食べて! スープは熱いから気をつけてね。まずスープを一口飲んで、お腹を温めてからパンを食べるんだよ」

おろおろしていた子供たちが、差し出されたトーストに齧り付き、目玉焼きの黄身を零しながらスープを口に運ぶ。

「おいしい……! こんなに温かくて甘いスープ、初めて食べた!」

「お姉ちゃん、これ、すっごく柔らかいよ!」

子供たちの顔に、一瞬で生きる活力が、パァッと柔らかな笑顔が戻ってきた。それを見た他の困窮者たちも、涙を流しながらルナキン飯を頬張っている。

彼らの笑顔を見つめながら、私の胸の奥には、前世の過労死の闇を完全に吹き飛ばすような、温かい希望の灯がともっていた。

(この力があれば……私が私の意志で選んだ善意で、前世と違って、誰も見捨てずにみんなを幸せにできる)

「おやおや」

いつの間にか背後に立っていたリバロンが、黄金の瞳を細めてその光景を見つめていた。その手には、おかわりの陽薬茶が乗ったトレイがある。

「空間魔法による遠隔即時兵站補給……しかもルナミスの最高品質の調理品ですか。オリヒメ様、貴女が先ほどお使いになった奇跡は、かつて建国者・佐藤太郎様が示された【100円ショップの概念】の再来。いえ、それ以上に純粋で、恐るべき価値を持つ力です」

リバロンの鋭い嗅覚が、私から漂う「一点の曇りもない幸福の匂い」を捉えていた。

「これほどの力を、私欲のためではなく、ただ目の前の飢えた子供たちのために躊躇なく使い果たすとは……『道徳感情論』の極致。私は、これほど美しい魂を他に知りません」

リバロンは静かに私の前に傅き、私の手を取ってその甲に、至高の敬意を込めてそっと唇を寄せた。

「お嬢様。これより私は、貴女のその優しさが生む奇跡を、法と実務をもって完璧にマネジメントすることをお誓いいたします」

その過保護なまでの熱い視線に、私の顔がカッと赤くなる。

――その頃、はるか上空の天界では。

コタツ部屋で高級ハイブランドの着物を乱した女神カグヤが、エンジェルスマートフォンの管理画面を見ながら、サケスキーのグラスを片手に大歓声を上げていた。

「見ましたこと!? 視聴者の皆様方! これぞ純粋な愛と機転が紡ぐ、本物の『感動大作スローライフ』ですわ! ざまぁの前に、まずは圧倒的な『善行』で心を掴む……! どこぞの炎上神ワイズの胸糞ヤラセ配信なんて、この美しき物語の前には完全な三流ゴミ配信ですわよぉ! オーホッホッホ!!」

カグヤの叫びと共に、ゴッドチューブの「高評価」と「投げ銭」はさらに加速し、ポポロ村の運命を大きく変えようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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