EP 9
ネタキャベツの自爆暴露と、絶対無敵のスパチャアイドル
いよいよ『ポポロ村・アイドルフェス&大収穫祭』の本番の夜がやってきた。
タローマン製の『魔導特設ステージ』は、色とりどりのLED照明によって真昼のように輝き、その周囲をぐるりと囲むようにルナキンやタローソンの屋台が立ち並んでいる。
ジュウジュウと焼けるロックバイソンの肉の匂い、甘いハニーかぼちゃのシロップの香り。
村人たちだけでなく、近隣の町から噂を聞きつけてやってきた商人たちも大挙して押し寄せ、広場はかつてないほどの熱気と興奮に包まれていた。
そして、その熱狂の中心にいるのは、もちろん彼女だ。
「さあ皆様! 今夜は私に、皆様の愛と『ご縁』を全部預けてくださいませ! 究極のスパチャ要求ソング……『絶対無敵スパチャアイドル伝説!!』」
ステージのセンターで、芋ジャージ(少しだけスパンコールでデコレーションされている)を着たリーザが、マイクを握りしめて叫んだ。
ドッドッドッ! と魔導スピーカーから重低音が響き、魔法の光が弾ける。
『五円!五円!御縁!御縁!ハイ!』
『五円!五円!御縁!御縁!ハイ!』
リーザの圧倒的な声量と、人魚姫特有の『バフ(疲労回復・高揚感付与)効果』が乗った歌声が、会場全体を包み込む。
『「ちょっと重いかな?」って五十円!
「重すぎて無理!」って五百円!
身軽な愛を ジャラジャラさせて
私の配信 投げ込み カモン!』
「うおおおぉぉぉっ!! リーザちゃーーんっ!!」
「俺の財布の銅貨(五円玉)、全部持ってってくれぇぇぇっ!!」
歌の魔力によって日頃の商売の疲れや肩こりが一瞬で吹き飛んだ商人たちが、完全にトランス状態に陥り、ステージ前に設置された特大の『お賽銭箱』に向かって、雨あられのように硬貨を投げ入れ始めた。
『絶対無敵のスパチャアイドル!
穴の数だけ 幸せあげる!
五円で繋がる 無限のループ
ハイ!ハイ!スパチャよろしく!』
チャリーン! ジャラララッ! と、凄まじい勢いで硬貨が積もっていく。
「ふふっ……大成功ですね」
ステージ袖の特等席で、私は腕組みをしながら誇らしく頷いた。リーザの歌で癒やされた客たちは、その高揚感のまま周囲の屋台でルナキン飯やポポロ・コーヒーを爆買いし、村の経済は今、完璧なエコシステムとしてフル回転している。
「素晴らしい企画力です、オリヒメ様。あの強欲なだけの王女が、貴女の采配によって見事な『集客装置』へと昇華されましたね」
隣に立つリバロンが、私の用意した完璧なシステムに感嘆の声を漏らし、静かに微笑んだ。
だが、この圧倒的な成功を、暗がりから憎々しげに睨みつけている者たちがいた。
悪徳プロモーターのガレオンと、その手下たちである。
「……チッ。田舎の素人フェスが大盛況だと? ふざけやがって」
ガレオンは葉巻を噛みちぎらんばかりにギリッと歯を食いしばった。
「おい、やれ。あの忌々しい人間の女が用意したステージを、あの『ネタキャベツ』で地獄絵図に変えてやれ。臭いと暴露話で客がパニックになれば、俺たちが堂々としゃしゃり出て、フェスを中止に追い込んでやる」
「へへっ、任せてくだせえ社長」
手下の一人が、ドス黒い瘴気を放つ布袋から、不気味な緑色をした『腐敗特化型・ネタキャベツ』を取り出した。これをステージのど真ん中に投げ込めば、強烈な悪臭と共に、周囲の人間のありとあらゆる隠し事を大音量で暴露し始めるという、最悪の嫌がらせアイテムである。
手下はキャベツを片手に持ち、ステージに向かって大きく振りかぶった。
「そらよっ、お遊戯会はこれでおしまいだァ!」
――だが。
彼がキャルルも真っ青の投球フォームに入った、まさにその瞬間だった。
『……チリッ』
空気が、凍りついた。
手下の首筋に、見えない刃のような『極寒の殺意』がピタリと突きつけられたのだ。
「ヒッ……!?」
手下が震えながら視線を動かすと、ステージの袖――暗がりの中で、人狼族の執事、リバロンの黄金の瞳が、一切の感情を排した絶対零度の眼差しでこちらを睨み据えていた。
(動けば、死ぬ……っ!!)
圧倒的な格の違い。本物の捕食者に睨まれた小動物のように、手下の脳が恐怖で完全にショートした。
「あ、ああ、あああっ……!」
手下はパニックを起こし、大きく振りかぶっていた腕のコントロールを致命的に狂わせた。
手からすっぽ抜けたネタキャベツは、ステージとは全く違う方向――すなわち、すぐ真後ろに立っていたガレオン社長の顔面に向かって、猛スピードで飛んでいったのだ。
「あ? なにやって……」
ガレオンが口を開いた瞬間。
ベシャァァァァッ!!
腐敗特化型のネタキャベツが、ガレオンの顔面にクリーンヒットし、ド派手に弾け飛んだ。
「ギャアアアアッ!? く、臭ぇぇぇっ! 俺の顔に何しやがんだテメェ!!」
ガレオンが絶叫して顔を押さえてのたうち回る。
だが、ネタキャベツの真の恐怖はここからだ。
潰されたキャベツは、自己防衛本能をフル稼働させ、大陸の三面記事も顔負けの『命乞いの暴露話』を、魔導スピーカーにも負けない大音量で叫び始めたのだ。
『ギャァァァ! 食べないで! 命だけはお助けをぉぉ! 代わりに美味しいネタを提供しますからぁ!』
「な、なんだこのキャベツ、喋りやがった!?」
周囲の客たちが驚いて振り返る。
『そこの顔面キャベツまみれのガレオン社長! 実は裏帳簿をごまかして、過去五年間にわたって大規模な脱税をしてるゲス野郎ですよぉ!』
「なっ……!?」
『それだけじゃありません! 隣街の孤児院の土地を不法占拠して、非合法な地下カジノを作ろうと裏でヤクザと結託してるんです! 証拠の二重帳簿は、社長室の金庫の裏の隠し扉にありますぅ!』
「ば、馬鹿野郎!! 黙れっ、その口を閉じろぉぉぉっ!!」
ガレオンが涙目で叫びながらキャベツの残骸を踏みつけようとするが、キャベツの暴露は止まらない。
『あと、あの金髪、実はカツラですよぉ! 毎晩こっそり外して磨いてますぅ!』
「俺の秘密をバラすなぁぁぁっ!!」
ネタキャベツの悲痛な叫びは、フェスの歓声をも打ち消し、広場にいたすべての商人たちの耳にハッキリと届いた。
「……おい、今『脱税』と『孤児院の不法占拠』って言ったか?」
「ガレオン商会め、裏でそんなあくどい真似をしていたのか!」
客席にいたゴルド商会の腕利き商人をはじめ、ギルドの重鎮たちの顔色が一瞬にして険しいものに変わった。
「許せんな。我々真っ当な商人の風上にも置けないクズだ。……おい、すぐにルナミス帝国の経済監査局に魔導通信を繋げ! あのキャベツが言った『社長室の金庫の裏』を強制査察させろ!」
「ひっ……! ま、待て! 今のは誤解だ、このイカれたキャルベツの戯言で……!」
ガレオンが顔面を緑色に染め、カツラをずらしながら必死に弁明しようとするが、もはや後の祭りだ。商人たちの怒りの眼差しは、完全に彼を『社会的な死』へと追い込んでいた。
「クソッ、クソォォォッ! なんで俺がこんな目に……! ええい、こうなったらヤケクソだ! おい野郎ども、あのステージの芋ジャージ女を攫え! 強行突破だ!」
破れかぶれになったガレオンが、ナイフを抜いて手下たちに命令を下す。
だが。
「――月影流・流星脚ッ!!」
上空から、特注安全靴を履いたキャルルが、マッハの速度で急降下してきた。
ドゴォォォォォンッ!!
「ギャベェェェェッ!?」
キャルルの蹴りを顔面にモロに食らったガレオンと手下たちは、ボーリングのピンのように弾け飛び、「やな感じ〜〜っ!」という断末魔と共に、夜空の星となってポポロ村の彼方へと吹っ飛んでいった。
「ふんっ! オリヒメが作った最高のステージを、汚い手でぶち壊そうなんて百年早いよ!」
キャルルが着地し、トンファーを肩に担いでニシシと笑う。
「……お見事でした、キャルル様」
リバロンが静かに拍手を送る。彼は私を見下ろし、極上の笑みを浮かべた。
「他者を引きずり下ろそうと持ち込んだ悪意が、そっくりそのまま己の破滅を叫ぶスピーカーへと変わる。……我が主が直接手を下すまでもなく、因果とは斯くも美しく、愚か者を刈り取るものですね」
「ふふっ。まさか自分からネタキャベツの餌食になるとは思わなかったけど。これで、リーザちゃんの借用書の件も、法的に完全に無効になるわね」
私を「田舎者の素人商売」と見下していた悪徳プロモーターは、自分の持ち込んだ危険食材によって、自身の脱税と悪事を完膚なきまでに暴露され、商人たちの信用を完全に失って社会的に消滅した。
これこそが、誰も蹴落とさない、因果応報の『完璧なざまぁ』だ。
「さあ! ゴミ掃除も終わったことですし、フェスはまだまだこれからですわよーっ!!」
ステージ上では、何事もなかったかのようにリーザがマイクを握り直し、再び『Love & Money』のイントロが流れ始めた。
「オリヒメお姉様ーっ! 愛してますわーっ!!」
投げキッスを送ってくるリーザに、私は笑って手を振り返した。
ポポロ村の夜は、五円玉の雨と歓声に包まれながら、最高の大団円へと向かっていくのだった。
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