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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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EP 7

善行通販と完璧なエコシステムの構築

ガレオンたち悪徳プロモーターを追い払ってから数日。

ポポロ村は『アイドルフェス&大収穫祭』の準備に向けて、熱を帯びた活気に包まれていた。

「いいですか、皆さん! ただステージで歌ってもらうだけじゃダメなんです。このフェスを、村の特産品を売り込むための最大の起爆剤にします!」

私は村の集会所で、農家や村の代表者たちを前に、自作のプレゼン資料(手書きのフリップ)をバンバンと叩いていた。前世の社畜OL時代、何度も徹夜で作らされた展示会の企画書を思い出しながらの熱弁である。

「ライブの熱狂と、購買意欲は直結しています! ステージの周囲に屋台を配置し、ライブの高揚感のまま『ポポロ・コーヒー』や『月光薬』、そして『太陽芋の焼き芋』を買ってもらう『完璧な導線エコシステム』を作るんです!」

「お、おおぉ……っ!」

「オリヒメ様が言うなら間違いない! 俺たち、やりますよ!」

村人たちが目を輝かせて頷く。

「……見事な人心掌握とプレゼンテーションです。オリヒメ様の手にかかれば、この村の農民たちが、優秀なマーケターへと変貌していく」

壁際で控えていたリバロンが、深く感嘆の息を漏らした。

「我が主の知性は、どんな名将の戦術書よりも美しい。ああ……今すぐあのフリップを額縁に入れて、私の部屋に飾りたい衝動に駆られます」

「リバロン、あんたホントにオリヒメのことになるとネジ飛ぶよね」

隣で人参をかじっていたキャルルが呆れたように呟くが、私は気にせず『エンジェルすまーとふぉん』を取り出した。

「さあ、皆さん! 会場の設営に入りますよ!」

広場に出た私は、端末の画面をスワイプし、大量の善行ポイントを惜しげもなく投入した。

私がこれまで行ってきた「見返りを求めないインフラ整備」と「偽善を論破するコンプライアンス監査」は、神界のゴッドチューブで『痛快! 社畜OLの村おこし経営学!』として大バズりしており、ポイントは潤沢にある。

(ただ物を取り寄せるだけじゃない。この村の未来を作るための『仕組み』を取り寄せるのよ!)

私が注文を確定させた瞬間、広場の中央に巨大な魔法陣が展開された。

空間が歪み、ドサリ、ドサリと、見たこともない巨大な機材の山が出現する。

「これは……『タローマン製・組み立て式魔導特設ステージキット』と、『魔導PA(音響)機材一式』です!」

私が誇らしげに宣言すると、村人たちは口をポカンと開けてその黒光りする機材の山を見上げた。

ドワーフの魔導工学と、佐藤太郎がもたらした『現代のライブ機材の概念』が融合した、超高出力の魔導スピーカーと、魔力に反応して様々な色に輝くLED照明セットだ。

さらに、ステージを取り囲むように出現したのは、『ルナキン・屋台セット』と『タローソン・フェス用フードパック(からあげクン保温ケース等)』である。

「すっげえ……! なんだこの黒いスピーカーは!?」

「さあ、みんなで組み立てますよ! キャルル、骨組みの運搬をお願いできますか?」

「任せなっ! 月影流・運搬術!」

キャルルが特注安全靴で地面を軽く蹴り、重量数トンの鉄骨を片手でひょいひょいと運び、説明書通りに組み上げていく。圧倒的な武力が、平和利用(土木作業)においてこれほど頼もしいことはない。

「C班の皆さん、屋台の設営ラインが10センチずれています。導線が滞れば売上が3パーセント低下しますよ。……ネクタイ・ブレードで微塵切りにされたくなければ、ミリ単位で正確に配置しなさい」

リバロンが現場監督として、冷徹かつ完璧なマネジメントで村人たちを指揮する。

そして数時間後。

ポポロ村の広場に、見事な野外フェス会場が完成した。

「すごいですわ……! ここが、私の新しいステージ……!」

芋ジャージ姿のリーザが、完成したステージを見上げてブルブルと震えていた。

「オリヒメお姉様! ありがとうございます! こんな立派なステージ、ルナミス帝国の地下ライブハウスでも見たことありませんわ!」

「喜んでくれてよかったわ。リーザちゃん、ちょっとマイクのテストをしてみましょうか」

私がタローマン製の『魔導ワイヤレスマイク』を渡すと、リーザはおそるおそるマイクを握り、スイッチを入れた。

「あ、あー。テステス。……シーラン国から来ました、スパチャアイドル、リーザですの!」

『シーラン国から来ました、スパチャアイドル、リーザですの!』

彼女の透明感のある声が、魔導スピーカーを通じて、村中にクリアに、そして大迫力で響き渡った。

「ひゃああっ!? 声が、すっごく大きく聞こえますわ!」

「これなら、後ろの方にいるお客さんにも、あなたの歌と『バフ』がしっかり届くわ。これで、商人たちの疲労を癒やして、心ゆくまでフェスを楽しんでもらいましょう」

私が微笑むと、リーザは大粒の涙をポロポロとこぼし、マイクを握りしめたまま私にギュッと抱きついてきた。

「お姉様……! 私、私、絶対にこの恩は返しますわ! ファンからスパチャを搾り取り、村の屋台でポポロ・コーヒーを爆売れさせて、この村を大陸一の金持ち村にしてみせますのーっ!」

相変わらず強欲な宣言だが、彼女の目には一点の曇りもない本物の情熱が宿っていた。

「オリヒメ様」

リーザが感激してステージの感触を確かめに行っている間、リバロンが私に温かい陽薬茶を手渡してくれた。

「これだけの設備とシステムを構築しながら、貴女ご自身は、何一つ『私益』を得ようとしない。全ては村のため、そして、あの行き場を失った王女に『居場所』を与えるため……。貴女のその無私の優しさは、神すらもひれ伏すほどに尊い」

リバロンの黄金の瞳が、夕闇が迫る中で熱っぽい光を放っている。

「そ、そんな大げさな……。私はただ、みんなが笑顔で働ける環境を作りたかっただけですから。前世みたいに、誰かが理不尽に搾取されるような場所にはしたくないんです」

私が照れくさそうに言うと、リバロンは私の手の甲にそっと口づけを落とした。

「貴女が守るこの村の平穏は、私が執事としての命に代えても死守いたします。……明日の本番、貴女はどうか一番特等席で、ご自身の作った素晴らしい景色をご堪能ください」

低く甘い声が耳元をくすぐり、私の心臓がトクトクと早鐘を打つ。

(リバロンさんって、どうしていつもこんなに真っ直ぐに想いを伝えてくれるんだろう……)

前世では、誰にも見られず、誰にも感謝されずに過労死した私。

それが今、私の考えた企画が形になり、みんなが喜んでくれて、そして――こんなにも私を大切にしてくれる人が隣にいる。

「……ええ。明日のフェス、絶対に成功させましょうね」

私はリバロンに微笑み返し、翌日の本番に向けて、静かな熱気に包まれる村の広場を見渡した。

――その頃。天界の管理フロアでは。

『【神回確定】機転と愛のフェス会場設営! オリヒメちゃんの手腕に震えろ!』

女神カグヤがモニターの前で、「キタキタキタァァァ!」とペンライトを両手に持って激しくヲタ芸を打ちまくっていた。PVは鰻登りに上昇し、ワイズの炎上配信を完全に引き離している。

一方、村の入り口付近の暗闇には、ガレオンの手下たちが、ドス黒い瘴気を放つ『ネタキャベツ』を抱え、卑劣な笑みを浮かべて潜んでいた。

「ククク……ステージが立派になればなるほど、ぶち壊した時の絶望はデカくなるってもんだ」

彼らはまだ知らない。

この世界において、善意で構築された完璧なシステム(エコシステム)に対し、小手先の悪意や嫌がらせなど、自らを破滅させるための『自爆スイッチ』でしかないということを。

読んでいただきありがとうございます。

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