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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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20/42

EP 5

Love & Money(真の力と社畜OLの企画魂)

夕暮れ時。ポポロ村のプレハブ倉庫前は、一日の取引を終えた商人たちや、畑仕事から戻った農家の人々でごった返していた。

皆の顔には充実感が漂っているものの、長時間の肉体労働や長距離移動による深い疲労が色濃く刻まれている。

「ふぅ……今日もよく働いた。だが、この村への道は綺麗に舗装されてるとはいえ、馬車の長旅は腰にくるなぁ」

「ああ。ルナキンのドリンクバーで喉は潤ったが、体の芯の疲れまでは取れねえや」

広場のあちこちで、ゴキボキと腰を叩く音が聞こえる。

私が本日の帳簿を締め、窓口のシャッターを下ろそうとした、その時だった。

「皆様! 本日も一日、お疲れ様でしたの!」

広場の中央、空になったポポロ・コーヒーの木箱の上に、芋ジャージに健康サンダル姿の美少女――リーザが飛び乗った。

手には、どこから拾ってきたのか、木の枝で作った即席のマイクが握られている。

「な、なんだあの娘は?」

「朝、変な体操をやってた子じゃないか?」

ざわめく商人たちに対し、リーザは堂々と胸を張った。

「私に『ルナキン特大ハンバーグ定食』という最高のお仕事を与えてくださったオリヒメお姉様、そしてポポロ村の皆様に、感謝の気持ちを込めて! 今夜は私のゲリラライブをお届けしますわ!」

「ゲリラライブ?」

私が目を丸くしていると、隣でキャルルが「あーあ、始まっちゃったよ」とウサギ耳をペタンと寝かせた。

「オリヒメ、こいつの歌、初めてだっけ? ま、色んな意味で度肝を抜かれるから見てなよ」

リーザはコホンと一つ咳払いをすると、アクアブルーの美しい髪を夕風になびかせた。

その瞬間、彼女の纏う空気が、ただの「極貧ポイ活少女」から、紛れもない「ステージの女王」へと一変した。

シーラン国の人魚姫としての、本物の『魔力』が歌声に乗って放たれたのだ。

「それでは聴いてください! 究極のスパチャ要求ソング……『Love & Money』!!」

リーザが指をパチンと鳴らすと、どこからともなく、魔法の波紋のようなキラキラとした音が広場に響き渡った。

『愛! アイ! 愛! アイ! ラ〜ブラブ!』

(合いの手:Fu Fu!)

『マネー! マネ! ローン! ダーリン! グ!』

(合いの手:Yeah!!)

凄まじい声量と、透き通るような美しいメロディ。だが、その歌詞は圧倒的に生々しかった。

『朝に目覚ましが鳴ったわ(ジリリリ!)

私はまだ眠いわ(おはよー!)

家賃のために 節約しなきゃ(現実はシビア〜! ガマン!)

さぁ魔法の時間の始まりよ(Change The World!)

地味な私は 楽屋に置いて行くわ(バイバイ!)

マイクを握れば 私が女王様(オ・レ・の! 女王様ー!)』

驚くべきことに、リーザの歌声には、周囲の人々を強制的にコール&レスポンス(合いの手)に参加させる不思議な魔力があった。

疲労困憊だったはずの商人や村人たちが、まるで何かに取り憑かれたように、ネギやスコップをペンライト代わりに振り回し、野太い声で「オ・レ・の! 女王様ー!」と叫び始めたのだ。

『今夜も私の為に星が降る(ひかって! ひかって!)

全部手に入れるわ(強欲!)

夢も金貨も輝くもの(どっちも好きー!)

株券欲しい♪ お城も欲しい♪(Buy Now! Buy Now!)

貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける(Fuuu〜!)』

「な、なんて強欲な歌詞……!」

私が唖然としていると、背後からリバロンが「マキャヴェリもびっくりの剥き出しの欲望ですね」と呆れたように呟いた。

だが、歌がサビに突入した瞬間。

リーザの体から、淡い真珠色のオーラが広場全体へと波紋のように広がっていった。

『世界中が私の為に愛を叫ぶ(まわって! まわって!)

全部抱きしめるわ(最強!)

愛も富も同じ輝き(どっちも本物ー!)

ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪(All Need! All Need!)

貴方の全て(人生)を背負って生きていける(Fuuu〜!)』

「お、おおっ!?」

真珠色の光を浴びた瞬間、ペンライト代わりのスコップを振っていた村人たちが、驚きの声を上げた。

「す、すげえ! 肩の痛みがスッと消えやがった!」

「馬車の長旅で痛めた腰が……嘘みたいに軽いぞ!? なんだこの歌は!」

「……人魚姫の『バフ(支援)効果』だよ」

キャルルが人参をかじりながら解説してくれた。

「人魚の歌声には、聴く者の精神と肉体を極限まで活性化させる力があるんだ。あいつ、普段は廃棄弁当争奪戦とかアホなことばっかりやってるけど、ステージに立った時のあの魔力だけは、本物の国宝級なんだよね」

『だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

だから、何処までもついて来てね♡(一生ついていくよー!!)

ダーリン!(チュッ♡)』

リーザが最後に投げキッスを放つと、広場は割れんばかりの歓声と拍手、そして熱狂的なアンコールに包まれた。

「最高だーっ! 芋ジャージのお姫様ーっ!」

「俺の財布の銅貨、全部持ってってくれぇぇ!」

商人たちが熱狂し、木箱の前に次々と硬貨を投げ込み始める。

「はぁっ、はぁっ……! ありがとうございますの! 皆様からの『ご縁』、確かに受け取りましたわ!」

リーザは息を切らしながらも、投げ込まれた硬貨を芋ジャージのポケットに高速で回収し、満面の笑みを浮かべていた。

***

ライブ終了後。

熱気が冷めやらぬ広場の隅で、私はタオルと冷たい陽薬茶をリーザに手渡した。

「お疲れ様、リーザちゃん。すごい熱狂だったわね。それに、みんなの疲れまで吹き飛ばしちゃうなんて」

「ふふんっ! これが絶対無敵のスパチャアイドルの力ですわ!」

リーザはタオルで汗を拭きながら、得意げに胸を張った。

「でも、あの歌詞……『ファンから全部奪う』とか、『株券が欲しい』とか、アイドルにしては少し……強欲すぎない?」

私が苦笑しながら尋ねると、リーザの表情が、ふっと真剣なものに変わった。

「私がステージに立って歌うと、ファン達の『時間』を奪うことができるんですの」

「……時間を奪う?」

「そうですわ。みんな、仕事や生活で辛いことや、考えなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに。私が歌っているその瞬間だけは、全部忘れて、私だけを見てくれるんですの」

リーザの瞳の奥に、ただの純真さではない、ある種の『狂気』にも似た執着の炎が揺らめいた。

「だから、私は……ファン達の『世界』そのものになりたいんです。彼らの視線も、おスパチャも、心も、何もかもを全部奪い尽くして……その代わり、彼らの人生に『宇宙一の幸せな時間』を味わわせてあげるんです」

彼女は、首から下げた五円玉をギュッと握りしめた。

「私は運命、私は物語……だから貴方達の全てをちょうだい♡ Love & Money! これが私の、アイドルとしての誇り(プライド)ですわ!」

強欲で、傲慢で、けれど恐ろしいほどに純粋で、真っ直ぐな想い。

その言葉を聞いた瞬間。

私の中の、前世の『社畜OL・イベント企画魂』に、カッと火がついた。

(……これは、いけるわ!)

前世のブラック企業時代、私は自社製品の展示会やイベントの企画運営を一人で丸投げされていた。

そこで学んだのは、「ただ良いものを並べるだけでは人は集まらない」という冷酷な現実だ。人を呼び込み、熱狂させ、財布の紐を緩めさせるためには、圧倒的な『目玉キラーコンテンツ』が必要不可欠だった。

現在のポポロ村は、物流の拠点として大成功している。タローマンのインフラ、ルナキンの食事、ポポロ・コーヒーの品質。

だが、そこにリーザという『疲れを癒やし、熱狂を生み出す絶対的なアイドル』のステージを組み込めばどうなるか?

(ただの物流拠点じゃない。商人がこぞって訪れたくなる『娯楽と経済の一大エンターテインメント都市』を作れる……!)

私は『エンジェルすまーとふぉん』をガシッと両手で握りしめた。

「リーザちゃん。あなた、本当の『大舞台』に立つ覚悟はある?」

「えっ? お姉様、それはどういう……」

「数日後、この村の広場で『ポポロ村・アイドルフェス&大収穫祭』を開催します。特設ステージと音響機材は、私が全て用意するわ。あなたの歌で、この村の経済エコシステムを爆発させてちょうだい!」

私が目をギラギラさせて宣言すると、リーザの顔がパァァッと輝いた。

「フェス……私の、単独ライブフェスですの!? やりますわ! 喉から血が出るまで歌い上げて、商人たちから最後の一滴までスパチャを絞り尽くしてみせますのーっ!」

二人の間で、危険なビジネスの熱狂が交わされた。

「……はぁ」

その様子を少し離れた場所から見ていたリバロンが、深々と、しかしどこか嬉しそうなため息を吐いた。

「リバロン、どうしたの? 胃痛?」

隣で人参をかじるキャルルが首を傾げる。

「いいえ。……我が主は、本当に恐ろしいお方だと思いましてね」

リバロンは黄金の瞳を細め、燃え上がるような視線を私の背中へと注いだ。

「あのような規格外で扱いづらい王女(じゃじゃ馬)の欲望すらも否定せず、見事に『村の利益システム』へと組み込んでしまった。武力も魔法も使わず、ただその『知恵』と『采配』だけで、人の心と市場を完全に支配していく……」

彼は胸元に手を当て、陶酔したような低い声で囁いた。

「ああ。オリヒメ様。貴女が采配を振るうその美しい後ろ姿を見るたび、私の胸の奥で、貴女を誰の目にも触れさせず、私だけの檻(腕の中)に閉じ込めてしまいたいという『人狼の独占欲』が暴れ出しそうになるのですよ」

リバロンの極甘で危険な呟きは、フェスの計画に夢中になっている私の耳には、幸か不幸か届いていなかった。

***

――だが。

私たちが新たな経済の起爆剤に向けて動き出したその裏で、悪意の影は確実に牙を剥き始めていた。

「……聞いたか。あの芋ジャージの小娘、数日後にこの村で『アイドルフェス』とやらをやるらしいぞ」

広場の隅、ランタンの光が届かない暗がりに、ガレオン商会の手下たちが集まっていた。

社長ガレオンからの指示が出た。フェスの当日、あの人間の令嬢が用意したステージをぶっ壊し、村の信用をガタ落ちさせてやる。そして、多額の損害賠償と『借用書』を盾に、あの小娘を地下カジノへ引きずり戻すんだ」

男の一人が、懐からドス黒い瘴気を放つ『何か』を取り出した。

「社長が仕入れてくれた、最悪の嫌がらせアイテム……『ネタキャベツ』の腐敗特化型だ。こいつをステージに投げ込めば、臭いと暴露話でフェスは完全にぶち壊しだ。ククク……」

彼らの卑劣な罠が、ポポロ村の熱狂を冷水で消し飛ばそうと待ち構えている。

だが、彼らはまだ知らない。

この世界において、善意で動くオリヒメの背後には、決して手を出してはならない『因果応報の絶対法則』が働いているということを。

読んでいただきありがとうございます。

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