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婚約破棄された社畜令嬢、追放先の村でのんびり善行通販していたら、人狼の最強執事に溺愛されて捨てた国は自滅しました  作者: 月神世一


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EP 14

ルナキン特製ハンバーグと、親友からの贈り物

秋晴れの空が高く澄み渡る午後。

私たちは予定通り、ポポロ山のふもとにある見晴らしの良い丘へとピクニックにやってきていた。

「わぁっ! すっごーい! さすがリバロン、完璧なセッティングだね!」

キャルルがウサギ耳をピンと立てて歓声を上げる。

見渡す限りの草原に、上質な絨毯が敷かれ、パラソルで快適な日陰が作られていた。中央にはローテーブルが置かれ、美しいカトラリーが整然と並んでいる。

傍らでは、タローマン製の『アウトドア用魔導コンロ』が設置され、香ばしい煙を上げていた。

「オリヒメ様にふさわしい、最高のアウトドアをご提供するのが私の務めですから」

燕尾服から動きやすい特注のベスト姿に着替えたリバロンが、優雅に一礼する。

「さあ、お嬢様方。まずはオリヒメ様がお取り寄せされた、こちらの品から焼き上げましょう。……見事な肉ですね」

リバロンがトングで掴んだのは、私が善行ポイントを使って取り寄せた『ルナキン特製・ハンバーグ(焼成前)』だ。

ただのハンバーグではない。ロックバイソンの粗挽き肉に、エロ本を没収されて完璧な賢者モードに移行した『たまんネギ』が練り込まれている、ルナキンの中でも上位の絶品メニューだ。

ジュウウゥゥッ! という食欲をそそる音とともに、濃厚な肉汁が溢れ出し、ソーリーフ(ソース味の葉)で作られた特製デミグラスソースの香りが風に乗って広がる。

「うわぁぁ……いい匂い! 早く食べたい!」

「キャルル様、お待ちください。付け合わせの『太陽芋』のホイル焼きも今上がりますから」

完璧な手際で焼き上げられたハンバーグが、私たちのお皿にサーブされる。

ナイフを入れた瞬間、賢者モードの『たまんネギ』が自らの身を極限まで柔らかくして肉に馴染んでいるため、ホロホロと崩れる絶妙な感触が手に伝わってきた。

「いただきます……んっ! すっごく美味しい!」

「肉の旨味がぎっしりなのに、すっごく柔らかい! ソースも最高!」

キャルルと顔を見合わせて、思わず笑みがこぼれる。

前世の私は、休日のピクニックなんて夢のまた夢だった。休日は平日の疲労を泥のように眠って回復させるだけの日であり、食事といえばコンビニの栄養ゼリーか、冷え切った弁当しかなかった。

それが今、こんなにも美しい自然の中で、大好きな親友と、私を心から大切にしてくれる執事と一緒に、温かくて美味しいご飯を食べている。

「……夢みたい」

「オリヒメ様? お口に合いませんでしたか?」

私がポツリと漏らした言葉に、リバロンが少しだけ心配そうに眉を寄せる。

「違います、美味しすぎて感動してるんです。……私、今すごく幸せだなって」

私が照れ隠しに微笑むと、リバロンは黄金の瞳を柔らかく細め、胸に手を当てた。

「そのお言葉を聞けただけで、私は執事冥利に尽きます。……ですが、これはまだ『当たり前の日常』の始まりに過ぎませんよ。貴女には、過去のすべての理不尽を忘却させるほどの、圧倒的な幸福を浴び続けていただきますから」

相変わらずの極甘な宣言に顔が赤くなる私をよそに、キャルルがもごもごと口を動かしながら、ポンと手を叩いた。

「そうだ! オリヒメ、これあげる!」

キャルルは自分のポケットから、小さな包みを取り出して私に差し出した。

「え? 私に?」

「うんっ! いつも私や村のために頑張ってくれてるお礼。私が、オリヒメのためにチクチク縫ったんだよ!」

包みを開けると、そこには真っ白な布地に、可愛らしい『人参』のワンポイント刺繍が施されたハンカチが入っていた。

不器用な彼女が一生懸命縫ってくれたのが分かる、少しだけいびつだけれど、とても温かい刺繍。

「キャルル……これ、あなたが作ってくれたの?」

「へへっ、あんまり上手じゃないけど……。オリヒメがこれを使ってるのを見たら、私が『親友だぞ!』って、いつでも自慢できるでしょ?」

胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。

「ありがとう、キャルル。すごく嬉しい……私、一生大切にするね」

私がハンカチを両手で握りしめると、キャルルは照れくさそうにウサギ耳をパタパタと揺らし、「うんっ! 私もオリヒメを一生守るからね!」と満面の笑みを浮かべた。

温かい時間。

だが、その平穏の中で、私の社畜OLとしての「危機管理能力」が、ふと警鐘を鳴らした。

(……待って。今のポポロ村は、ものすごく豊かになりすぎているわ)

タローマンのインフラ、ルナキンの食事、そして月光薬と特産品の莫大な利益。

国境の緩衝地帯という曖昧な立地にあるこの村が、大国すら羨むほどの富を蓄え始めている。今はゴルド商会という後ろ盾と、キャルルやリバロンの圧倒的な『個の武力』で治安を維持しているが、もし、それを上回る『悪意』や『組織だった野盗』が村を襲ってきたら?

「オリヒメ様。いかがなさいました? 急に難しいお顔をされて」

リバロンが、私の表情の変化を敏く察知した。

「リバロンさん、キャルル。……少し、村の防衛網について提案があるんです」

私は『エンジェルすまーとふぉん』の画面を開いた。

「今、村の富はプレハブ倉庫を中心に集まっています。いくらお二人が強くても、寝ている間や、村の反対側から奇襲されたら対応が遅れるかもしれません」

「確かに。いくら私でも、寝込みを襲われたらウサギのパジャマ姿で戦うことになっちゃうしね」

「そこで、これを取り寄せようと思います」

私がカタログから選んだのは、『タローマン製・魔導防犯センサー』と『広域結界発生ネット(農業用防獣ネットの軍事転用版)』だ。

「このセンサーを村の境界線に一定間隔で設置します。不審な闘気や魔力、悪意を持った者が侵入した場合、即座に村の広場にあるスピーカーから警告音が鳴る仕組みです。そして、この結界ネットを村を囲うように張り巡らせれば、物理的な侵入を数分間は完全に足止めできます」

私の説明を聞いた二人は、目を丸くして顔を見合わせた。

「……素晴らしい」

リバロンが、深く、感嘆の吐息を漏らす。

「これだけの成功と平穏の中にありながら、決して慢心せず、常に最悪の事態を想定して『システム』を構築する。ドラッカーも絶賛するであろうリスクマネジメント能力です」

「オリヒメ、ホントにすごい! これなら、私がパジャマから着替える時間はバッチリ稼げるね!」

「私は戦えませんから、これくらいしかできませんけど……村のみんなが、安心して眠れるようにしたくて」

私が照れくさそうに笑うと、リバロンは片膝をつき、私の手の甲に口づけを落とした。

「貴女は守られるだけのお姫様ではない。このポポロ村の、そして私の、完璧で最高の『主』です。……午後、村に戻り次第、すぐに設置の段取りを組みましょう」

彼らに全幅の信頼を置かれ、私の心は誇らしさで満たされた。

――だが、その直後だった。

不意に、リバロンの黄金の瞳がスッと細められ、風の吹いてくる方角――村の北側へと向けられた。

同時に、キャルルのウサギ耳が、ピクッと不自然に跳ね上がる。

「……リバロン、今の」

「ええ、キャルル様。私の『鼻』も捉えましたよ。……ひどく泥臭く、吐き気を催すような『偽善と打算』の匂いを」

二人の空気が、先ほどまでの穏やかなものから、一瞬にして極寒の刃のように研ぎ澄まされたものへと変わった。

「え……? 何か、来るの?」

私が尋ねると、リバロンは立ち上がり、私を背中に庇うように位置を変えた。

「オリヒメ様。どうやら、貴女の素晴らしい危機管理能力は、最高のタイミングで発揮されたようです。……遠くから、数人の足音が近づいてきています。それも、ただの商人や野盗ではない。全身を『金で買ったような不自然な聖気』でコーティングした、悪臭のする連中が」

キャルルの心音を聴く耳と、リバロンの真実を嗅ぎ分ける鼻。

その最強の探知機が、同時に「危険」を告げていた。

(不自然な聖気……?)

私の脳裏に、嫌な予感がよぎる。

「大丈夫だよ、オリヒメ」

キャルルが、私の前に立って、力強く振り返った。

「どんな奴らが来ようと、私たちがオリヒメとポポロ村を絶対に守る。さっき貰ったハンカチに誓ってね!」

「ええ。我が主の築き上げたこの理想郷に、泥靴で踏み入ろうとする愚か者がいるのであれば……私が、完璧な『制裁マネジメント』を下して差し上げましょう」

神界で炎上神ワイズが放った刺客、偽善の勇者ゼロス。

彼の魔の手がポポロ村に届こうとしている。だが、私は不思議と恐怖を感じていなかった。

戦う力を持たない私でも、最強の親友と、最高の執事がいる。そして何より、私自身が機転を利かせて築き上げた『守るためのインフラ』があるのだから。

私たちはピクニックの道具を手早く片付け、来たるべき「嵐」を迎え撃つために、静かに村へと足を踏み出した。

読んでいただきありがとうございます。

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