第二十話 慧眼
森の主が倒れて、半日が過ぎた。
歓声は、とうに引いていた。代わりに村を満たしているのは、疲労と、傷の手当ての慌ただしさだ。
勝った。けれど、ただでは済まなかった。
壊された防壁。踏み潰された空き家。掘りかけの井戸は、化け物の死骸に半分埋まっている。
怪我人も多い。骨を折った者、壁に挟まれた者。
だが——死人は、出なかった。
その一点だけは、奇跡と呼んでいい。
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ヴァルガは、石蔵の奥で眠っていた。
セリアが付きっきりで看ている。あの傷で、まだ息がある。彼女の手が繋ぎ止めた命だ。
「もう大丈夫。山は、越えた」
セリアが、青い顔で、けれど確かに、そう言った。
眠るヴァルガの寝顔は、軽口を叩いていた時より、ずっと幼く見えた。
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俺は村のはずれに腰を下ろして、ようやく息をついた。
戦いの間、視界の隅で何度も光っていた画面を、まだ一つも開いていない。
今になって、それを開く。
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エルナ・ターン Lv5 → Lv8
経験値取得:
・森の主に初めて刃を通した(剣士系・特大)
・喉笛を貫き止めを刺した(剣士系・特大)
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ステータス上昇(剣士系):
STR 18 → 22
AGI 21 → 24
VIT 14 → 17
HP 27 → 34
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※次のスキル解放はLv10
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一気に、三段階。
化け物を仕留めたのだから、当然だ。あの一突き一突きが、彼女をまた、別の高みへ押し上げた。
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ハロルド・マーシュ Lv3 → Lv5
経験値取得:
・村人を率いて巨獣の罠を運用(統率・特大)
・崩れた戦線で避難を差配(統率・大)
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ステータス上昇(内政系/統率副):
INT 20 → 22
VIT 18 → 20
HP 28 → 31
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★Lv5到達:スキル解放
「小隊指揮」(統率副・人の群れを束ねる地力が上がる)
※対象者には何も見えていません
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ハロルドのスキルがまた一つ、戦える形に近づいた。自らは前に出ず、人を率いて束ねる将の道だ。
ヴァルガの画面も、眠る本人の知らないところで灯っていた。
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ヴァルガ・サンダ Lv1 → Lv3
経験値取得:
・全力の囮となり森の主の突進を誘った(諜報系・特大)
・死地を駆け抜け戦線を撹乱した(諜報系・大)
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ステータス上昇(諜報系):
AGI 18 → 20
DEX 18 → 20
VIT 10 → 12
HP 17 → 20
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★Lv3到達:スキル解放
「隠密・気配察知」(諜報系・気配を消し、また察する)
※対象者には何も見えていません
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死地を駆け抜けた、囮の経験値だ。
目を覚ましたら教えてやろう。お前の足はこれからもっと速くなる、と。
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そして、最後の一つ。
あの夜、図の前で灯ったきり、確かめずにいたものだった。
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クラウス・ヴェイン Lv1 → Lv3
経験値取得:
・森の主の正体と五十年前の真相を解き明かした(立案・特大)
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ステータス上昇(戦略・行政系):
INT 23 → 25
DEX 13 → 14
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★Lv3到達:特別なスキルが解放されました
【慧眼】(才能・真実・隠れた意図を見抜く。稀少)
※対象者には何も見えていません
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【慧眼】。
クラスの枠の外にある、見たことのない候補だった。これまで付与してきた誰の画面にも、現れなかったもの。
真実を、見抜く力。
あの老人が、ただの物知りから、一段、別のものへ踏み出した証だった。
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その当のクラウスは、倒れた森の主の死骸の傍らに立っていた。
節くれだった手で、岩のような甲羅をなぞっている。
「リョウよ。妙じゃ」
「何がです」
「この古傷——わしらが抉った、五十年前の傷だ。だが、よく見れば、こいつの体には、もっと新しい傷も、いくつもある」
クラウスの目が、細くなった。さっきまでの彼とは、見えているものが違う気がした。
「この化け物は、何かから逃げてきたのかもしれん。森の、もっと奥にいる、別の何かから」
俺は、思わず木立の奥へ目を向けた。底の見えない、深い緑。
森の主は、この地方で五十年、最強だったはずだ。その最強が、何かから逃げてきた——?
考えたくなかった。だが、考えずにはいられない。
今は、わからない。わからないことは、わからないまま、抱えておくしかなかった。
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森の脅威は去った。死人も出さずに済んだ。
俺ひとりなら、絶対に届かなかった結末だ。
付与した五人が、今日、村を救った。
——だが。
その夕方、村の物見が声を張り上げた。
「街道に、人馬——! 旗を、立ててる!」
森の脅威を越えたばかりの村へ、今度は人の側から、別の影が近づいてくる。
あの使者の言葉が、耳に蘇った。「近いうち、改めて人をよこす」と。




