7話 料理
「……なるほど」
わずかに間を置いて。
「いいだろう」
静かに、受け入れる。
「ただし」
視線が、逃げ場を塞ぐ。
「私の前で作れ」
厨房に立つのは、久しぶりだった。
見慣れているはずの場所なのに。
どうしてか、少しだけ遠い。
「使っていい」
後ろから、静かな声が落ちる。
振り返らなくても分かる。
見られている。
それだけで、指先が落ち着かない。
「……はい」
小さく答えて、前を向く。
深く息を吸う。
大丈夫。
やることは、ずっと同じ。
余計なことはしない。
ただ、食べる人のことを考えて——
手を動かす。
野菜を切る。
音が、やけに響く。
一定のリズムを刻むたびに、少しだけ心が整っていく。
味を、決める。
濃くしすぎない。
でも、薄くもならないように。
「……あの」
思わず、声がこぼれる。
聞いてほしいわけじゃない。
ただ、沈黙に耐えられなかった。
「こういうの、嫌いだったりしますか」
少しだけ、間。
背後の気配は、動かない。
「いや」
短く、返ってくる。
「構わない」
それだけ。
でも、その一言で。
少しだけ、肩の力が抜ける。
仕上げる。
最後に、もう一度だけ味を確かめる。
変わっていない。
ずっと、自分が作ってきたものと同じ。
それでも。
今日は、少しだけ違う。
皿に盛り付ける。
手が、わずかに震える。
振り返る。
リカルドは、変わらない距離で立っていた。
逃げ場のない位置で。
「……できました」
差し出す。
評価を、待つみたいに。
それしか、できなくて。




