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“味がしない”と捨てられた私、吸血鬼王に餌付けされてクイーンになりました  作者: 絹ごし春雨


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3話  いい子だ、と言われた日

「いい子だ。ちゃんと食べられるじゃないか」


最初に届いたのは、その声だった。


やわらかくて、静かで。

逃げ場がない。


気づけば、スプーンを持っていた。


口の中には、まだ温かさが残っている。


いつの間に、もう一口食べていたのかも分からない。


ただ——


その言葉を、もう一度聞きたくて。


「……あの」


視線を上げると、リカルドがこちらを見ていた。


じっと。


値踏みされている、というより。

何かを確かめられているみたいに。


「どうした」


「……もう少し、食べてもいいですか」


自分でも驚くくらい、素直な声だった。


ほんの一瞬の間。


それだけで、心臓がやけにうるさくなる。


「——ああ」


リカルドは、わずかに目を細めた。


「いいだろう」


その言い方に、ほっとする。


けれど同時に。


許された、というより——選ばれた気がした。


「ただし」


続く言葉に、息が止まる。


「急ぐな。壊したくはない」


やわらかい声音のまま。


けれど、どこか逃げ道を塞ぐように。


「君は、丁寧に扱う価値がある」


価値、なんて。


そんなもの、あると思ったことはなかった。


「……私なんて、たいしたことは」


言いかけた瞬間。


「誰にそう言われた?」


静かに、遮られる。


優しい声のはずなのに。


それ以上、言ってはいけない気がした。


「……いえ」


うまく笑えたか分からないまま、視線を落とす。


スープに映る自分は、少しだけ顔色がよくなっていた。


「味はどうだ」


不意に問われる。


「……おいしい、です」


「そうか」


短く返してから。


リカルドは、当たり前のように続けた。


「余計なものを足していない。今の君には、その方がいい」


その言葉に、少しだけ目を見開く。


今の君には。


まるで——最初から分かっているみたいに。


どれくらい食べられるかも。

何を与えればいいかも。


「……どうして」


思わず、こぼれる。


リカルドは、わずかに首を傾げた。


「簡単なことだ」


静かに、言い切る。


「見れば分かる」


その言い方が。


どうしてか——


少しだけ、怖かった。

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