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“味がしない”と捨てられた私、吸血鬼王に餌付けされてクイーンになりました  作者: 絹ごし春雨


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2話  食べられない私に、食べろと言う人

 朝、恐る恐る扉を開ける。


知らない部屋。

柔らかい寝台。

——ちゃんと眠ってしまったことに、少しだけ罪悪感があった。


廊下に出ると、メイドが一礼した。


「お目覚めでございますか」


丁寧すぎる対応に、思わず足が止まる。


どうして、こんなふうに扱われているのか分からない。

でも——だからこそ、じっとしているわけにはいかない。


「あの、私……何か、お手伝いできることは」


言いかけたところで。


「どうした? ……早いな」


声。


顔を上げる。


「あ……」


あの人が、いた。


白い光の中に立っているみたいに、輪郭がやわらかく滲んで見える。


昨夜と同じはずなのに。

どうしてか、少しだけ違って見えた。


胸の奥が、変にざわつく。


「……あの」


言葉が続かない。


視線を逸らそうとして、できなくて。


結局、そのまま口をついて出た。


「……なんだか、綺麗で」


自分でも、何を言っているのか分からない。


その人は、少しだけ目を細めた。


さらり、と白い髪が流れる。


「そうか」


興味があるのか、ないのか分からない声で。


でも、ほんのわずかに——楽しそうに見えた。


「食事の支度はできている」


その一言で、意識が引き戻される。


「来い」


短く、当然のように。


まるで——最初から、そう決まっているみたいに。




 歩きながら、その人は言った。


「リカルドだ」


「私の名だ」


「あ……リカルド、様?」


少し迷ってからそう呼ぶと。


彼は、ほんのわずかに目を細めた。


それだけの変化なのに。

なぜか——正解を選べた気がした。


「それでいい。リディア」


名前を呼ばれる。


ただ、それだけなのに。


胸の奥が、かすかに震える。


転がされるみたいに、やわらかくて。

甘いものを、無理やり溶かし込まれるみたいに。


逃げたいわけじゃないのに、落ち着かない。


廊下の奥、扉が開く。


ふわり、と温かい匂いが広がった。


思わず、足が止まる。


「……お腹が空いている顔だな」


図星を指されて、何も言えなくなる。


リカルドは気にした様子もなく、先に中へ入った。


「来い」


短い一言。


でも、逆らう理由が見つからない。


長いテーブルの端に、席が用意されていた。


自分のための場所だと、すぐに分かる。


「座れ」


言われるままに腰を下ろす。


こんなふうに、食卓につくのは久しぶりだった。


誰かに出された食事を、ただ食べるだけの席。


目の前に置かれたのは、湯気の立つスープと、柔らかいパン。


昨夜の、冷えた固いものとは違う。


それだけで、喉の奥が少しだけ熱くなる。


「食べろ」


促されて、スプーンを取る。


視線を感じる。


顔を上げると、リカルドがこちらを見ていた。


じっと。


まるで——


何かを確かめるみたいに。


「……どうした?」


思わず聞くと。


彼は、わずかに首を傾げた。


「いや」


静かに、微笑む。


「ちゃんと食べるか、見ているだけだ」


その言い方が、やけに優しくて。


でも同時に。


なぜか——逃げ場がない気がした。

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