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“味がしない”と捨てられた私、吸血鬼王に餌付けされてクイーンになりました  作者: 絹ごし春雨


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14話 あの人の秘密

 静かに、場を離れたあと。


しばらく、何も言葉が出なかった。


さっきの光景が、まだ頭の中に残っている。


終わった。


本当に、終わったのだと。


少し遅れて、実感する。


「……リディア」


名前を呼ばれる。


顔を上げると。


リカルドが、すぐ近くにいた。


いつの間にか。


逃げ場なんて、最初からない距離。


「顔色が悪いな」


静かに言われる。


責めるでもなく。


ただ、当然みたいに。


「いえ……」


否定しようとして。


言葉が続かない。


代わりに。


少しだけ、息が揺れた。


リカルドは何も言わず。


そのまま、手を伸ばす。


指先が、頬に触れる。


ひやりとした感触。


でも、不思議と嫌じゃない。


「無理をするな」


低く、落ちる声。


「もう、気にする必要はない」


その言葉に。


胸の奥が、ほどけていく。


「……はい」


小さく頷く。


それだけで、十分だった。


「来い」


短く、促される。


自然に、足が動く。


隣に並ぶ。


「今日は、少し軽いものにする」


当たり前みたいに言う。


「……はい」


また、同じ返事。


でも。


さっきとは違う。


どこか、安心している。


「よくやった」


ぽつりと、落ちる。


その一言で。


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


——ああ。


もう、大丈夫なんだと。


そう、思えた。





 食事のあと。


珍しく、すぐに席を立たなかった。


静かな時間が、流れる。


「……リディア」


名前を呼ばれる。


顔を上げると。


リカルドは、こちらを見ていなかった。


どこか遠くを見るような視線。


「人間は、面白いな」


ぽつりと、落ちる。


唐突な言葉に、少しだけ戸惑う。


「すぐに壊れるのに」


続く声は、変わらず穏やかで。


でも。


どこか、温度が違った。


「同じものを食べても、同じように生きられない」


静かに、言う。


「だから、無駄が多い」


否定しているようで。


でも。


完全に切り捨てているわけでもない。


「……あの」


思わず、声が出る。


リカルドが、ゆっくりとこちらを見る。


その瞳が。


一瞬だけ、暗く見えた。


「長く生きると」


小さく、息を吐く。


「ほとんどのことに飽きる」


淡々とした声。


まるで、どうでもいいことみたいに。


「味も、同じだ」


指先が、わずかに動く。


「どれも似たようなものに感じる」


だから——


言葉が、続く。


「面白くない」


その一言が。


やけに、重く落ちる。


静寂。


何を言えばいいのか、分からない。


でも。


「……でも」


気づけば、口を開いていた。


リカルドが、こちらを見る。


「食べて、くれました」


少しだけ、声が震える。


「ちゃんと、味を見て」


言いながら。


自分でも、何を言っているのか分からない。


それでも。


「……違った、んじゃないですか」


問いかけるように。


そっと、言う。


一瞬。


ほんの一瞬だけ。


リカルドの表情が、止まる。


それから。


わずかに、目を細めた。


「——ああ」


短く、答える。


「違った」


それだけで。


十分だった。

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