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“味がしない”と捨てられた私、吸血鬼王に餌付けされてクイーンになりました  作者: 絹ごし春雨


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13話  使えないのは、どっち

 選定は、数日かけて進められた。


その結果は——静かに、しかし確実に表れていた。


「……は?」


レオンの声が、わずかに強くなる。


「なんでこっちが落ちるんだよ」


目の前の書類を、苛立たしげに叩く。


「味は悪くなかっただろ」


周囲の人間は、視線を逸らす。


誰も、すぐには答えない。


その沈黙が、何よりの答えだった。


「……はっ、意味分かんねえ」


吐き捨てるように言う。


けれど、その声には。


ほんの少しだけ、焦りが混ざっていた。


「上の判断だ」


誰かが、短く言う。


それ以上は、説明しない。


レオンは舌打ちをして、書類を投げた。


「クソ……」


思い通りにいかない。


その苛立ちが、隠しきれていない。


廊下に出る。


歩く足取りが、少し荒い。


その先で。


ふと、立ち止まる。


「……お前」


見つけたのは、リディアだった。


「ちょうどいいとこにいるな」


いつもの調子。


でも。


どこか、余裕がない。


「聞けよ」


距離を詰めてくる。


逃げ場を塞ぐみたいに。


「お前、ここで何してんだ?」


値踏みするような視線。


けれど、その奥に。


焦りが、見えた。


「……少し、手伝いを」


曖昧に答える。


本当のことは、言えない。


言葉を選ぶ間にも。


レオンの視線が、刺さる。


「ふーん」


短く返して。


すぐに、続ける。


「なあ」


少しだけ、声を落とす。


「上のやつ、何考えてんだか分かるか?」


その問いに。


一瞬、言葉が詰まる。


分かる、とは言えない。


でも。


知らないとも、言い切れない。


「……いえ」


結局、それしか言えなかった。


レオンは、苛立たしげに息を吐く。


「使えねえな」


軽く言う。


でも。


その言葉には、以前ほどの重みがなかった。


——あのときと、同じはずなのに。


どうしてか。


少しだけ、違って聞こえた。


「……なあ」


レオンが、少しだけ声を落とす。


さっきまでの苛立ちとは、違う色。


「お前さ」


視線が、こちらに固定される。


「料理、できるよな」


分かりきったことを、わざわざ確認するみたいに。


「……はい」


小さく答えると。


「ならさ」


レオンは、当然のように続けた。


「ちょっと作ってくれ」


一瞬、言葉の意味が分からなかった。


「今回の選定、変な流れになっててさ」


軽く笑う。


でも、その奥に焦りが見える。


「お前の、ああいうの」


少しだけ言葉を探すようにして。


「……体にいい感じのやつ」


雑な言い方。


でも。


それが、自分の料理を指しているのは分かる。


「出してみたいんだよ」


さらっと言う。


まるで。


最初からそう決まっていたみたいに。


「評価は、俺がちゃんと見てやるから」


胸の奥が、わずかに揺れる。


——評価。


欲しかった言葉のはずなのに。


「どうせ暇なんだろ?」


軽く付け足す。


その一言で。


何かが、すっと冷える。


「……」


言葉が出ない。


目の前の男は。


何も変わっていない。


あの頃と、同じまま。


でも。


自分は——


「……すみません」


小さく、首を振る。


「それは、できません」


初めて。


はっきりと、断った。


「……は?」


レオンの顔から、笑みが消える。


「なんだよ、それ」


低く、言い直す。


「頼んでるんだけど」


さっきまでの軽さはない。


苛立ちが、そのまま出ている。


「……すみません」


もう一度、同じ言葉を返す。


それ以上、言うつもりはなかった。


「お前さ」


一歩、距離を詰めてくる。


逃げ場を塞ぐように。


「誰に物言ってるんだ?」


その言葉に。


一瞬だけ、思考が止まる。


——違う。


前と、同じじゃない。


「……私は」


喉が、少しだけ震える。


それでも。


「頼まれて作っています」


はっきりと、言い切る。


その瞬間。


レオンの表情が、歪んだ。


「は?」


理解が追いつかない、という顔。


「調子乗るなよ」


吐き捨てる。


「お前みたいなのが、選ばれるわけないだろ」


その言葉は。


もう、刺さらなかった。


ただ。


遠くで聞こえるみたいに、薄かった。


「——そうか」


別の声が、落ちる。


空気が、変わる。


レオンの動きが止まる。


ゆっくりと、振り返る。


「……リカルド様」


声が、わずかに揺れる。


さっきまでとは違う種類の緊張。


リカルドは、変わらない表情で立っていた。


何も知らないように。


でも。


全部、見ていたみたいに。


「選ばれるわけがない、か」


静かに、繰り返す。


その声音に、感情はない。


ただ。


否定の余地もない。


「判断は、すでに下している」


短く、告げる。


「今回の選定から外れたのは、お前だ」


その一言で。


空気が、完全に凍る。


「……は?」


レオンの声が、掠れる。


「な、なんで——」


「理解できないなら、それまでだ」


遮られる。


やわらかく。


けれど、終わらせるように。


「ここに、お前の役割はない」


はっきりと、言い切る。


それで、終わりだった。


誰も、何も言えない。


レオンだけが。


その場に取り残された。

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