表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“味がしない”と捨てられた私、吸血鬼王に餌付けされてクイーンになりました  作者: 絹ごし春雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/17

10話  選ばれたのは、地味な一皿

「次だ」


レオンが手を振る。


運ばれてきた皿は、他と比べてずいぶん控えめだった。


香りも、強くない。


けれど。


どこか、落ち着く匂いだった。


リディアの指先が、わずかに強張る。


似ている。


自分が作るものと。


レオンは一瞥して、鼻で笑う。


「……地味だな」


そのまま、皿を見下ろす。


軽く肩をすくめる。


「悪くはないけど、上には置けない」


簡単に、切り捨てる。


「次」


その一言で、流そうとした瞬間。


「待て」


静かな声が落ちた。


空気が、変わる。


レオンの動きが止まる。


「……リカルド様?」


全員の視線が、そちらに向く。


リカルドは一歩、前に出た。


何の迷いもなく、その皿を取る。


一口。


ゆっくりと、口に運ぶ。


誰も、音を立てない。


ただ、その一瞬を待つ。


咀嚼して。


飲み込んで。


「——これだな」


ぽつりと、落ちる。


それだけで。


場の空気が、揺れた。


レオンが、言葉を失う。


「余計なものがない」


淡々と続ける。


「体に負担をかけない」


視線が、皿に落ちる。


「毎日でも食べられる」


その一つ一つが。


さっきの評価を、静かに否定していく。


「こういうものを残すべきだ」


はっきりと、言い切る。


沈黙。


誰も、何も言えない。


「……え、いや」


レオンが、かすかに声を出す。


「でも、それじゃ——」


「理解できないか?」


遮られる。


穏やかな声で。


けれど、逃げ道を消すように。


「なら、お前はここに必要ない」


その一言で。


すべてが、決まった。


ざわめきが、ゆっくりと広がっていく。


選ばれた皿。


その見た目は、やっぱり派手じゃない。


それでも。


どうしてか、目が離せなかった。


「……」


リディアは、息を止める。


似ている。


ただ似ている、だけじゃない。


野菜の切り方。


火の通し方。


味の重ね方。


どれも——


見覚えが、あった。


「……まさか」


小さく、呟く。


喉が、少し乾く。


そんなはず、ない。


ここに並んでいるのは、選ばれた料理人たちのものだ。


自分のものが、混ざるはずがない。


でも。


リカルドは、あのとき言った。


「私の前で作れ」と。


——あれは。


ただ、食べるためじゃなかったのかもしれない。


指先が、わずかに震える。


視線が、皿から離れない。


「……あれ」


言葉が、形にならない。


胸の奥で、何かが繋がる。


ゆっくりと。


確実に。


「……私の」


気づいてしまった。


あの料理は。


自分が、作ったものだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ