10話 選ばれたのは、地味な一皿
「次だ」
レオンが手を振る。
運ばれてきた皿は、他と比べてずいぶん控えめだった。
香りも、強くない。
けれど。
どこか、落ち着く匂いだった。
リディアの指先が、わずかに強張る。
似ている。
自分が作るものと。
レオンは一瞥して、鼻で笑う。
「……地味だな」
そのまま、皿を見下ろす。
軽く肩をすくめる。
「悪くはないけど、上には置けない」
簡単に、切り捨てる。
「次」
その一言で、流そうとした瞬間。
「待て」
静かな声が落ちた。
空気が、変わる。
レオンの動きが止まる。
「……リカルド様?」
全員の視線が、そちらに向く。
リカルドは一歩、前に出た。
何の迷いもなく、その皿を取る。
一口。
ゆっくりと、口に運ぶ。
誰も、音を立てない。
ただ、その一瞬を待つ。
咀嚼して。
飲み込んで。
「——これだな」
ぽつりと、落ちる。
それだけで。
場の空気が、揺れた。
レオンが、言葉を失う。
「余計なものがない」
淡々と続ける。
「体に負担をかけない」
視線が、皿に落ちる。
「毎日でも食べられる」
その一つ一つが。
さっきの評価を、静かに否定していく。
「こういうものを残すべきだ」
はっきりと、言い切る。
沈黙。
誰も、何も言えない。
「……え、いや」
レオンが、かすかに声を出す。
「でも、それじゃ——」
「理解できないか?」
遮られる。
穏やかな声で。
けれど、逃げ道を消すように。
「なら、お前はここに必要ない」
その一言で。
すべてが、決まった。
ざわめきが、ゆっくりと広がっていく。
選ばれた皿。
その見た目は、やっぱり派手じゃない。
それでも。
どうしてか、目が離せなかった。
「……」
リディアは、息を止める。
似ている。
ただ似ている、だけじゃない。
野菜の切り方。
火の通し方。
味の重ね方。
どれも——
見覚えが、あった。
「……まさか」
小さく、呟く。
喉が、少し乾く。
そんなはず、ない。
ここに並んでいるのは、選ばれた料理人たちのものだ。
自分のものが、混ざるはずがない。
でも。
リカルドは、あのとき言った。
「私の前で作れ」と。
——あれは。
ただ、食べるためじゃなかったのかもしれない。
指先が、わずかに震える。
視線が、皿から離れない。
「……あれ」
言葉が、形にならない。
胸の奥で、何かが繋がる。
ゆっくりと。
確実に。
「……私の」
気づいてしまった。
あの料理は。
自分が、作ったものだと。




