表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界物理  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/110

犠牲と責任転嫁 — 理解不能のスケープゴート

4-1. 暴動の責任は学術側へ


瓦礫となった教会前で、警備用魔導灯が街路を照らしていた。

群衆は散った。死傷者の処理は終わった。

だが、誰も暴動を起こした「原因」へ触れない。


宗教勢力は沈黙を保った。

祝祷が崩壊した理由を説明できないからだ。

しかし同時に「神が沈黙した」などとは口が裂けても言わない。


市民は理解できないものを責めない。

理解できないものは恐怖であって、怒りの対象ではない。


怒りは近くの標的へ落ちる。


新聞社は震えるメインタイトルを掲げる。


「学院研究者の怠慢、都市魔術の安全性を崩壊」


論理は単純だ。

暴動の夜を説明できる語がほしい。

人は神に裏切られたと認めるより、学者の失態を信じる方が楽だ。


委員会は結論を用意する。


「研究成果の公開過程に倫理配慮が欠けていた」

「社会的影響を軽視した研究者の責務」

「技術制御の不備」


真実はどうでもよかった。

責任が認知できる形を取っていることが重要だった。


4-2. ケイの悪魔化


ケイは一度として憎悪を向けられる意図を持たなかった。

証明したのはただのモデル、ただの式。

祈りは場、紋章は拘束子、魂は媒介。


それだけだった。


しかし社会は理解できない真理を、理解できる神話に置換する。


「世界を滅ぼした才能」


映像では、ケイは無表情のまま講演を終える。

その沈黙に、視聴者は恐怖を見た。

冷淡、無慈悲、非人間的。

感情を持たない“災害”の仮面。


誰かが呟く。


「悪魔のほうがまだ心を持っている。」


火に投げ込まれた神性の残骸から、

ケイは超常の敵へ再定義された。

彼は理解不能だからこそ、悪として完成する。


4-3. ラクシアとニアの吊し上げ


公開審問は演劇だった。

議場の大理石は、血を吸わない代わりに沈黙を吸う。

傍聴席は怒りを求めて満席だった。


ラクシア教授は、疲弊した顔のまま立つ。

その名は魂鎖研究からケイを救い出した英雄として知られていた。

今は倫理の象徴として、断罪される番だ。


「学生への監督を怠った。」

「危険な思想を野放しにした。」

「社会調整を無視した。」


無数の言葉が矢のように投げられる。

彼女は反論しない。

反論が届く相手はいないと知っていた。


ニアは別室で尋問を受けた。

財務担当、供給管理者。

人々の怒りに最も近い存在だ。


「魂鎖資源の管理失敗」

「安全弁を設けなかった」

「市場制御を怠った」


彼女は静かにメモを伏せた。

計算では救えない。

数値は人間の恐怖を抑圧できない。


二人は異なる役割で吊るし上げられた。

ラクシアは倫理の代償。

ニアは市場の失敗。

社会が理解できる責任者は彼女たちだけだった。


真犯人は理論でも、魔術でも、神でもない。

世界そのものの脆さ。


だが群衆はそれを吊るせない。

だから、理解できる人間を犠牲にする。


ケイが提示した真理は、社会へ届かなかった。

届いたのは恐怖だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ