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異世界物理  作者: 南蛇井


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83/110

ケイの扱い — 理解できないものは収容対象

3-1. 研究班隔離命令


暴動鎮圧が始まったその夜、研究棟の最上階に冷たいアラートが響いた。

赤色灯が床を滑り、壁面の魔力測定パネルに警告が走る。


「軍制御局指令。対象コード:K-01。

超臨界炉演算体。隔離プロトコル開始。」


機械的な声は、ケイの姓も名も呼ばない。

人間性を指示する単語は一切ない。

ただ「演算体」。

人ではなく、計算結果を吐き出す器。


研究員たちが顔を見合わせる。

誰もが理解していた。

軍の評価軸は倫理でも成果でもない。


制御可能性。


ケイは立ち上がってすらいない。

端末に指を置いたまま、淡々とアルゴリズムの修正を続けている。

軍用ブーツが床を踏み鳴らす音が近づいても、反応はない。


彼にとって、周囲の動揺はノイズだ。

次の理論検証に比べれば、世界そのものが副作用でしかない。


3-2. 学院の抵抗


正門前。

防弾装甲の部隊輸送車の列が、学院の石畳を覆っていた。

魔導通信塔の光が、夜気を切り裂き、

軍の標章だけを青白く浮かび上がらせる。


ラクシア教授は走った。

研究者としての威厳も、教授会の権威も、今は意味を持たない。

彼女の喉は裂ける寸前だった。


「彼は研究生だ。発見者だ。脅威ではない!」


彼女の叫びは、理性の悲鳴であって感情の絶叫ではなかった。

教育者としての保護、研究者としての誇り、

そして人間としての尊厳。


それら全てを束ねて、彼女は軍の前に立ちはだかる。


だが軍指揮官は歩みを止めなかった。

鋼の軍靴が石畳に律動を刻む。


「発見は兵器の前段階だ。」


声は静かだった。

説得ではなく、事実の宣告。

軍にとって悟りは武器、理解は支配、真理は弾頭。


ラクシアは一瞬だけ息を飲む。

その瞬間、彼女は理解した。


軍はケイを救う必要はない。

保護は危険性の管理と同義だ。

価値ある発明ほど、社会から隔離される。


3-3. 魔術炉の封印


研究棟の地下。

魔術炉の中心、青白い光を生む位相コアが静かに脈動していた。

数百年続いた学院研究の結晶。

魂鎖理論を駆逐した新世界の心臓部。


封印班が到着した。

耐魔コーティングの板が次々と嵌め込まれる。

炉心の波形が抑圧され、共鳴が息絶える。


「位相固定値、沈静。

封印環、閉鎖完了。」


それは科学ではなく、

国家が自らの恐怖を箱に詰める儀式だった。


同時に、学院のサーバからデータが吸い上げられる。

ケイの論文、演算ログ、位相拘束図、実験映像。

すべてが軍の暗号領域へ転送される。


自由研究は国家機密へ落下した。


研究員たちは端末を奪われ、ラボから追い出される。

魔術文明を革新するはずだった成果は、

兵装開発という静かな獄へと沈む。


夜が更け、都市の一角だけ異常に静かだった。

軍の車列が学院を離れる。

車内の収容セルにはケイが座っている。


彼は顔を上げない。

ただ端末へ指を動かす。

新しい仮説を組み立てている。


人々が彼を理解できないように、

彼もまた人々を必要としていなかった。


世界が彼を恐れるほど、

彼は世界を計算の一項目として扱うだけだった。

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