ケイの扱い — 理解できないものは収容対象
3-1. 研究班隔離命令
暴動鎮圧が始まったその夜、研究棟の最上階に冷たいアラートが響いた。
赤色灯が床を滑り、壁面の魔力測定パネルに警告が走る。
「軍制御局指令。対象コード:K-01。
超臨界炉演算体。隔離プロトコル開始。」
機械的な声は、ケイの姓も名も呼ばない。
人間性を指示する単語は一切ない。
ただ「演算体」。
人ではなく、計算結果を吐き出す器。
研究員たちが顔を見合わせる。
誰もが理解していた。
軍の評価軸は倫理でも成果でもない。
制御可能性。
ケイは立ち上がってすらいない。
端末に指を置いたまま、淡々とアルゴリズムの修正を続けている。
軍用ブーツが床を踏み鳴らす音が近づいても、反応はない。
彼にとって、周囲の動揺はノイズだ。
次の理論検証に比べれば、世界そのものが副作用でしかない。
3-2. 学院の抵抗
正門前。
防弾装甲の部隊輸送車の列が、学院の石畳を覆っていた。
魔導通信塔の光が、夜気を切り裂き、
軍の標章だけを青白く浮かび上がらせる。
ラクシア教授は走った。
研究者としての威厳も、教授会の権威も、今は意味を持たない。
彼女の喉は裂ける寸前だった。
「彼は研究生だ。発見者だ。脅威ではない!」
彼女の叫びは、理性の悲鳴であって感情の絶叫ではなかった。
教育者としての保護、研究者としての誇り、
そして人間としての尊厳。
それら全てを束ねて、彼女は軍の前に立ちはだかる。
だが軍指揮官は歩みを止めなかった。
鋼の軍靴が石畳に律動を刻む。
「発見は兵器の前段階だ。」
声は静かだった。
説得ではなく、事実の宣告。
軍にとって悟りは武器、理解は支配、真理は弾頭。
ラクシアは一瞬だけ息を飲む。
その瞬間、彼女は理解した。
軍はケイを救う必要はない。
保護は危険性の管理と同義だ。
価値ある発明ほど、社会から隔離される。
3-3. 魔術炉の封印
研究棟の地下。
魔術炉の中心、青白い光を生む位相コアが静かに脈動していた。
数百年続いた学院研究の結晶。
魂鎖理論を駆逐した新世界の心臓部。
封印班が到着した。
耐魔コーティングの板が次々と嵌め込まれる。
炉心の波形が抑圧され、共鳴が息絶える。
「位相固定値、沈静。
封印環、閉鎖完了。」
それは科学ではなく、
国家が自らの恐怖を箱に詰める儀式だった。
同時に、学院のサーバからデータが吸い上げられる。
ケイの論文、演算ログ、位相拘束図、実験映像。
すべてが軍の暗号領域へ転送される。
自由研究は国家機密へ落下した。
研究員たちは端末を奪われ、ラボから追い出される。
魔術文明を革新するはずだった成果は、
兵装開発という静かな獄へと沈む。
夜が更け、都市の一角だけ異常に静かだった。
軍の車列が学院を離れる。
車内の収容セルにはケイが座っている。
彼は顔を上げない。
ただ端末へ指を動かす。
新しい仮説を組み立てている。
人々が彼を理解できないように、
彼もまた人々を必要としていなかった。
世界が彼を恐れるほど、
彼は世界を計算の一項目として扱うだけだった。




