95話「小雨の魔女の過去」
「私はかつて、皆から嫌われる魔法使いだったの。あれはまだシェルロス照国とラルーダ草国が合併する前、私がシェルロスで傭兵として生きてた頃の話よ」
「魔法使いの傭兵ですか、確かにその時代にはあまり認められなかったでしょうね、」
シェルロスラルーダ大国がまだ、二つの国に分かれていた百年以上前、大陸の魔法使いの数はまだ少なかった。何故なら魔法に関する教育機関が存在しておらず、一部の権力を持った者たちが魔法の術式を独占し、魔法使い一人が大きく力を握っていたからである。
だから当時の魔法使いは、一般人からしたら上位存在の様に認識され、恐れられていたのだ。
「そもそも私はたまたま運が良く、家の書斎で大昔の属性魔法に関する記述が書かれた本を見つけたの。そして魔法使いになって自由に生きたいと願った。ほら、北方の国は貴族社会じゃない?貴族だった私はそのまま会った事もない人と結婚させられそうだったの」
「つまり魔法を学んで家から飛び出したんですか?」
「そうよ、今考えるとあまりにも幼稚だったわ。周りは皆んな貴族の生き方を受け入れていたのに、私には耐えられなかった。そして家を飛び出した私は魔法が使えるから傭兵として戦う事にしたの、家族にもバレないようにするためにね」
「分かりますよ。実際大体私も同じですし、、」
そしてパラキースは傭兵時代の話をし始めた。彼女の表情は暗く、過去を思い返すように窓の外を眺めた。
「おい魔法使いさんよぉ。あんた可愛い顔してんじゃねえか。傭兵としてやってくよりも俺の女になった方がいい。な?」
「貴方のような汚れた男のものになるなんて嫌に決まってるじゃない。どっか行きなさいよ、隠れてる貴方たちもね」
とある日、傭兵の仕事が一件落着し、傭兵たちは皆集まって乾杯していた。するとパラキースは一人の男に呼び出され、そう言われたのだ。
「流石魔法使いだ。まあそう言うと思ったんだよ、お前ら!行け!」
「多数で襲って来るなんて、卑怯にも程があるわ!」
パラキースは逃げ、追って来る八人の男たちに魔法を放って行った。何とか四人は動けなくしたが、パラキースは疲れてしまい、崖沿いまで追い詰められてしまった。
「お前のせいで俺たちの報酬が減ったんだ。落とし前は身体で払ってもらおうか、へへ」
「何故貴方たちは私を襲おうとするの?女だから?それとも魔法使いだから?」
「両方に決まってるだろうが。お前みたいな珍しいやつは誰だって興味を持つ。だから狙われるのは当然なんだよ!」
「そう、やはり私は自由には生きられない運命だったのね。でも貴方たちにやられて終わる程、私はつまらない人間じゃないわ」
そしてパラキースは崖へと落ちていった。崖の下には川が流れていて上手く着地をして流されていった。他の傭兵たちは飛び込む勇気などなく、見送るしかなかった。
パラキースはしばらく流されていった後、水魔法を応用して陸へと上がることが出来た。
「はぁ、はぁ、私は魔力はあっても体力はないのよ。とりあえず安全な場所を探さなきゃ、」
夜の森は、魔物が現れても対処出来ないため、パラキースは川沿いを歩いて岩陰でキャンプをしようとした。しかし、薪が見つからないため、魔法で火を付ける事が出来ない。そして薪を探し続けているとパラキースの身体は次第に動かなくなっていった。
「そうよね、川に入って濡れたんだもの。低体温症になって当然だわ。どうしましょう、ここで意識を失ったら間違いなく死んでしまう」
パラキースは悩んだ結果、代償を支払って身体を無理やり動かす前文明の魔法を使った。それは現在、伝説の魔法が一般魔法とされていた時代に古代魔法と呼ばれた今では存在を知る者がエリセツア含め、全くいない魔法だった。パラキースはそれをたまたま家の書斎で見つけたが、解読に一年かかる程の難度の書物だった。
そして代償に使った物は寿命と心だった。寿命は一般人に比べて魔法使いの方が多いので、パラキースは気にしなかったが、心を代償に使うと言う事をその時はまだ理解していなかった。
「大丈夫ですか」
数時間、パラキースがひたすら川沿いを歩いていると森の中からみすぼらしい服装の大柄な男が出てきた。
「貴方は誰?」
「僕の事は今どうでもいい。君は酷い顔色をしている。僕の家で休みなさい」
パラキースは敵意を感じなかったので、着いて行く事にした。しかし、代償を支払ったとは言え、本来死んでもおかしくない状態だったので、倒れそうになり男に肩を貸してもらった。
日は昇り、パラキースは眠りから覚めた。しかし身体は重く、動く事が出来なかった。
「動かないで。君は疲労が溜まっていたのだろう。しばらく家で休むといい」
「貴方は何故私を助けたの?私は見ての通り魔法使いよ」
「関係ないさ。僕は一人で暮らしているからたまには人と関わらないとと思ってね。ただの気まぐれだ」
そうしてまたパラキースは眠りにつき、日は落ちて行った。男は昼間どこかに行っていて、夕日が見えなくなって帰ってきたと同時にパラキースも目覚めた。
「起きたか、そう言えば名前を聞いていなかったな。僕はダンテ。君は?」
「私はパラキース。今更だけれど助けてくれてありがとう。動けるようになったら恩は返すわ」
「気にするな。僕は夕飯を作る」
そしてダンテは夕飯を振る舞って、パラキースは喜んだ。そうした日々が数日続き、彼女は動けるようになっていた。パラキースは畑仕事を手伝い、ダンテの負担を減らせるように努力した。その結果、二人の過ごす日々は日常となっていった。
「私、どうやら貴方に懸想してしまっているみたい」
「そうか、僕は君を一目見た時から惚れていたが」
とある日の夕食で緊張しながらもパラキースはそう告げ、ダンテもそう返事をした。そして二人は幸せを手に入れた様に錯覚してしまった。
次の日、パラキースは彼の家から姿を消した。
「まさかあの時の代償における『心』と言うのは、誰かを好きになってはいけないというものだったの?」
古代魔法の、寿命と心を代償にすると言うのは誰かを想う心を手に入れる事によって寿命が縮むと言う事だった。それを知らないパラキースは寿命が縮む、つまり老化していき肌はしわしわで、息切れが止まらず、ダンテに追いつかれるのにそう時間はかからなかった。




